伊藤清博士は、確率論の先駆者の一人であり、伊藤解析の創始者である。
最初1942年に日本語で発表された確率微分方程式論は画期的な業績であり、
これによって非決定論的でランダムな時間発展の記述が可能となった。いわゆる伊藤の公式は、
数学の諸分野に留まらず、例えば、物理学においては共形場理論、
工学においては制御理論、生物学においては集団遺伝学などに、さらに近年では、
経済学における数理ファイナンスに至るまで広範に応用されている。
米国科学アカデミー(NAS)の記事を引用しよう。
ピタゴラスの定理は別格として、
「伊藤の補題」(Ito's Lemma)以上に世界中に知れ渡り応用されている数学の成果は思い浮ばない。
この成果は、
古典解析におけるニュートンの微分積分学の基本定理と同様の役割を、
確率解析において果すものであり、
「必要不可欠なもの」(sine qua non)である。
伊藤博士は、60年余に及ぶ研究歴の中での輝かしい数学的業績によって高名であるだけでなく、
日本および諸外国の多くの数学者にとって真にinspiringな教師であり続けた。
また、1978年度日本学士院賞恩賜賞、
1987年度ウルフ賞数学部門、
1998年度京都賞基礎科学部門など国内外の数多くの賞と栄誉に輝いているが、
更に2006年、
国際数学連合(IMU)によって創設されたガウス賞の第1回受賞者となった。
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