研究活動

教授  大槻 知忠 (位相幾何学)
 結び目と3次元多様体の不変量について研究している。
 1980年代以来,Chern-Simons 理論にもとづいて膨大な数の不変量(量子不変量)が発見され,不変量の研究,すなわち,結び目の集合と3次元多様体の集合の研究という新しい研究領域(量子トポロジー)がもたらされた。この20年間のこの分野の研究の主な動機はChern-Simons 場の理論の相関関数をトポロジーの立場から理解することにあったが,この分野に関してこの20年間になされたさまざまな研究によりその作業はほぼ完了し,今後のこの分野の研究は,そのようにして得られた膨大な数の不変量を研究の基礎として,さまざまな新しい研究の方向性を創出するべき段階にある。この分野の今後のよりよい方向性を考える,という観点から,筆者は未解決問題集[9,10]を編集したが,未解決問題の中でも「同変不変量」「体積予想」「数論との関連」などが今後の発展のために重要ではないかと筆者は考えている。
 「体積予想」は,双曲結び目のKashaev不変量(この不変量は1のN乗根における結び目の色つきJones多項式に等しい)の極限に双曲体積が現れることを主張する予想である。1970年代にはじまった双曲幾何の研究と1980年代にはじまった量子トポロジーの研究は,それぞれ別々に発展してきたが,体積予想はこれらの研究領域を結び付ける重要な予想である。最近,筆者はKashaev不変量の漸近展開を比較的簡単ないくつかの双曲結び目について具体的に計算し,それらの場合について体積予想が成り立つことを確認した。また,その漸近挙動の第2項(準古典極限の項)はReidemeister torsion であるとおもわれ,筆者は多くの結び目でこれを確認した。さらに高次の項は未知のべき級数不変量になっているようである。これらの不変量について,さらに詳しく調べることをめざす。また,筆者は「結び目の不変量」について著書を執筆した(出版準備中)。
  1. The perturbative SO(3) invariant of rational homology 3-spheres recovers from the universal perturbative invariant, Topology 39 (2000) 1103--1135.
  2. A cabling formula for the 2-loop polynomial of knots, Publ. RIMS, Kyoto Univ. 40 (2004) 949--971.
  3. On the 2-loop polynomial of knots, Geometry and Topology 11 (2007) 1357--1475.
  4. Perturbative invariants of 3-manifolds with the first Betti number 1, Geometry and Topology 14 (2010) 1993--2045.
  5. (with Thang T. Q. Le, Takahito Kuriya) The perturbative invariants of rational homology 3-spheres can be recovered from the LMO invariant, J Topology 5 (2012) 458--484.
  6. On the asymptotic expansion of the Kashaev invariant of the $5_2$ knot}, preprint.
  7. (with T. Takata) On the Kashaev invariant and the twisted Reidemeister torsion of two-bridge knots, Geometry and Topology 19 (2015) 853--952.
  8. Quantum invariants, --- A study of knots, 3-manifolds, and their sets, Series on Knots and Everything, 29. World Scientific Publishing Co., Inc., 2002
  9. T. Ohtsuki (ed.), Problems on invariants of knots and 3-manifolds, Invariants of knots and 3-manifolds (Kyoto 2001), 377--572, Geom. Topol. Monogr. 4, Geom. Topol. Publ., Coventry, 2004.
  10. T. Ohtsuki (ed.), Problems on Low-dimensional Topology 2014, RIMS Kokyuroku 1911 (2014) 130--149.

教授 岡本 久 (非線形力学の数値解析的研究)
 非線型微分方程式で記述される現象では,その複雑さ故に様々な手法が要求される。中でも数値的手法,即ち,コンピュータを使って大規模かつ精密な近似解を構成し,それに基づいて現象の解析を行なうことの有用性は今では広く認識されている。数値的手法は,流体などの連続体の偏微分方程式の研究ではとくに盛んであり,実社会からの強い要請もあって,極めて多くの研究者が競い合っている分野である。
 ところが,主に次の二つの理由によって,数学的な研究がスーパーコンピューターの発展と同じ位望まれているのである。ひとつには,スーパーコンピューターですら解けない巨大な問題が存在することである。このような問題に対しては理論的考察やモデルの構築なしに,単にスーパーコンピューターを走らせても無意味である。ふたつには,より大規模な計算が進むにつれて,より深い問題が新たに発見されることである。このような状況では新しい数学的なアイデアが要求されるので,``インプットデータを与えて計算機を走らせたら全て解決''という(一部に標傍されているような)事態は決して来ないのである。このような現状に鑑み,流体力学に現れる非線型現象の解明のため,アルゴリズムの解析,実際の計算,及びその理論的解釈を総合的に行なっている。最近は精度保証計算にも興味がある。
  1. A study of bifurcation of Kolmogorov flows with an emphasis on the singular limit, Proc. Int Congress Math., III (1998), 523-532.
  2. 岡本 久,非線型力学,岩波書店 岩波講座「応用数学」(1995), 改訂版 (1998) (藤井 宏との共著). (171ページ)
  3. 岡本 久,関数解析,岩波書店 岩波講座「現代数学の基礎」(1997), (中村 周との共著). (再版2006年) (274ページ)
  4. The Mathematical Theory of Bifurcation of Permanent Progressive Water- Waves, World Scientific, 2001. (with M. Shoji)(229ページ)
  5. A three-dimensional autonomous system with unbounded `bending' solutions, Physica D., 164 (2002), 168-186. (with A. D. D. Craik)
  6. Numerical computation of water and solitary waves by the double exponential transform, J. Comp. Appl. Math., 152 (2003), 229--241. (with K. Kobayashi and J. Zhu)
  7. Blow-up solutions appearing in the vorticity dynamics with linear strain, J. Math. Fluid Mech., 6 (2004), 157--168. (with K.-I. Nakamura and H. Yagisita)
  8. Uniqueness of the exact solutions of the Navier-Stokes equations having null nonlinearity, Proc. R. Soc. Edinburgh, 136 (2006), 1303-1315. (with S.C. Kim)
  9. On a generalization of the Constantin-Lax-Majda equation, Nonlinearity, 21 (2008), 2447-2461.
  10. ナヴィエ−ストークス方程式の数理, 東京大学出版会, (2009) (365ページ).
  11. S.-C. Kim and H. Okamoto, Vortices of large scale appearing in the 2D stationary Navier-Stokes equations at large Reynolds numbers, Japan J. Indust. Appl. Math., 27 (2010), 47--71.

教授  小澤 登高(作用素環と離散群の研究)
 私は作用素環と離散群の関わりを研究している。(離散)群とは,任意の対象の対称性を記述するための数学言語である。例えば,ある結晶が与えられたとき,その結晶構造を変えない変換(回転操作,鏡映操作,反転操作など)全体を考えたものが群である。人間には線形的な構造の方が理解しやすいので,群の各要素を適当な(線形)空間上の作用素とみなして取り扱うことにする。さらに,そうした作用素全体が生成する代数系を考え,適当な位相で完備化すれば作用素環と呼ばれる対象ができる。(考える位相の違いにより,$\mathrm{C}*$環とvon Neumann環の二種類が存在する。)位相の存在により,群論のような代数的な問題に対しても解析的なテクニックを使えるところが作用素環論の特徴である。作用素環の研究はそもそもは,John von Neumannが量子力学の数学的取り扱いを目指して始めたものであったが,現在では数理物理だけでなく,群論やエルゴード理論などに幅広い応用がある。私の研究は双方向的で,これらの分野への作用素環論の応用とその逆を同時に扱っている。伝統的な作用素環論の他にも,作用素論,Banach環論,Banach空間論[3],群表現の摂動理論,離散距離幾何学等の研究を行っている。
 現在の作用素環論において最も重要な未解決問題は「Connesの埋め込み予想」である。この予想は任意のvon Neumann環が適当な意味で有限次元環で近似できるというものである。この予想をConnesが述べた時点(1970年代半ば)ではvon Neumann環の技術的な問題に過ぎなかったが,その後,作用素環論におけるいくつかの見掛けの全く異なる重要予想と同値であることが判明している。私はこの予想に対する新たなアプローチを研究し,この予想が量子情報理論におけるTsirelson問題と同値であることを示した[1,2]。Tsirelson問題は,2人の独立した観測者の間に起こりうる量子相関に対する2つの異なる定式化が実は一致するという予想である。これまでの研究により,この予想は本質的には自由群$F_r$の直積群$F_r\times F_r$のユニタリ表現に関する問題であるということが明らかになっている。さらに,上記のConnesの埋め込み予想は非可換実代数幾何学におけるある予想と同値であることが知られているが[2],私は非可換実代数幾何学を利用して,離散群$G$の実群環${\mathbb R}[G]$や群$G$そのものを研究している[2,6]。非可換実代数幾何学は最近研究され始めた分野であって,実群環などの非可換実代数における等式や不等式を扱う分野である。その表現論を通して作用素環論を利用できるところが私にとっての魅力である。
 平成26年度は特に,群作用素環の研究を行った[5,8,9]。論文[5]では,離散従順群の左正則表現は全て区分対角的かという30年来の重要未解決問題に取り組み,初等的従順群という大きなクラスに対して肯定的に解決した。これは$\mathrm{C}^*$環の分類理論における近年の発展の成果を離散群の研究に応用したものである。論文[8]では,離散群$\mathrm{C}^*$環がいつ単純であるかという長年の問題に対して,境界作用を用いる画期的な研究方針を導入し,この方面で得られていたこれまでの成果を一新する大きな成果を得た。論文[9]では,von Neumann両加群の理論を発展させることにより,局所コンパクト量子群とその群von Neumann環の間の関係を明らかにした。
  1. N. P. Brown and N. Ozawa; C^*-algebras and finite-dimensional approximations. Graduate Studies in Mathematics, 88. American Mathematical Society, 2008, 509 pp.
  2. N. Ozawa; Tsirelson's problem and asymptotically commuting unitary matrices. J. Math. Phys., 54 (2013), 032202 (8 pages).
  3. N. Ozawa; About the Connes Embedding Conjecture. Algebraic approaches. Jpn. J. Math., 8 (2013), 147--183.
  4. G. Godefroy and N. Ozawa; Free Banach spaces and the approximation properties. Proc. Amer. Math. Soc., 142 (2014), 1681--1687.
  5. Y. Choi, I. Farah, and N. Ozawa; A nonseparable amenable operator algebra which is not isomorphic to a $\mathrm{C}^*$-algebra. Forum Math. Sigma, 2 (2014), e2 (12 pages).
  6. N. Ozawa, M. R{\o}rdam, and Y. Sato; Elementary amenable groups are quasidiagonal. Geom. Funct. Anal., 25 (2015), 307--316.
  7. N. Ozawa; Noncommutative real algebraic geometry of Kazhdan's property (T). J. Inst. Math. Jussieu, to appear.
  8. N. Ozawa and G. Pisier; A continuum of $\mathrm{C}^*$-norms on $B(H) \otimes B(H)$ and related tensor products. Glasg. Math. J., to appear.
  9. E. Breuillard, M. Kalantar, M. Kennedy, and N. Ozawa; $\mathrm{C}^*$-simplicity and the unique trace property for discrete groups. Preprint.
  10. R. Okayasu, N. Ozawa, and R. Tomatsu; Haagerup approximation property via bimodules.

教授 小野 薫 (微分幾何学・位相幾何学の研究)
 空間の幾何構造,特に symplectic 構造,の幾何学の研究をしている。Arnold は symplectic 幾何学が興味深い研究対象であることを数々の予想とともに指摘し,その後の研究に大きな影響を与えた。1980 年頃に Conley-Zehnder は Hamilton 系の周期解の存在,個数の下からの評価に関する Arnold の予想をトーラス上で証明した。また,Gromov は(擬)正則曲線の方法を考案し,symplectic 幾何学の研究を大きく進展させた。1980年代の半ば過ぎに Floer は Conley-Zehnder の変分法の枠組と正則曲線の方法を結びつけて現在 Floer (co)homology と呼ばれる理論を創始した。技術的な困難を避けるために条件はついていたが,新たな数学が切り開かれた。現在では,他の様々な設定でも Floer 理論が研究され,symplectic 幾何に限らず,低次元トポロジーなどでも強力な道具となっている。
 私は,Hamilton 微分同相写像に対する Floer 理論を技術的条件なしで構成することを研究し,先ず Floer の条件を弱めることができること [1],そのあと深谷賢治氏と一般の閉 symplectic 多様体上で構成できること [4] を示し,Betti 数版の Arnold 予想を証明した。同様の議論で,Gromov-Witten 不変量の構成し,期待される性質が満たされることを示した。Hamilton 微分同相写像より広いクラスのsymplectic 微分同相写像に対する Floer 理論についても研究し [2], それを発展させて Hamilton 微分同相写像群はsymplectic 微分同相写像群の中で $C^1$-位相に関して閉じていること (flux 予想) を証明した [6]。
 Lagrange 部分多様体の Floer (co)homology は一般には定義できないが,境界作用素を適当に修正することで定義できる場合もある。その一般論を深谷氏,Oh 氏,太田氏と研究し [7],それを具体的な場面に応用することで Hamilton 微分同相写像で displace できない Lagrange トーラスの記述に関する成果を得た[8],[9],[10]。Lagrange 部分多様体の Floer 理論は,深谷圏の基盤であり,ホモロジー的ミラー対称性の研究に不可欠である。上述の研究に引き続き,トーリック多様体のホモロジー的ミラー対称性に関する研究成果を論文あるいは preprint として順次纏めて発表している。
上に書いた研究は,1996年の深谷賢治氏との共同研究による倉西構造と仮想的基本類・仮想的基本鎖の理論に基礎を置いている。この理論の詳細を含む expository articles を深谷氏,Oh 氏,太田氏とともに書き,順次公表している。
  1. On the Arnold conjecture for weakly monotone symplectic manifolds, Invent. Math. 119 (1995), 519-537.
  2. Symplectic fixed points, the Calabi invariant and Novikov homology (with H.-V. Le), Topology 34 (1995), 155-176.
  3. Lagrangian intersection under legendrian deformations, Duke Math. J. 85 (1996), 209-225.
  4. Arnold conjecture and Gromov-Witten invariants, (with K. Fukaya), Topology 38 (1999), 933-1048.
  5. Simple singularities and symplectic fillings, (with H. Ohta), J. Differential Geom. 69 (2005), 1-42.
  6. Floer-Novikov cohomology and the flux conjecture, Geom. Funct. Anal. 16 (2006), 981-1020.
  7. Lagrangian intersection Floer theory - anomaly and obstruction -, (with K. Fukaya, Y.-G. Oh, H. Ohta), AMS/IP Studies in Advanced Mathematics 46-1,2, Amer. Math. Soc. and International Press, 2009.
  8. Lagrangian Floer theory on compact toric manifolds I, (with K. Fukaya, Y.-G. Oh, H. Ohta), Duke Math. J. 151 (2009), 23-174.
  9. Lagrangian Floer theory on compact toric manifolds II, (with K. Fukaya, Y.-G. Oh, H. Ohta), Selecta Math. New Series, 17 (2011), 609-711.
  10. Toric degeneration and non-displaceable Lagrangian tori in $S^2 \times S^2$, International Mathematical Research Notices, DOI 10.1093/imrn/rnr128.
  11. Symplectic fillings of links of quotient surface singularities, (with M. Bhupal), Nagoya Math. J. 207 (2012), 1-45.
  12. Displacement of polydisks and Lagrangian Floer theory, (with K. Fukaya, Y.-G. Oh, H. Ohta), J. Symp. Geom. 11 (2013), 231-268.

教授 熊谷 隆 (確率論)
 複雑な系の上の物理現象の解明を目指して,系の上の確率過程と対応する作用素について研究を進めている。典型例であるフラクタルに関しては,熱核の精密な評価,大偏差原理の研究を行い,対応する二次形式の定める関数空間の理論を構築するなど,フラクタル上の確率過程論・調和解析学の基礎を固める研究を行ってきた。また,当該分野の重要な未解決問題の一つであったシェルピンスキーカーペット上のブラウン運動の一意性を証明した[6]。
 フラクタル上の拡散過程は,劣拡散的である,すなわちユークリッド空間のブラウン運動に比べて,拡散のオーダーが小さい(拡散が遅い)。では,確率過程のこのような性質は摂動安定性を持つであろうか?熱核が上下からガウス型評価を持つ拡散過程については,安定性の問題は古くから研究され,対応する作用素に多少の摂動を加えても大域的な挙動に大きな変化が現れないことが知られている。私は,一般の測度つき距離空間において,熱核が劣ガウス型の評価を持つことと,ある種の放物型ハルナック不等式が成り立つことが同値であり,さらにいくつかの関数不等式と同値であることを示した[1,2]。これは,劣ガウス型熱核評価の安定性を意味する。さらに,このような評価が空間のquasi-isometricな変形で保たれるという安定性の理論を構築し,この理論を発展させることにより,相転移を持つ確率モデルの臨界確率における熱伝導の研究を推し進めている[3,5]。その成果の一つとして,統計力学の基礎モデルであるパーコレーションクラスターの,臨界確率における熱伝導についての数理物理学者の予想(アレキサンダー・オーバッハ予想)を,いくつかの具体例で肯定的に解決した。また,これらの手法を有限グラフの列の上のマルコフ連鎖に応用し,混合時間の評価等を行っている[9]。複雑な系の上の確率過程の研究の近況は,講義録[B1]にまとめられている。
 複雑な系の上の確率過程の研究を通じて,非対称拡散過程や飛躍型確率過程論に新たな方向性を与える研究も行っている。離散で非対称なマルコフ連鎖の自然なクラスにおいて,熱核がガウス型の評価を持つことを示し,さらにそのスケール極限が非対称な拡散過程に収束するための十分条件を解析した[10]。また,ハルナック不等式や熱核評価の研究を,飛躍型確率過程にも発展させている[4,7,8,11]。飛躍型確率過程の調和解析では,従来の解析学の手法が適用できない状況が多く,熱核評価に関する研究は限定的であった。上記研究では,確率論的手法と実解析学的手法を融合することによりこれらの困難を乗り越え,安定過程型確率過程の熱核の精密な評価を行い,その一般化を行っている。
  1. (With M.T. Barlow and T. Coulhon) Characterization of sub-Gaussian heat kernel estimates on strongly recurrent graphs, Comm. Pure Appl. Math. 58 (2005), 1642--1677.
  2. (With M.T. Barlow and R.F. Bass) Stability of parabolic Harnack inequalities on metric measure spaces, J. Math. Soc. Japan 58 (2006), 485--519.
  3. (With M.T. Barlow, A.A. Járai, and G. Slade) Random walk on the incipient infinite cluster for oriented percolation in high dimensions, Comm. Math. Phys. 278 (2008), 385--431.
  4. (With M.T. Barlow and A. Grigor'yan) Heat kernel upper bounds for jump processes and the first exit time, J. Reine Angew. Math. 626 (2009), 135--157.
  5. (With B.M. Hambly) Diffusion on the scaling limit of the critical percolation cluster in the diamond hierarchical lattice, Comm. Math. Phys. 295 (2010), 29--69.
  6. (With M.T. Barlow, R.F. Bass and A. Teplyaev) Uniqueness of Brownian motion on Sierpinski carpets, J. European Math. Soc. 12 (2010), 655--701.
  7. (With Z.-Q. Chen) A priori Hölder estimate, parabolic Harnack principle and heat kernel estimates for diffusions with jumps, Rev. Mat. Iberoamericana 26 (2010), 551--589.
  8. (With Z.-Q. Chen and P. Kim) Global heat kernel estimates for symmetric jump processes, Trans. Amer. Math. Soc., 363 (2011), 5021--5055.
  9. (With D.A. Croydon and B.M. Hambly) Convergence of mixing times for sequences of random walks on finite graphs, Electron. J. Probab., 17 (2012), 1--32.
  10. (With J.-D. Deuschel) Markov chain approximations to non-symmetric diffusions with bounded coefficients, Comm. Pure Appl. Math. 66 (2013), 821--866.
  11. (With K. Bogdan and M. Kwa\'snicki) Boundary Harnack inequality for Markov processes with jumps, Trans. Amer. Math. Soc. 367 (2015), 477--517.

[B] 確率論, 共立出版, 2003.
[B1]Random Walks on Disordered Media and their Scaling Limits. Lect. Notes in Math. 2101, École d'Été de Probabilités de Saint-Flour XL--2010. Springer, New York, (2014).


教授  玉川 安騎男(整数論,数論幾何学の研究)
1.代数多様体,特に代数曲線やそのモジュライ空間の被覆と基本群に関する数論幾何は,近年内外の多くの研究者によってさまざまな視点から研究されている。本研究所では,望月新一,星裕一郎及び当該所員を中心に,広い意味での遠アーベル幾何(anabelian geometry)を軸として活発に研究が進められ,当該分野を世界的にリードしている。特に,曲線の遠アーベル幾何に関して,当該所員は,これまでに有限体上の結果,有理数体上有限生成な体上の結果,有限体の代数閉包上の結果を得てきた。
以下では,当該所員が近年得た,いくつかの結果を簡単に紹介する。
・(M. Saïdiとの共同研究)有限体上の曲線やその関数体の遠アーベル幾何に関し,幾何的基本群を標数と素な最大商に置き換えた場合のIsom版を証明した([1][3])。更に,ある種の局所条件を仮定した上でのHom版([4])や,素数の無限集合$\Sigma$である条件を満たすものに対して幾何的基本群を最大副$\Sigma$商に置き換えた場合のIsom版(論文2編投稿中)などを証明した。また,正標数代数閉体上の曲線の(弱い意味での)遠アーベル幾何について,有限体の代数閉包の場合には当該所員により良い結果が得られていたが,(そのままの定式化では成立しない)一般の場合に一定の結果を得た(論文投稿中)。更に,有限生成体上の双曲的曲線に対するセクション予想に関連して,離散的セルマー群や離散的シャファレビッチ・テイト群という,有限生成体上のアーベル多様体の新しい数論幾何的不変量を導入した(論文準備中)。
・(A. Cadoretとの共同研究)有理数体上有限生成な体上の曲線の上のアーベルスキームと素数lに対し,そのファイバーに現れるアーベル多様体の有理的なl冪ねじれ点の位数に対する上界の存在を証明し,その系として,フルビッツ空間(曲線のガロア被覆のモジュライ空間)の有理点に関するFriedのモジュラータワー予想のうち,1次元の場合を肯定的に解決した([2][6])。更に,この結果を大きく一般化し,有理数体上有限生成な体上の曲線の数論的基本群のl進ガロア表現で幾何的基本群の像がある種の弱い条件を満たすものが与えられた時,その表現を曲線の(剰余次数を制限した)閉点の分解群に制限して得られるガロア表現に対する像の下界の存在を証明した([7][9])。この結果は,条件を外した場合は一般には成立しないが,最近,一般のl進表現の場合に,部分的な肯定的結果を得た([10])。素数lを走らせた時のガロア像の幾何的部分のふるまいについても考察し,種数やゴナリティーの発散性や像のl独立性などに関する結果を証明した([5]及び論文2編投稿中,1編準備中)。また,アーベル多様体のねじれ点に対する普遍上界予想と曲線のヤコビ多様体のねじれ点に対する普遍上界予想の定量的な比較をした([8])。
・(C. Rasmussen との共同研究)3点抜き射影直線の副l基本群の上のガロア表現に関する伊原の問題に関連して,有限次代数体Kと非負整数gが与えられた時,K上のg次元アーベル多様体Aの同型類と素数lの組で,体 $K(A[l^\infty])$ がlの外で不分岐で$K(\zeta_l)$上副$l$な拡大になるようなものは有限個しかないことを予想し,$[K:\Bbb Q]\leq 3$,$g=1$の場合,$K=\Bbb Q$,$g\leq 3$の場合,及び一般Riemann予想の仮定下での$\text{$K$:一般}$,$\text{$g$:一般}$の場合などに肯定的解決を得た(論文1編掲載済,1編投稿中)。 また,関連して,2の外で不分岐な主偏極アーベル曲面の2冪ねじれ点の研究(論文投稿中)や射影直線のl冪次巡回被覆のヤコビ多様体のl冪ねじれ点の研究(論文準備中)を行った。
2. 標数0の体の上の種数2以上の曲線をヤコビ多様体に埋め込む時,Manin-Mumford予想(Raynaud の定理)により,曲線上にあるヤコビ多様体のねじれ点は有限個であるが,フェルマー曲線の場合(R. Coleman,P. Tzermiasとの共同研究)とモジュラー曲線の場合に,それぞれこの有限集合を具体的に決定した。
3. Drinfeld 加群やそのモジュライ空間に関する研究を以前行ったことがある。
  1. A prime-to-p version of Grothendieck's anabelian conjecture for hyperbolic curves over finite fields of characteristic p>0, Publ. RIMS, Kyoto Univ. 45 (2009), no. 1, 135--186 (with Mohamed Saï di).
  2. Torsion of abelian schemes and rational points on moduli spaces, RIMS Kokyuroku Bessatsu B12 (2009), 7--29. (with Anna Cadoret)
  3. On the anabelian geometry of hyperbolic curves over finite fields, RIMS Kokyuroku Bessatsu B12 (2009), 67--89. (with Mohamed Saïdi)
  4. On the Hom-form of Grothendieck's birational anabelian conjecture in characteristic p>0}, Algebra and Number Theory 5 (2011), no. 2, 131--184. (with Mohamed Saïdi).
  5. On a weak variant of the geometric torsion conjecture, Journal of Algebra 346 (2011), no. 1, 227--247. (with Anna Cadoret).
  6. Uniform boundedness of $p$-primary torsion of abelian schemes, Inventiones Mathematicae 188 (2012), no. 1, 83--125. (with Anna Cadoret).
  7. A uniform open image theorem for $\ell$-adic representations I, Duke Mathematical Journal 161 (2012), no. 13, 2605--2634 (with Anna Cadoret).
  8. Note on torsion conjecture, Séminaires et Congrés 27 (2013), 57--68 (with Anna Cadoret).
  9. A uniform open image theorem for $\ell$-adic representations II, Duke Mathematical Journal 162 (2013), no. 12, 2301-2344 (with Anna Cadoret).
  10. Controlling the Galois images in one-dimensional families of $\ell$-adic representations, Journal of Algebra 412 (2014), 189--206 (with Anna Cadoret).

教授 中島 啓 (表現論,代数幾何学,微分幾何学)
 理論物理学に起源を持つ,4次元多様体上のインスタントン方程式の解のモジュライ空間を研究することを中心テーマとしている。主に,4次元多様体が代数曲面と仮定して,連接層をパラメトライズするモジュライ空間を代わりに調べる。インスタントン方程式は非線形偏微分方程式であるために取扱いに難しいところがあるのに対し,連接層は,代数幾何的な手法で取り扱うことが可能であるからである。また,その代数曲面が,単純特異点の特異点解消である場合には,非可換環の表現論を用いて研究することも可能であり,モジュライ空間を箙多様体と名付けて細かく調べている。[6,7]
 箙多様体の研究の成果の一つとして,そのコホモロジー群(正確には同変K群)に量子ループ環の表現の構造が定義できることが分かり,これを用いて,指標公式を導出した。[8,9] これは,箙多様体の理論を使わずに証明することが現在までのところできていない結果である。
 また,$\mathbf R^4$上のインスタントンのモジュライ空間の上で,微分形式を同変ホモロジーの意味で積分する,Nekrasovの分配関数の性質に興味を持っている。特に$\mathbf R^4$の一点ブローアップの上のインスタントンのモジュライ空間との関係を,神戸大の吉岡康太氏との共同研究で詳しく調べ,分配関数の持ついろいろな性質を導いた。[12,13,14] さらにその結果を用いて$4$次元多様体のDonaldson不変量の性質を調べることを,ICTPのL. Göttsche氏を加えた共同研究で行った。[4,5] 以下,昨年度得た研究成果を簡単に紹介する。
・[10]モディファイされた量子アファイン展開環が,Koenig-Xiの意味でのアファイン・セルラー代数であり,さらにセル・イデアルが idempotentであることを証明した。前者は,Cui (arXiv:1405.6441) により[1]を用いて証明されていたが,やや回りくどい議論であったものを,直接的に変えたものである。
・[2]$\mathbf R^4$上のゲージ群を G とするインスタントンのモジュライ空間を考え,そのUhlenbeck部分コンパクト化をとり,その同変交叉コホモロジー群を考える。作用する群は G と二次元トーラス $T^2$ の積である。この同変交叉コホモロジー群に,頂点作用素代数の例である W-代数の表現の構造を構成した。(正確には,$\mathscr W$-代数の integral form を導入し,それが同変交叉コホモロジー群に表現される。) ただし,今のところ証明は G が ADE型の群の場合にしかできておらず,BCFG 型に拡張することは,残された課題である。
・[11]コンパクト・リー群 G と,その四元数体上の表現 $\mathbf M$ が与えられたとき,物理学者は3次元のN=4超対称性ゲージ理論とよばれる場の量子論を考え,特にそのゲージ理論のクーロン枝とよばれる,超ケーラー多様体を研究していた。しかし,その定義には,「量子補正」とよばれる数学的に厳密な取り扱いがなされていない手続きが含まれており,クーロン枝の数学的な定義は与えられていなかった。そこで,数学的に厳密な定義を与える試みを始めた。まず,複素射影直線 $\mathbb P^1$から 超ケーラー商 $M /// G$ (ただし,スタック $\mu_{\mathbb C}^{-1}(0) // G_{\mathbf C}$ として扱う) への,ゲージ $\sigma$-模型をとり,そのモジュライ空間の,自然な消滅サイクルに係数を持つコホモロジー群を考える。その次元を計算すると,物理学者のCremonesi, Hanany and Zaffaroni[3]が与えた クーロン枝の構造環の指標を与えると主張されているモノポール公式と同じになることを証明した。現在,このコホモロジー群(を若干修正したもの)に可換な積構造を定義し,これの Spectrum として,クーロン枝のアファイン・スキームとしての定義を与えることをBraverman, Finkelbergと共同研究中である。
  1. J. Beck and H. Nakajima, Crystal bases and two-sided cells of quantum affine algebras, Duke Math. J., 123 (2004), no. 2, 335--402.
  2. A. Braverman, M. Finkelberg, and H. Nakajima, Instanton moduli spaces and $\mathscr W$-algebras, ArXiv e-prints (2014), http://arxiv.org/abs/1406.2381 arXiv:1406.2381 [math.QA].
  3. S. Cremonesi, A. Hanany, and A. Zaffaroni, Monopole operators and Hilbert series of Coulomb branches of $3d$ $\mathcal{N} = 4$ gauge theories, JHEP 1401 (2014), 005, http://arxiv.org/abs/1309.2657 arXiv:1309.2657 [hep-th].
  4. L. Göttsche, H. Nakajima, and K. Yoshioka, Instanton counting and Donaldson invariants, J. Differential Geom. 80 (2008), no.3, 343--390. MR2472477
  5. \L. Göttsche, H. Nakajima, and K. Yoshioka, Donaldson = Seiberg-Witten from Mochizuki's formula and instanton counting, Publ. RIMS 47 (2011), no.1, 307--359.
  6. H. Nakajima, Instantons on ALE spaces, quiver varieties, and Kac-Moody algebras, Duke Math. J. 76 (1994), no.2, 365--416. MR1302318 (95i:53051)
  7. H. Nakajima, Quiver varieties and Kac-Moody algebras, Duke Math. J. 91 (1998), no.3, 515--560. MR1604167 (99b:17033)
  8. H. Nakajima, Quiver varieties and finite-dimensional representations of quantum affine algebras, J. Amer. Math. Soc. 14 (2001), no.1, 145--238 (electronic). MR1808477 (2002i:17023)
  9. H. Nakajima, Quiver varieties and $t$-analogs of $q$-characters of quantum affine algebras, Ann. of Math. (2) 160 (2004), no.3, 1057--1097. MR2144973 (2006k:17029)
  10. H. Nakajima, Affine cellularity of quantum affine algebras, June 2014, http://arxiv.org/abs/1406.1298 arXiv:1406.1298 [math.QA].
  11. H. Nakajima, Towards a mathematical definition of Coulomb branches of $3$-dimensional $\mathcal N=4$ gauge theories, I, ArXiv e-prints (2015), http://arxiv.org/abs/1503.03676 arXiv:1503.03676 [math-ph].
  12. H. Nakajima and K. Yoshioka, Lectures on instanton counting, Algebraic structures and moduli spaces, CRM Proc. Lecture Notes, vol.38, Amer. Math. Soc., Providence, RI, 2004, pp. 31--101. MR2095899 (2005m:14016)
  13. H. Nakajima and K. Yoshioka, Instanton counting on blowup. I. 4-dimensional pure gauge theory, Invent. Math. 162 (2005), no.2, 313--355. MR2199008 (2007b:14027a)
  14. H. Nakajima and K. Yoshioka, Instanton counting on blowup. II. $K$-theoretic partition function, Transform. Groups 10 (2005), no.3-4, 489--519. MR2183121 (2007b:14027b)

教授 長谷川 真人 (理論計算機科学の研究)
 今日の電子計算機において実現されている,もしくはされつつある多様なソフトウェアについて統一的かつ厳密に議論することを可能にするために,計算現象が根底に持っている数学構造を抽出し,分析することを研究の目的としている。 基本的な考え方は,複雑な計算現象を表現・分析するために,適切に抽象化された構造を特定し,そのような構造に関する考察から,計算現象に関する有益な情報を得ようというものであり,いわば「計算の表現論」である。特に,プログラミング言語における制御構造の数学モデル(意味論)の,主に代数的・圏論的な手法と,証明論・型理論的な枠組みを用いた分析および応用に取り組んでいる。
 これまでの研究成果の多くは,
i) トレース付きモノイダル圏を用いた再帰プログラムや巡回構造のモデル,
ii) 副作用を伴う計算のモナドを用いたモデル,あるいは
iii) 線型論理に基づく型理論とそのモノイダル圏によるモデル
に関するものである。
i)については,巡回構造から生じる再帰計算を論じた仕事[1](これはii)やiii)にも密接に関連していた)を出発点に,領域理論における最小不動点演算子の一様性原理をトレース付きモノイダル圏に拡張した研究などを行なってきた。圏論を直接には用いないが関連する方向では,巡回構造を持つ必要呼びラムダ計算の操作的意味論を調べている[7]。
ii)については,副作用を伴う制御構造を用いた再帰プログラムの意味論の研究を行ない,特に再帰と第一級継続の組み合わせから生じる計算を分析した[2]。また,第一級継続を用いた多相型プログラムが満たすパラメトリシティ原理を与えた[6]。
iii)に関しては,線型論理に対応する線型ラムダ計算とその圏論的モデルに関する理論の整備を行なっている[4]。
さらに,ii)とiii)にまたがる仕事として,制御構造の数学モデルに内在する一種の線型性に着目することにより,効果的に用いられた制御構造の持つ,明快かつ有用な性質を調べてきた[3]。
最近は,i)とiii)に関連して,トレース付きモノイダル圏の上に双方向計算のモデルを構築するGirardらの「相互作用の幾何」を,高階の計算を含むように拡張した状況について調べている[6, 8]。また,古典線型論理の圏論的モデル($*$-自律圏)がトレースを持つのは,実はコンパクト閉圏である場合に限られることを示した[10]。
 また,新しいテーマとして,プログラム意味論と量子トポロジーの接点を模索している。これまでに,プログラミング言語の理論で用いられているモノイダル圏においてリボンHopf代数を考え,その表現の圏として非自明なブレイドを持ち同時に再帰プログラムのモデルにもなっているリボン圏を構成した [9]。
  1. Models of Sharing Graphs: A Categorical Semantics of let and letrec, Distinguished Dissertation Series, Springer-Verlag (1999).
  2. Axioms for recursion in call-by-value, Higher-Order and Symbolic Computation, 15(2/3) (2002), 235-264. (with Y. Kakutani)
  3. Linearly used effects: monadic and CPS transformations into the linear lambda calculus, In Proc. Functional and Logic Programming, LNCS, 2441 (2002), 167-182.
  4. Classical linear logic of implications, Math. Structures Comput. Sci., 15(2) (2005), 323-342.
  5. Relational parametricity and control, Logical Methods in Computer Science, 2(3:3) (2006), 1-22.
  6. On traced monoidal closed categories, Math. Structures Comput. Sci., 19 (2) (2009), 217-244.
  7. Small-step and big-step semantics for call-by-need, J. Funct. Programming, 19 (6) (2009), 699-722. (with K. Nakata)
  8. A note on the biadjunction between 2-categories of traced monoidal categories and tortile monoidal categories, Math. Proc. Cambridge Phils. Soc., 148 (1) (2010), 107-109. (with S. Katsumata)
  9. A quantum double construction in Rel, Math. Structures Comput. Sci.}, 22(4) (2012), 618-650.
  10. Traced $*$-autonomous categories are compact closed, Theory Appl. Categ., 28 (7) (2013), 206-212. (with T. Hajgato)

教授 向井 茂 (代数幾何学とモジュライ)
 対象としては代数曲線,K3曲面と3次元Fano多様体を中心に,手法・概念としてはモジュライや自己同型を中心に研究を続けている。モジュライの基礎理論(文献[5])との関係で不変式論や群の表現と関係する代数多様体も研究している。
 80年代に発見した$K$3曲面と大Mathieu群$M_{24}$との関係(文献[13])の類似を考え,Enriques曲面への(指標的に)Mathieuな有限群作用を小Mathieu群$M_{12}$と関連づけて任意標数の閉体上で分類することができた(文献[13])。結果や証明はEnriques 曲面上の Riemann 球の配置を統制するルート系(文献[9])を使うと理解しやすい。最近はこれの理解が進展し,概アーベル的ではない無限自己同型群の決定がいくつかのEnriques曲面に対して得られている(例えば,文献[12])。また,コホモロジーに鏡映で作用する対合の研究(文献[8])は主偏極Abel曲面のモジュライの自己射に関する結果(文献[10])を副産物として生んだ。
 $K$3曲面の関連では,高次数偏極$K3$曲面の研究(特に,モジュライ空間の単有理性)に,新しい場合(30次)を付け加えることができた(文献[11])。
 不変式論においては,Hilbertの第14問題(永田の反例がある)を肯定的に復活する試みとして,次を提出した(文献[6])。

[問題]
多項式環に2次元加法群が線型に作用するとき,不変式環は有限生成か?
 この問題は表現論(例えば Kronecker quiver の表現や共形ブロックの個数に関するVerlinde公式)とも深く結びついている。また,ベクトル束のモジュライ空間とも関係深い。
  1. Duality between \mathbf{D}(X) and \mathbf{D}(\hat X) with its application to Picard sheaves, Nagoya Math. J., 81 (1981), 53--175.
  2. On the moduli space of bundles on K3 surfaces, I, in 'Vector Bundles on Algebraic Varieties', Tata Institute of Fundamental Research, Bombay, 1987, pp.341--413.
  3. Finite groups of automorphisms of K3 surfaces and the Mathieu group, Invent. Math., 94 (1988), 183--221.
  4. Fano 多様体論の新展開, New development of theory of Fano manifolds, 数学, (English translation : Sugaku Exposition 15 (2002)), 47巻 (1995), 125--144.
  5. モジュライ理論1,2, 岩波書店,1998年,2000年,455頁  (English translation "An introduction to invariants and moduli", Cambridge University Press, 2003)
  6. Counterexample to Hilbert's fourteenth problem for the 3-dimensional additive group, RIMS Preprint, 1343, 2001.
  7. Curves and symmetric spaces, II, Ann. of Math., 172 (2010), 1359--1558.
  8. Kummer's quartics and numerically reflective involutions of Enriques surfaces, J. Math. Soc. Japan, 64(2012), 231--246.
  9. Lecture notes on K3 and Enriques surfaces, in "Contributions to Algebraic Geometry", P. Pragacz (ed.), European Math. Soc., Zurich, 2012, 389--405.
  10. Igusa quartic and Steiner surfaces, Contemp. Math. 564(2012), 205--210. Correction in an appendix of "Siegel modular forms of genus 2 and level 2" (by F. Clery, G. van der Geer and S. Grushevsky), to appear in International J. Math.
  11. K3 surfaces of genus sixteen, RIMS preprint, 1743, 2012. to appear in "Minimal models and extremal rays" (Adv. Stud. Pure Math.).
  12. (with H. Ohashi) The automorphism groups of Enriques surfaces covered by symmetric quartic surfaces, in ``Recent Advances in Algebraic Geometry”, A volume in honor of Rob Lazarsfeld's 60th birthday, eds. Hacon, Mustata and Popa, Cambridge Univ. Press, 2015, 307--320.
  13. (with H. Ohashi) Finite groups of automorphisms of Enriques surfaces and the Mathieu group $M_{12}$, preprint, arXiv1410.7535, submitted.

教授 望月 新一 (数論幾何の研究)
 数体や局所体あるいは有限体の上で定義された楕円曲線は数論幾何の中でも中心的な研究対象の一つであり,その研究は20世紀初頭まで遡る。特にそのような楕円曲線の等分点へのガロア群の作用や楕円曲線の上で定義されるテータ関数は楕円曲線の数論幾何の研究では重要なテーマである。一方,種数が2以上の代数曲線をはじめとする双曲的な代数曲線の数論幾何は比較的最近まで余り熱心に研究されてこなかった。双曲的代数曲線の場合,非アーベルな基本群への基礎体の絶対ガロア群の外作用は楕円曲線の等分点へのガロア群の作用の「双曲的な類似物」と見ることができ,双曲的代数曲線の数論幾何の自然な出発点となるが,その研究は1980年代後半の伊原康隆の仕事以降,日本の数論幾何において,取り分け数理解析研究所を中心に重要な研究テーマの一つとなった。1990年代半ばに得られた遠アーベル幾何の様々な結果もこの文脈の中で興ったものである。また1990年代の後半以降,一点抜き楕円曲線の上で定義されたテータ関数を従来の「アーベル系」の視点とは決定的に異なる「遠アーベル的」な視点で扱うホッジ・アラケロフ理論の研究も大きく進展している。
 1990年代の望月の研究の殆どは,
   (a) p進タイヒミューラー理論 ([3])
   (b) p進遠アーベル幾何 ([1], [2])
   (c) 楕円曲線のホッジ・アラケロフ理論 ([4])
という三つの大きなテーマに分類することができるが,2000年以降の研究では,
   (d) 絶対p進遠アーベル幾何 ([5], [7])と
   (e) 組合せ論的遠アーベル幾何 ([9])
を中心に,上の三つのテーマの「相互作用」や「融合」に関心の対象が移った。特に有限体上の双曲的曲線と数体の間の古典的な類似の延長線上にあるものとして,(a)にヒントを得た形で,((b)の延長線上にある)(d)と(e)を用いて,(c)をスキーム論の枠組みに収まらない幾何([6], [8])の下で再定式化することにより,「宇宙際タイヒミューラー理論」(=「数体に対する一種の数論的なタイヒミューラー理論」)を構築することが大きな目標となった。
 「宇宙際タイヒミューラー理論」に関する4篇からなる連続論文は2012年8月,プレプリントとして公開した(理論の要約については[10]を参照)。4篇で500頁にも上る連続論文の内容を一言で総括すると,数体上の楕円曲線に付随するテータ関数の値やその周辺にある数論的次数の理論を,絶対遠アーベル幾何等を用いて(比較的軽微な不定性を除いて)「異なる環論」にも通用するような形で記述することによってディオファントス幾何的な不等式を帰結するという内容である。
 一方,星裕一郎講師と共同で「節点非退化外部表現」の理論を構築し,長年未解決問題であった基礎体の絶対ガロア群の外部表現の単射性に関する定理を証明したり([9]),またその延長線上にある「組合せ論的遠アーベル幾何」に関する,4〜5篇からなる連続共著論文の執筆に2010年度から取り組んでいる。第一論文は2010年度に完成し既に出版されており,第二・第三・第四論文はプレプリントとして公開済みである。2010年度から2011年度に掛けて,特に双曲的曲線に付随する配置空間の副有限基本群の惰性群の群論的特徴付けの理論やアンドレ氏による「緩和基本群」の理論への応用において大きな進展があり,それによって得られた結果は第二および第三論文に収録済みである。第四論文では,組合せ論的セクション予想や理論の副有限版と離散版の間の比較が主なテーマとなっている。
  1. S. Mochizuki, A version of the Grothendieck conjecture for p-adic local fields, The International Journal of Math. 8 (1997), pp. 499-506.
  2. S. Mochizuki, The local pro-p anabelian geometry of curves, Invent. Math. 138 (1999), pp. 319-423.
  3. S. Mochizuki, An introduction to p-adic Teichmüller theory, Cohomologies p-adiques et applications arithmétiques I, Astérisque 278 (2002), pp. 1-49.
  4. S. Mochizuki, A survey of the Hodge-Arakelov theory of elliptic curves I, Arithmetic Fundamental Groups and Noncommutative Algebra, Proceedings of Symposia in Pure Mathematics 70, American Mathematical Society (2002), pp. 533-569.
  5. S. Mochizuki, The absolute anabelian geometry of canonical curves, Kazuya Kato's fiftieth birthday, Doc. Math. 2003, Extra Vol., pp. 609-640.
  6. S. Mochizuki, Semi-graphs of anabelioids, Publ. Res. Inst. Math. Sci. 42 (2006), pp. 221-322.
  7. S. Mochizuki, Absolute anabelian cuspidalizations of proper hyperbolic curves, J. Math. Kyoto Univ. 47 (2007), pp. 451-539.
  8. S. Mochizuki, The Étale Theta Function and its Frobenioid-theoretic Manifestations, Publ. Res. Inst. Math. Sci. 45 (2009), pp. 227-349.
  9. Y. Hoshi, S. Mochizuki, On the Combinatorial Anabelian Geometry of Nodally Nondegenerate Outer Representations, Hiroshima Math. J. 41 (2011), pp. 275-342.
  10. S. Mochizuki, A Panoramic Overview of Inter-universal Teichmüuller Theory, Algebraic number theory and related topics 2012, RIMS Kôkyûroku Bessatsu B51, Res. Inst. Math. Sci. (RIMS), Kyoto (2014), pp. 301-345.

教授 望月 拓郎 (微分幾何,代数幾何の研究)
 [2,7]において私は調和バンドルの特異性についての研究を行い,漸近挙動の大雑把な分類を得ました。その結果に基いて, [1,3,4,7]においてワイルド調和バンドルや純ツイスターD加群を研究し,小林・ヒッチン対応や半単純ホロノミックD加群の強レフシェッツ定理などを得ました。さらに,その自然な発展として,プレプリント``Mixed twistor D-modules'' (arXiv:1104.3366)において混合ツイスターD加群の理論の整備に取り組みました。その過程で,不確定特異点やストークス現象にも関心を抱き,有理型平坦束の局所構造の研究[5,7],ホロノミックD加群のベッチ構造の研究[10]などを行ってきました。
 最近は,これまでの研究で得られた結果・知見を,調和バンドルやツイスターD加群に関連する対象や,より具体的な題材に適用することを試みています。
 ワイルド調和バンドルの小林・ヒッチン対応はヒッグス束上の調和バンドルの分類をパラボリック構造の分類に帰着するものといえます。数理物理で自然に現れるヒッグス束上の調和バンドルの分類は, ある種の物理的な対象の分類と関連づけられるため興味深いです。そこで,[8]では小林・ヒッチン対応を用いて,二次元戸田方程式の実数値解の分類を行い,さらに同伴する有理型平坦束のストークス構造やモノドロミーを具体的に計算しました。
 多重周期性を持つインスタントンやモノポールは``無限次元のワイルド調和バンドル''とみなす見方が有効であり,これまでの調和バンドルの研究で培ってきた知見を活かせます。この観点から[9]で二重周期性を持つインスタントンの研究を行い,漸近挙動の大雑把な分類,Nahm変換,小林・Hitchin 対応などを確立しました。
 混合ツイスターD加群の関手性と,各有理型関数に混合ツイスターD加群が同伴することを用いると,多くの自然なホロノミックD加群が自然に混合ツイスター構造を持つことがわかります。そこで,プレプリント``Twistor property of GKZ-hypergeometric systems''(arXiv:1501.04146)では,特に超幾何ホロノミックD加群上の混合ツイスターD加群について調べています。これは,トーリック多様体の(局所)ミラー対称性の研究で自然にあらわれるものでもあります。混合ツイスターD加群の一般論を超幾何ホロノミックD加群の退化に適用することで,局所Aモデルと局所Bモデルに付随する混合TEP構造の同型を得ています。
 このような具体的な例や関連する対象の研究を通じて,調和バンドルや混合ツイスターD加群の理論を整備し,より多くの場面で使えるものに育てていきたいと考えています。
  1. Kobayashi-Hitchin correspondence for tame harmonic bundles and an application, Astérisque, 309, (2006)
  2. Asymptotic behaviour of tame harmonic bundles and an application to pure twistor D-modules I, Mem. AMS., 185, no. 869, (2007)
  3. Asymptotic behaviour of tame harmonic bundles and an application to pure twistor D-modules II, Mem. AMS., 185, no. 870, (2007)
  4. Kobayashi-Hitchin correspondence for tame harmonic bundles II, Geometry & Topology, 13, (2009), 359--455
  5. Good formal structure for meromorphic flat connections on smooth projective surfaces, IN `Algebraic Analysis and Around', Advanced Studies in Pure Mathematics 54, (2009), 223--253
  6. Donaldson type invariants for algebraic surfaces, Springer-Verlag, Lecture Notes in Mathematics 1972, Springer, 2009
  7. Wild harmonic bundles and wild pure twistor $D$-modules, Astérisque 340, 2011
  8. Harmonic bundles and Toda lattices II, Communications in Mathematical Physics 328, (2014), 1159--1198
  9. Asymptotic behaviour and the Nahm transform of doubly periodic instantons with square integrable curvature, to appear in Geometry & Topology 18, (2014), 2823--2249
  10. Holonomic D-modules with Betti structure, to appear in Méoires de la Société Mathématique de France, 2014

教授 森 重文(代数多様体の研究)
 代数多様体を双有理的に分類する事は代数幾何で基本的な問題の一つである。曲線の場合はリーマンにより曲面の場合はエンリケスや小平邦彦によりなされたが3次元の場合にはリード,川又,ベンベニステ,ショクロフ,コラール,宮岡等の結果を基に, [5]により粗い意味で完成された。
 この問題の難しさは代数多様体を双有理同値な他の多様体(モデル)で取り替える事を許すことに起因する。なぜなら,この操作(双有理幾何)を理解する必要があるが,双有理幾何は3次元以上だと非常に複雑になるからである。結局,多くの試行的研究の後に,マイルドな(端末的)特異点しか持たず標準因子がネフであるという,「極小モデル」の定義が確立された。
 3次元では,極小モデルに,モデルを取り替えながら到達するための道しるべ(端射線)が必要であり,モデルに特異点を許す必要もある。[3]により導入され,川又等により発展させられた端射線の理論とリードにより導入された特異点のクラスが,3次元分類論の基礎になっている。これにより,3次元の場合は極小モデルやQファノ多様体等を研究する事に分類論が帰着された。この帰着の段階で重要な役割を果たすのがフリップと呼ばれる3次元で初めて現れる双有理変換である。
 又,境界付き(つまり, ログ)3次元多様体にも,ショクロフ,川又,コラール等により,フリップが拡張され,コルティ等によりサルキソフ・プログラムが完成され, 3次元Qファノ多様体やQコニック束等の詳細な研究の基礎ができた。任意次元でも,ヘイコン・マッカーナン・ビルカー・カシーニ(2006)は, ログ極小モデルの存在を一般型などの緩い条件の下に証明し,[8]を用いて任意の代数多様体の標準環が有限生成であることを確立した。
 3次元にもどると,端射線の収縮射の分類も進展してきた。この方向では,[2,3]を原型とする一連の[5,7,9]があり,さらにその後も分類が進められている。それらに基づく最近の[10]はイスコフスキー予想「3次元Qコニック束の底曲面は高々デュバル特異点しか持たない」を証明した。同予想は,イスコフスキーによる,3次元Qコニック束の有理性に関する研究の中で使われたものである。また[10]の手法を改良し,3次元Qコニック束や,曲面を曲線につぶす因子収縮射の分類を進めている。将来的には,3次元多様体の有理性判定法など幾何学的問題へのさらなる応用も望まれる。
  1. Projective manifolds with ample tangent bundles, Ann. Math., 110 (1979), 593-606.
  2. Classification of Fano 3-folds with the second B_2 \ge 2, Manuscripta Math., 36 (1981), 147-162; Erratum, 110 (2003), 407. (with S.Mukai)
  3. Threefolds whose canonical bundles are not numerically effective, Ann. Math., 116 (1982), 133-176.
  4. A numerical criterion of uniruledness, Ann. of Math., 124 (1986), 65-69. (with Y.Miyaoka)
  5. Flip theorem and the existence of minimal models for 3-folds, J. AMS, 1 (1988), 117-253.
  6. Rationally connected varieties, J. Alg. Geom., 1 (1992), 429-448. (with J.Kollar and Y.Miyaoka)
  7. Classification of three dimensional flips, J. AMS, 5 (1992), 533-703, (with J.Kollar); Erratum, 20 (2007) 269-271.
  8. A canonical bundle formula, J. Diff. Geom., 56 (2000), 167-188. (with O.Fujino)
  9. On Q-conic bundles, Publ. RIMS, 44, No.2, (2008). (with Yu.G.Prokhorov)
  10. Threefold Extremal Contractions of Types (IC) and (IIB), Proceedings of the Edinburgh Mathematical Society (Series 2), 57, Issue 01, (2014) 231--252. (with Y. Prokhorov)

教授 山田 道夫 (流体力学・非線形力学・ウェーブレット解析の研究)
 2次元および3次元の Navier-Stokes 方程式に従う流体の運動を研究している。対象となる流体運動は,流体乱流,回転乱流,微小生物に関わる遅い流れなどである。乱流については流れの統計的特徴と相空間におけるカオス軌道の性質の関係,回転系の流れでは天体や地球惑星系における大規模流体運動と関連する波動と流れの相互作用,遅い流れでは微小生物の運動機構などについて興味を持ち,それぞれ理論的および数値解析的な研究を行うと共に,これらの研究に現れるデータ解析に必要な応用数学的手法の研究も行っている。

・乱流の統計性質の研究
 発達した流体乱流については Kolmogorov の相似則を初めとする統計性質が知られているが,それらが相空間の軌道の構造とどのような関係にあるのかということについては殆ど知見が得られていない。実際 Navier-Stokes 方程式について解軌道の解析を行うことは現状では非常に難しい。そこで流体乱流のモデル方程式であるシェルモデルや低次元写像,低次元微分方程式系において,カオス平均と周期軌道平均の関係を調べ,従来から散見されていた短周期の軌道解析の有効性を支持する結果を得た。また近年開発された共変リヤプノフ解析の手法を2次元トーラス上の Navier-Stokes 方程式(Kolmogorov問題)に適用し,Reynolds 数の増大とともに,初め双曲的であった系が次第に非双曲系に近づき,あるReynolds数において非双曲化することを見出した。さらにこのときの流れの物理的特徴に注目し,特に流れ場に伴う長時間相関関数の形が双曲/非双曲転移に伴って変化することを見出した。またNavier-Stokes 方程式に従う3次元乱流として Couette 乱流を取り上げ,乱流の自己維持過程として知られている過程を共変リヤプノフ解析を用いて調べ,ストリークの崩壊は解軌道の不安定性によること,及び,ストリークの再形成過程には解軌道の不安定性が存在しないことを見出した。またエネルギー収支解析より,ストリーク構造に対応するモードには常にエネルギーが流入しているが,エネルギーが増加すると蛇行モードへのエネルギー流出が生じこれがストリークモードの消長を制御していることを見出した。

・回転を含む系の流体運動
 これまでに高精度の数値実験によって,回転球面上の自由減衰2次元乱流では両極域に東風周極ジェットが形成されることを見出し,この現象の定量的記述のため回転角速度が非常に大きな場合の両極域における周極ジェットに特徴的な漸近挙動を明らかにした。回転球面上の強制2次元乱流についても長時間の数値実験を実行し,従来知られていた多数本の帯状ジェット形成が遷移状態に過ぎず,最終的には少数本(2本または3本)のジェットからなる状態に落ち着くことを見出した。これらの現象の背後にはロスビー波による角運動量再配分機構がある。そこで,回転球面上で少数本のジェットをもつ基本的な(流れ関数が球面調和関数)解の安定性および分岐構造を調べることにより,回転が流れを安定化させることを見出し,乱流の終状態との関連を議論した。また分岐解析によって得られた定常解の張る低次元空間によって乱流状態を近似し,乱流の平均量がよく近似されることを見出した。
ロスビー波とジェットの相互作用の基本的なモデルは,$\beta$-平面上における平行流とロスビー波の相互作用である。この相互作用は従来,臨界層を通じた運動量輸送として定性的な描像が与えられてきた。この定量的記述を目的として,平行流の周りの線形摂動解の遠方の漸近形,特にロスビー波の反射係数と透過係数を用いて平均流加速量の表式を導いた。これは臨界層を通じた運動量輸送を平行流の安定性固有値問題に帰着させるもので,固有値問題の中立安定解に物理的意味を与えるものである。
また3次元の流れに回転が及ぼす影響を,回転球殻内の熱対流パターンについて調べた。これは地球や惑星の内部対流の典型的なモデルであるが,平面ベナール対流に比べ未知の部分が多い。中間的な回転角速度のパラメータ領域において静止解から分岐する東西方向定常進行波解を求め,その安定性をしらべて分岐図を作成し,東西位相速度の反転現象を見出した。さらに反転前後の対流パターンを調べることにより,この反転が解の分岐によるものではなく,赤道付近に生成される帯状流の強さの変化を原因とするものであることを見出した。またこの系において,流れが内側および外側境界に及ぼすトルクを求め,対流によって境界の回転角速度の違いが引き起こされることを見出し,内側および外側境界が3軸回転を行う場合の分岐解析を行い,境界が固定された場合の結果と比較した。

・微小生物の周りの遅い流れ
 流体中の微小生物がゆっくりと形状変化する場合は,Stokes 方程式中の時間微分項の寄与が小さいため,周囲の流れは定常 Stokes 流として扱うことができる。このような場合について,生物の形状変化が往復運動,すなわち区間 $[0,1]$ 上の変数によって記述できるときは,形状変化の一周期における生物の移動距離がゼロとなることを主張する「Purcell の帆立貝定理」が知られている。これは微小生物の運動形態に強い制約を与える重要な定理であり多くの研究者が部分的な証明を試みてきたが,完全な証明は知られていなかった。そこで,周囲に流体が存在しない仮想的な生物を導入して生物運動を形状変形運動と重心・回転運動に分離することによって,この定理の完全な証明を与えた。

・ウェーブレットおよびデータ解析法の研究
 データ解析に利用するために,与えられた波形に近い関数形を持つウェーブレット(双直交ウェーブレット)の構成方法を研究している。2スケール関係式の係数によって作られるシンボルと呼ばれる関数を最適化することによる双直交ウェーブレットの構成などにより,直交ウェーブレット展開の特性を利用したデータ解析や波形合成,また大規模構造物設計用の地震波形合成などを行っている。
  1. Linear stability of steady zonal jet flows induced by a small-scale forcing on a beta-plane, Physica D, 240, 1825--1834, 2011. doi: 10.1016/j.physd.2011.08.009 (with K.Obuse and S.Takehiro)
  2. Covariant Lyapunov analysis of chaotic Kolmogorov flows, Physical Review E, 01633:1--10, doi: 10.1103/PhysRevE.85.016331, 2012, (with M.Inubushi, M.U.Kobayashi and S.Takehiro)
  3. A coordinate-based proof of the scallop theorem, SIAM J. Appl. Math., 72(5), 1686-1694, 2012 doi: 10.1137/110853297 (with K.Ishimoto)
  4. A note on the stability of inviscid zonal jet flows on a rotating sphere, J. Fluid Mech., 710, 154-165, 2012 doi: 10.1017/jfm.2012.356 (with E.Sasaki and S.Takehiro)
  5. Torques on the inner and outer spheres induced by the Boussinesq thermal convection in a rotating spherical shell, J.Phys.Soc. Japan, vol.81 (2012) 084401, 8pp. doi: 10.1143/JPSJ.81.084401 (with K.Kimura and S.Takehiro)
  6. Weak interaction between zonal jets on a beta plane, JJIAM, 30, 111-127 (2013), doi: 10.1007/s13160-012-0086-9 (with K.Obuse and S.Takehiro)
  7. Resonant interaction of Rossby waves in two-dimensional flow on a beta plane, Physica D, 245(1), 1-7 (2013). doi: 10.1016/j.bbr.2011.03.031 (with T.Yoneda)
  8. Stability and bifurcation diagram of Boussinesq thermal convection in a moderately rotating spherical shell allowing rotation of the inner sphere, Phys. Fluids, 25, 084107-1 to 15 (2013). doi:10.1063/1.4819140 (with K.Kimura and S.Takehiro)
  9. Linear stability of viscous zonal jets flows on a rotating sphere, J. Phys. Soc. Japan, 82, 094402-1 to 6 (2013). doi: 10.7566/JPSJ.82.094402 (with E.Sasaki and S.Takehiro)
  10. Equatorial symmetry of Boussinesq convective solutions in a rotating spherical shell allowing rotation of the inner and outer spheres, Phys Fluids, 26, 084105 (2014). doi: 10.1063/1.4893374 (with K.Kimura and S.Takehiro)

准教授 荒川 知幸 (表現論)
 主に無限次元代数の表現論を研究している。特にアフィンKac-Moody代数やVirasoro代数などの無限次元Lie環,その仲間であるW代数の表現論について興味がある。またこれらを統一的に扱う枠組みである頂点代数の理論にも興味がある。
 これらの無限次元代数は二次元の共形場理論に起源を持つが,可積分系,量子群,モジュラー表現論,幾何学的Langlands対応および4次元のゲージ理論などさまざまな話題とも密接に関係する興味深い対象である。
 一般に表現論における基本問題は
 (1)既約表現の指標を決定すること,
 (2)``良い''表現を決定すること,
の二つに集約されると思われる。前者の問題に関しては現在では幾何学的表現論や関手的な手法が適応されることが多いが実際の実行に関しては(特に無限次元代数の場合)困難な部分も多い。後者の問題に関しては特に標準的な手法は存在せず,「何が良い表現か」という問題も含めて試行錯誤の状況である。
 (1)の問題に関して,論文[1]では極小冪零元に付随する(スーパー)W代数の既約最高ウエイト表現の指標が(スーパー)アフィンリー環のそれから完全に決定される事を示し,特に2003年のKac-Roan-脇本の予想を肯定的に解決した。論文[2]では主冪零元に付随するW代数のすべての最高ウエイト表現の既約指標を決定し,特にモジュラー不変な表現の存在と構成に関する1992年のFrenkel-Kac-脇本の予想を肯定的に解決した。論文[3]ではA型の任意の冪零元に付随するW代数の全ての既約最高ウエイト表現の指標を決定した。論文[4,5]ではカイラルD加群のアフィンKac-Moody代数の表現論への応用を行い,アフィンKac-Moody代数の臨界レベルにおけるG可積分な表現の指標公式の導出を行った。論文[6]ではアフィンリー環の臨界レベルの表現の指標に関するFeigin-Frenkel予想の一部である(new) linkage principleを証明した。
 (2)の問題に関して,論文[7]ではW代数の$C_2$有限性条件とアフィンリー環の表現の特異台との関係を明らかにし,アフィンリー環の許容表現の特異台に関するFeigin-Frenkelの予想を解決するとともにW代数の$C_2$有限性条件に関する2008年のKac-脇本の予想を肯定的に解決した。論文[9]ではアフィンリー環の許容表現に関する1995年のAdamovic-Milasの予想を肯定的に解決した。また論文[10]では主冪零元に付随するW代数の有理性に関する1992年のFrenkel-Kac-脇本の予想を証明する事に成功した。
今後は上記の結果の一般化とともに,徐々に応用も行っていく予定である。
  1. Representation Theory of Superconformal Algebras and the Kac-Roan-Wakimoto Conjecture, Duke Math. J., Vol. 130 (2005), No. 3, 435-478.
  2. Representation Theory of W-Algebras, Invent. Math., Vol. 169 (2007), no. 2, 219--320.
  3. Representation theory of W-algebras, II, Adv. Stud. Pure. Math. 61(2011), 51--90.
  4. Algebras of twisted chiral differential operators and affine localization of g-modules, Selecta mathematica, new series, vol.17, no. 1, 1-46, 2011.
  5. (with F. Malikov) A chiral Borel-Weil-Bott theorem, Adv. Math., 229 (2012) 2908-2949.
  6. (with P. Fiebig) The linkage principle for restricted critical level representations of affine Kac-Moody algebras, Compos. Math., 148, 1787--1810, 2012.
  7. Associated varieties of modules over Kac-Moody algebras and C_2-cofiniteness of W-algebras, Int. Math. Res. Not. (2015), published online.
  8. (with T. Kuwabara and F. Malikov) Localization of affine W-algebras, Comm. Math. Phys, April 2015, Volume 335, Issue 1, pp 143-182.
  9. Rationality of admissible affine vertex algebras in the category $\mathcal{O}$, to appear in Duke Math. J.
  10. Rationality of W-algebras; principal nilpotent cases, to appear in Ann. Math.

准教授 河合 俊哉 (場の理論・弦理論・数理物理学)
 手法としても研究対象としても2次元(超)共形場の理論と関連する数理物理に永らく興味を持ち続けているが,近年は超対称性のある場の理論や弦理論の物理が代数多様体の数え上げ幾何と関連している場合に関心がある。
 具体的には,(ある種の楕円カラビ・ヤウ多様体にコンパクト化した) F 理論ないし $IIA$ 型弦理論と混成的弦理論(の適当なコンパクト化)の間に成立すると予想されている双対性の理解およびBPS状態の数え上げとしての定量的検証を近年の研究主題としている。混成的弦理論はゲージ理論や重力理論などの馴染みの物理との関係が見やすく,また数学的には表現論と近い関係にあるといってもよい。一方 F 理論ないし $IIA$ 型弦理論では考えている楕円カラビ・ヤウ多様体のグロモフ・ウィッテン不変量やDブレーンの解釈としての「層の足し上げ」などの数え上げ幾何のテーマと関係する。特にBPS状態の数え上げに対する生成関数をボーチャーズ積の類似として解釈することを試みている。また具体例で試行錯誤してみると上記の数え上げ幾何以外にもヤコビ形式,不変式論,保型形式,楕円コホモロジー,表現論などの諸分野が有機的にからみあっていることが分かってきた。これらの諸概念を何らかの意味で統一する様な形で弦理論双対性を理解できればと願っている。
 ゲージ理論と開カラビ・ヤウ多様体の対応は近年盛んに研究されているが,量子重力を含む場合を取り扱おうとすると閉(楕円)カラビ・ヤウ多様体を考えなければならない。考えている状況の限りでは量子重力の難しさは豊穣な「楕円」数学の世界と呼応しているようである。従って,困難ではあるが物理的にも数学的にも意義深く挑戦しがいがあると考えて日々研究している次第である。
  1. K3 surfaces, Igusa cusp form and string theory, in Topological field theory, primitive forms and related topics, (M. Kashiwara, A. Matsuo, K. Saito and I. Satake, eds.), Progr. Math. 160, Birkhäuser 1998.
  2. String duality and enumeration of curves by Jacobi forms, in Integrable systems and algebraic geometry, (M.-H. Saito, Y. Shimizu and K. Ueno, eds.), World Scientific 1998.
  3. String partition functions and infinite products, (with K. Yoshioka) Adv. Theor. Math. Phys., 4 (2000), 397--485.
  4. String and Vortex, Publ. RIMS, Kyoto Univ., 40 (2004), 1063--1091.
  5. Abelian Vortices on Nodal and Cuspidal Curves, JHEP11(2009)111.
  6. Twisted Elliptic Genera of N=2 SCFTs in Two Dimensions, Journal of Physics A: Mathematical and Theoretical 45.39 (2012): 395401.

准教授 川北 真之 (代数幾何学)
 双有理幾何学における極小モデルプログラム(MMP)は,標準因子の比較によって各双有理同値類を代表する多様体を抽出するプログラムである。3次元では森が本来のプログラムを作り,その後主にShokurovの努力により完成した。MMPの完成にはフリップの存在と終止が必要であるが,その存在はBirkar,Cascini,Hacon,McKernanによって一般次元で示された。
 3次元双有理幾何の詳細な理解の要請に応えて,私は3次元因子収縮写像の系統的研究を行った。3次元では収縮先が点のときが本質的で,これらの写像を食違い係数が小さい場合を除き完全に分類し,残る場合も分類方法を確立した。研究過程ではReidのgeneral elephant予想も証明した。
 高次元MMPの目下の最重要な課題はフリップの終止予想である。私はMMPの過程で現れる特異点を極小対数的食違い係数を手掛かりに研究している。MMPの特異点は極小対数的食違い係数により定義され,さらにフリップの終止は係数の下半連続性と昇鎖律の二予想に還元されるからである。
 私は始めに逆同伴問題を研究した。(逆)同伴とは,多様体と因子の組から因子上に新たな組が導入されるときの,両組の特異点の比較である。私は両組の対数的標準性の同値性を証明した。より一般に両組の極小対数的食違い係数の一致が予想され,Ein,Musta\c{t}\u{a},安田のモチーフ積分論の手法を一般化した。
 極小対数的食違い係数の有界性は,下半連続性及び昇鎖律のどちらの系でもある予想である。私は特異点の超平面切断が与えるArtin環の解析から,3次元における係数の有界性とGorenstein端末特異点の特徴付けを回復した。また特異点の有界性問題として,厳密な3次元標準特異点のGorenstein指数は6以下であるというShokurovの予想を証明した。
 Kollárとde Fernex,Ein,Musta\c{t}\u{a}は対数的標準閾のイデアル進半連続性を示し,イデアルの生成極限を用いて昇鎖律へ応用させたが,私はその極小対数的食違い係数への拡張を研究した。さらに多様体とイデアルの指数が指定された時の,対数的標準な組の対数的食違い係数全体の集合の離散性を示し,系として局所完全交叉特異点の極小対数的食違い係数の昇鎖律を得た。
 イデアルの生成極限は形式的べき級数環上定義される。私はShokurov,Kollárの連結性補題を形式的べき級数環上で考察し,3次元最小対数的標準中心の存在と正規性を証明した。これを用いてCascini,McKernanによる昇鎖律の定式化を,3次元非特異多様体上の1より大きい極小対数的食違い係数について示した。
  1. Divisorial contractions in dimension three which contract divisors to smooth points, Invent. Math., 145, No.1, 105-119 (2001)
  2. General elephants of three-fold divisorial contractions, J. Amer. Math. Soc., 16, No.2, 331-362 (2003)
  3. Three-fold divisorial contractions to singularities of higher indices, Duke Math. J., 130, No.1, 57-126 (2005)
  4. Inversion of adjunction on log canonicity, Invent. Math., 167, No.1, 129-133 (2007)
  5. On a comparison of minimal log discrepancies in terms of motivic integration, J. Reine Angew. Math., 620, 55-65 (2008)
  6. Towards boundedness of minimal log discrepancies by Riemann--Roch theorem, Am. J. Math. 133, No.5, 1299-1311 (2011)
  7. Ideal-adic semi-continuity problem for minimal log discrepancies, Math. Ann. 356, No.4, 1359-1377 (2013)
  8. Discreteness of log discrepancies over log canonical triples on a fixed pair, J. Algebr. Geom. Geom. 23, No.4, 765-774 (2014)
  9. The index of a threefold canonical singularity, Am. J. Math. 137, No.1, 271-280 (2015)
  10. A connectedness theorem over the spectrum of a formal power series ring, arXiv:1403.7582

准教授 齋藤 盛彦 (代数解析学の研究)
 ホッジ加群[1][2]や$D$-加群の理論の応用等について研究を続けている。混合ホッジ加群の更により簡明な定義を得る為には,やはり幾何学的混合ホッジ加群の場合に話を限るしか手が無い様ではあるが,それでもまだかなりの技術的複雑さを残しているのは或る程度はやむを得ない事なのかもしれない。これはドリーニュの混合ホッジ構造の基礎理論のかなりの部分が多重フィルトレーションや多重スペクトル系列の話から成っている事からしても避けられない事の様に思われる。完全圏を使った多重スペクトル系列の議論の簡易化に関してはもっと強調した方が良いのかもしれない。
 ディムカ氏との共同研究[3][4]では,射影超曲面の孤立特異点が全て重み付き斉次多項式で定義されている場合においては,やはり極位数スペクトル系列の$E_2$退化を示さなければ話に成らないと言う結論に至ったので,現在その証明を執筆中である。この話は$b$-関数の理論とも密接に関係しており,かなり興味深い様に思われる。超平面配置の$b$-関数に関しては,デーネフ・ロゼールのゼータ関数の極と$b$-関数の根の重複度に関する予想が3次元の場合に解けたので,論文[5]の最後に付け加えた。これは,重複度を除いては既に証明済みの事ではある。
 許容法関数の零点の定義体に関する理論を,カタニ・ドリーニュ・カプランによって研究されたホッジ類となる点からできる代数部分多様体の定義体についての話に拡張しようというシュネル氏との共同研究[6]については,予想以上にうまくいったと一応言えるのではあるが,動機のひとつとなった数年前の或る論文に関してあまり明瞭でない箇所が発見されたので,その部分を何とかしようとかなりの努力を行った。結局思ったほどにはうまくいかなかったのではあるが,多少とも問題の性質は明らかになったのではないかと思われる。その他には,カラビ・ヤウ射影超曲面に付随したフロベニウス多様体に関する考察[7]なども行っている。
  1. Modules de Hodge polarisables, Publ. RIMS, Kyoto Univ. 24 (1988), 849--995.
  2. Mixed Hodge Modules, Publ. RIMS, Kyoto Univ. 26 (1990), 221--333.
  3. Koszul complexes and spectra of projective hypersurfaces with isolated singularities, preprint (with Alexandru Dimca)
  4. Generalization of theorems of Griffiths and Steenbrink to hypersurfaces with ordinary double points, preprint (with Alexandru Dimca)
  5. Bernstein-Sato polynomials of hyperplane arrangements, preprint
  6. Fields of definition of Hodge loci, preprint (with Christian Schnell)
  7. Period maps to Gauss-Manin systems and Frobenius manifolds, preprint

准教授 竹井 義次 (微分方程式の研究)
 Borel 総和法に基礎をおく完全 WKB 解析は,特に2階の線型常微分方程式の解の大域解析に威力を発揮する ([1])。一方,仮想的変わり点が存在し Stokes曲線の構造が2階の場合ほど単純ではない高階方程式や,形式解の Borel 変換の構造が複雑な非線型方程式については,いまだ解明すべき多くの課題が残っている。 この現状を踏まえ,最近は特に完全 WKB 解析の完全積分可能系への拡張や,WKB 解及びインスタントン型形式解の Borel 変換の構造解析について重点的に研究を行っている。
 まず完全 WKB 解析の完全積分可能系への拡張については,変わり点の交差現象が起こる点(変わり点集合のカスプ状の特異点)における線型方程式系の標準形が,最も退化した2変数超幾何方程式系(Pearcey 系)により与えられるという廣瀬の結果の非線型版を得ることが当面の課題である。こうした変わり点の交差現象は,高階常微分方程式の仮想的変わり点の問題とも密接に関連しており ([2]),廣瀬の結果の非線型版が得られれば,高階 Painlevé 方程式に対する完全 WKB 解析にも新たな展開がもたらされると期待される。我々は,非線型の変わり点の交差現象が起こる点での標準形が,4階の I 型 Painlevé 方程式の拡張である2変数退化Garnier 系により与えられると予想している ([9])。この予想は又,勾配カタストロフが起こる点での KdV 方程式の漸近解の挙動が4階の I 型 Painlevé方程式の解により記述されるという Dubrovin の結果とも関係すると考えられる。 第1種変わり点における構造定理 ([3],[6]) の証明を参考にしてこの予想を証明することが第一の目標である。
 他方,WKB 解の Borel 変換の構造解析については,複数の変わり点が存在することに由来する「動かない特異点」と,その記述の鍵となる Voros 係数の解析が主たる課題である。こうした「動かない特異点」や Voros 係数の解析には,Weber 方程式等の標準形への変換論 ([4],[5],[8]) が有効であると同時に,Weber 方程式の Voros 係数を具体的に決定する際の議論が示すように,Bäcklund変換といった微分方程式のもつ離散構造も密接に関係している。微分方程式の離散構造との関連では,ごく最近,Joshi との共同研究を進める中で,離散Painlevé 方程式の漸近解の構造に関する新たな研究の方向性が見えてきた。 すなわち,離散 Painlevé 方程式を通常の Painlevé 方程式と連立させて一つの可積分系として捉えることにより,完全 WKB 解析の離散 Painlevé方程式への応用が可能となり,その漸近解に対する Stokes 現象等を明示的に解析できつつある。この新しいアプローチは,「動かない特異点」や Voros係数の解析のみならず,上記の完全 WKB 解析の完全積分可能系への拡張とも深く関連しており,離散 Painlevé 方程式の完全 WKB 解析というテーマについても今後積極的に取り組んで行きたい。
  1. 特異摂動の代数解析学, 岩波書店, 2008 (1998年刊行の講座版の単行本化, 河合隆裕との共著).
  2. Virtual turning points and bifurcation of Stokes curves for higher order ordinary differential equations, J. Phys.A: Math.Gen., 38(2005), 3317-3336 (with T. Aoki, T. Kawai, S. Sasaki and A. Shudo).
  3. WKB analysis of higher order Painlevé equations with a large parameter, Adv. Math., 203(2006), 636-672 (with T. Kawai).
  4. The Bender-Wu analysis and the Voros theory. II, Advanced Studies in Pure Mathematics, Vol.54, Math. Soc. Japan, Tokyo, 2009, pp.19-94 (with T. Aoki and T. Kawai).
  5. On the WKB theoretic structure of a Schrödinger operator with a merging pair of a simple pole and a simple turning point, Kyoto Journal of Mathematics, 50 (2010), 101-164 (with S. Kamimoto, T. Kawai and T. Koike).
  6. WKB analysis of higher order Painlevé equations with a large parameter. II, Publ. RIMS, Kyoto Univ., 47 (2011), 153-219 (with T. Kawai).
  7. Exact WKB analysis of second-order non-homogeneous linear ordinary differential equations, {\em RIMS Kôkyûroku Bessatsu}, B40 (2013), 293-312 (with T. Koike).
  8. Exact WKB analysis of a Schrödinger equation with a merging triplet of two simple poles and one simple turning point. I & II, Adv. Math., 260 (2014), 458-564 & 565-613 (with S. Kamimoto and T. Kawai).
  9. On the fourth order PI equation and coalescing phenomena of nonlinear turning points, RIMS Kôkyûroku Bessatsu, B52 (2014), 301-316.
  10. On the multisummability of WKB solutions of certain singularly perturbed linear ordinary differential equations, Opuscula Math., 35 (2015), 775-802.

准教授 竹広 真一 (地球および惑星流体力学の研究)
 地球および惑星などの天体での流体現象を記述し考察するための流体力学の研究を行なっている。 地球および惑星規模の流れの特徴的な性質を与える主な要因として,惑星が自転していること・重力と密度成層・構成物質の相変化・領域が球形であること,といった点があげられる。 惑星大気やマントル・中心核の現象の複雑な状況を単純化したモデルを構成し,その中に登場する自転速度や重力と密度成層の強さ,球の半径などのパラメターを様々に変えて,計算機を用いた数値実験によって流れの様子を求め,さらに数値実験結果に現れた流れの性質を統合的にとらえるための理論を構築することを試みる。 このような作業を通じて地球や惑星のさまざまな流体現象に内在する基本的な流体力学的ふるまいを理解することを目指している。 また,上記の研究を効率的に行なうための数値計算技法とソフトウェアの開発も行なっている[3,9]。 単純化したモデルを用いて流れの基本的な性質を掌握しておくことは,さまざまな物理過程を取り込んだシミュレーションモデルにおいて表現されるべき流体力学過程を明らかにすることとなり,そのことが地球や惑星の構造とその進化に対する予言能力の獲得につながると期待される。
 これまでの具体的な研究テーマの一つとして,木星型惑星大気・太陽大気および惑星中心核の単純化したモデルである回転球殻内での熱対流の研究があげられる。 この問題に対して,近年急速に発達した計算機を利用して線形安定性と弱非線形計算を数値的に実行し,球殻の回転角速度や厚さなどのパラメターを広い範囲で変化させて発生する熱対流の構造の変化の様子を調べ,その流れの支配要因の分析を詳細に行った[6,7]。 その結果,回転が遅い場合には回転と逆向きに伝播するバナナ型の対流セルが出現すること,回転が速い場合には回転方向と同じ向きに伝播する回転軸に沿った柱状あるいは螺旋状に棚引いた対流セルが出現すること,そしてこの傾向は球殻の厚さに関係なくテイラー数にして $10^4$ 程度のところで遷移すること,を見出した。 そしてバナナ型・柱型・螺旋型といった対流構造と伝播性質が,実は渦度の伸縮に伴う波動運動の性質の違いによるものであることを見出し,従来の単にみかけの形態による対流パターンの分類を力学的な構造に結びつけることに成功した[6,7]。加えて,対流の存在によって生成される平均帯状流の構造を,同様に広いパラメター範囲に渡って求めることを行い,さまざまに変化する帯状流分布の生成の仕組みを分類し明らかにした[10]。最近では,地球内核内の流れ[2], 回転球殻内の磁気流体ダイナモ[3], 木星大気および地球中心核の状況を想定した球殻の上層に安定成層が存在する場合の熱対流による帯状流分布とその生成過程[1,5],ならびに安定成層内の2次元乱流運動[8]についても考察している。 太陽や木星型惑星の表面の平均帯状流は観測可能な物理量であり,各天体の大気運動を特徴づけるものとしてそのパターンが以前から注目され,その生成過程を詳細に調べることは地球惑星科学的な面からも重要である。
  1. Penetration of Alfven waves into an upper stably stratified layer excited by magnetoconvection in rotating spherical shells, Phys. Earth Planet. Inter., 241 (2015) 37--43.
  2. Influence of surface displacement on solid state flow induced by horizontally heterogeneous Joule heating in the inner core of the Earth, Phys. Earth Planet. Inter., 241 (2015), 15--20.
  3. Effects of latitudinally heterogeneous buoyancy flux conditions at the inner boundary on MHD dynamo in a rotating spherical shell, Phys. Earth Planet. Inter., 223 (2013), 55--61. (with Y. Sasaki, S. Nishizawa, and Y.-Y. Hayashi)
  4. "Gtool5": a Fortran90 library of input/output interfaces for self-descriptive multi-dimensional numerical data, Geosci. Model Dev., 5 (2012) 449-455. (with M. Ishiwatari and other 13 authors)
  5. Retrograde equatorial surface flows generated by thermal convection confined under a stably stratified layer in a rapidly rotating spherical shell, Geophys. Astrophys. Fluid Dyn., 105 (2011) 61-81. (with M. Yamada and Y.-Y. Hayashi)
  6. On the retrograde propagation of critical thermal convection in a slowly rotating spherical shell, J. Fluid Mech, 659 (2010) 505-515.
  7. Physical interpretation of spiralling-columnar convection in a rapidly rotating annulus with radial propagation properties of Rossby waves, J. Fluid Mech., 614 (2008) 67-86.
  8. Circumpolar jets emerging in two-dimensional non-divergent decaying turbulence on a rapidly rotating sphere, Fluid Dynam. Res., 39 (2007) 209-220. (with M. Yamada and Y.-Y. Hayashi)
  9. SPMODEL: A series of hierarchical spectral models for geophysical fluid dynamics, Nagare Multimedia (2006)
    http://www.nagare.or.jp/mm/2006/index_en.htm (with M. Odaka, K. Ishioka, M. Ishiwatari, Y.-Y. Hayashi and SPMODEL Development Group)
  10. Mean zonal flows excited by critical thermal convection in rotating spherical shells, Geophys. Astrophys. Fluid Dyn., 90 (1999), 43--77. (with Y.-Y. Hayashi)

准教授 照井 一成 (数理論理学に関する研究)
 「古典論理を理解するための非古典論理学」を推進する一方,計算量,プログラムの意味,評価戦略など,計算機科学にまつわる諸問題を数理論理学によって解明することを目指している。かつて論理学といえば「前提→結論」という推論の研究に範囲が限定されていたが,現代においては「インプット→アウトプット」という計算や,「エージェント↔エージェント」というコミュニケーションをも十分視野に納めている。特に関心をもっているのは,(1)線形論理と(2)部分構造論理である。
 (1)線形論理,これは数学において線形代数が果たすのと同じ役割を論理学において果たすものである。証明やプログラムは線形的な部分と指数関数的な部分に分解できるというのがその核心である。これまでは,線形論理に基づく計算量クラスの特徴付け[8,9],線形論理から派生したルディクス(あそび)の理論に基づく計算論再構築の試みなどを行ってきた[3]。またルディクスの枠組みで,伝統的な完全性定理(証明可能性 vs 反証可能性)を証明-モデル間のコミュニケーションとして理解する試み[7], 再帰型の一意的解釈[6]等の研究を行った。最近では,線形論理のモデルを用いて(単純型付き)ラムダ計算のプログラムを高速に実行する方法を考案した。それによりシューベルトの問題 (ラムダ項の正規化にかかる計算量を項のオーダーnごとに確定する問題: $n=2,3$ については 2001年に解決済み)に一定の条件付きではあるが一般解を与えることに成功した[1]。
 (2)部分構造論理,これは構造規則を弱めることによって得られる論理一般の系を考察することにより論理の本質に迫ろうという試みである。主な成果としては,まず与えられた部分構造論理(のシークエント計算)について証明論の基本定理(“補題を用いて間接的に証明できることは直接的にも証明できる”こと)が成り立つための必要十分条件を代数的に与えたことがあげられる[10]。現在提唱しているのは,非古典論理における代数的証明論のプログラムであり,これはさまざまな論理的公理を証明論的難易度に従って階層づけ,そして証明論的手法と代数的手法の相互作用を通じて新しいタイプの結果を出していこうというものである[2]。鍵となるのは,証明論の基本定理は代数の言葉でいえば完備化に相当するという洞察である。これにより証明論的研究と代数的研究を結び付けることが可能になり,部分構造論理一般の可能性と限界を画定するという目標が一気に現実味を帯びてきた。具体的成果としては,まず選言特性と計算量を関連付けることにより,多くの部分構造論理がPSPACE困難であることを証明した[4]。また証明論的手法を代数の文脈に直接適用することにより,多くの剰余束の等式クラスが完備化について閉じていることを証明した[5]。
  1. Kazushige Terui. Semantic Evaluation, Intersection Types and Complexity of Simply Typed Lambda Calculus. Proceedings of 23rd International Conference on Rewriting Techniques and Applications (RTA'12), pp. 323-338, 2012.
  2. Agata Ciabattoni, Nikolaos Galatos and Kazushige Terui. Algebraic proof theory for substructural logics: Cut-elimination and completions. Annals of Pure and Applied Logic, 163, No. 3, pp. 266-290, 2012.
  3. Kazushige Terui. Computational ludics. Theorical Computer Science, 412, No. 20, pp. 2048-2071, 2011.
  4. Rostislav Horcik and Kazushige Terui. Disjunction property and complexity of substructural logics. Theoretical Computer Science, 412, No. 31, pp. 3992-4006, 2011.
  5. Agata Ciabattoni, Nikolaos Galatos and Kazushige Terui. MacNeille completions of FL-algebras. Algebra Universalis, 66, No. 4, pp. 405-420, 2011.
  6. Michele Basaldella and Kazushige Terui. Infinitary completeness in ludics. Proceedings of IEEE Annual Symposium on Logic in Computer Science (LICS'10), pp. 294-303, 2010.
  7. Michele Basaldella and Kazushige Terui. On the meaning of logical completeness. Logical Methods in Computer Science, 6, No. 4, 2010.
  8. Patrick Baillot and Kazushige Terui. Light types for polynomial time computation in lambda calculus. Information and Computation, 207, No. 1, pp. 41-62, 2009.
  9. Kazushige Terui. Light affine lambda calculus and polynomial time strong normalization. Archive for Mathematical Logic, 46, No. 3-4, pp. 253-280, 2007.
  10. Kazushige Terui. Which structural rules admit cut elimination? An algebraic criterion. Journal of Symbolic Logic, 72, No. 3, pp. 738-754, 2007.

准教授 中山 昇 (代数多様体・複素多様体の研究)
 代数多様体や複素多様体の双有理幾何学を研究している。小平次元,多重種数,不正則数,代数次元などの双有理不変量を用いて多様体の構造を解明している。このうち標準因子に関係する不変量を特に重視している。標準因子についてのアバンダンス予想は飯高加法性予想などを導き,双有理幾何学の中心問題と考えられる。このような不変量の研究や,双有理幾何学上重要と思われる多様体の具体的構造に興味があり,ザリスキ分解など代数多様体の因子の数値的性質に関わる研究や,楕円ファイバー空間,トーラスファイバー空間の構造についての研究などを行ってきた。近年は主に以下のテーマ (1),(2) についての研究が多い。
 (1) 全射だが同型でない自己正則写像をもつ多様体の分類:コンパクト非特異曲面の場合は,標数ゼロの代数曲面だけでなく一般の複素解析的曲面の場合にも分類が完成している [2]。また小平次元が非負の $3$ 次元非特異射影代数多様体についても,その構造が解明できた [3]。これらは藤本圭男氏との共同研究で得られた。その他,エタールな自己正則写像や偏極構造を保つ自己正則写像についての D.-Q.~Zhang 氏との共同研究 [5],[6] や,ピカール数 $1$ の非特異ファノ多様体の場合についての J.-M.~Hwang 氏との共同研究 [8] がある。またテーマ (2) と関連するが,同型でない全射自己正則写像をもつ曲面についても研究している。標数ゼロで正規射影的曲面の場合については,少なくとも非有理曲面の場合にはその構造が解明できた (論文は準備中)。正標数の場合,自己正則写像に分離的という条件を課して,非特異射影的曲面の構造を調べた [7]。
 (2) ある種の曲面の分類と構成:石井雄二氏との共同研究により,有理二重点以外の特異点を持つ (3次元射影空間内の) 正規4次曲面の幾何学的分類がなされた [1]。そこで使われた手法の応用によって,指数 \(2\) の対数的デルペッツォ曲面の任意標数での分類に成功した [4]。数年前から Y.~Lee 氏と共同で,種数ゼロで単連結な一般型曲面を特殊な特異有理曲面から $\mathbb{Q}$ ゴレンスタイン変形によって構成する,という Lee--Park の方法を正標数に拡張する研究を始めた。ほんの少しの例外を除いて,ほぼすべての代数閉体上に,代数的エタール基本群が自明で種数ゼロの一般型極小曲面が \(1 \leq K^2 \leq 4\) の範囲で構成できた [9]。また標数に無関係な $\mathbb{Q}$ ゴレンスタイン変形の一般論を現在構築中である。最近,Shokurov のトーリック曲面判定法の条件を緩めることで「不足数1の擬トーリック曲面」と「半トーリック曲面」の判定法を得ることができた (論文は準備中)。前者の曲面にしかるべき全射自己正則写像があるか否かという問題が,テーマ (1) の正規射影的有理曲面の研究に関係する。
  1. (with Y. Ishii) Classification of normal quartic surfaces with irrational singularities, J. Math. Soc. Japan 56 (2004), 941--965.
  2. (with Y. Fujimoto) Compact complex surfaces admitting non-trivial surjective endomorphisms, Tohoku Math. J. 57 (2005), 395--426.
  3. (with Y. Fujimoto) Endomorphisms of smooth projective 3-folds with nonnegative Kodaira dimension, II, J. Math. Kyoto Univ. 47 (2007), 79--114.
  4. Classification of log del Pezzo surfaces of index two, J. Math. Sci. Univ. Tokyo 14 (2007), 293--498.
  5. (with D.-Q. Zhang) Building blocks of étale endomorphisms of complex projective manifolds, Proc. London Math. Soc., 99 (2009), 725--756.
  6. (with D.-Q. Zhang) Polarized endomorphisms of complex normal varieties, Math. Ann. 346 (2010), 991--1018.
  7. Separable endomorphisms of surfaces in positive characteristic, Algebraic Geometry in East Asia -- Seoul 2008, pp.301--330, Adv. Stud. in Pure Math. 60 (2010).
  8. (with J.-M. Hwang) On endomorphisms of Fano manifolds of Picard number one, Pure and Appl. Math. Quarterly. 7 (2011), 1407--1426.
  9. (with Y. Lee) Simply connected surfaces of general type in positive characteristic via deformation theory, Proc. London Math. Soc. 106 (2013), 225--286.

准教授 葉廣 和夫 (位相幾何学の研究)
 3次元トポロジーにおける代数的および圏論的な構造に興味を持ち研究している。Jones多項式やWitten-Reshetikhin-Turaev不変量などの量子不変量は,タングルの圏やコボルディズムの圏などから,ベクトル空間の圏や加群の圏など代数的に定義される圏への関手として構成される。このような関手を定義するには,量子群と呼ばれるHopf代数が用いられる。
 [1]では,3次元多様体と絡み目のクラスパーに沿った手術により生成される同値関係について研究した。クラスパーはHopf代数的な性質を満たすが,これは,円周を境界に持つ曲面を対象とし,コボルディズムを射とする圏におけるbraided Hopf代数構造(Crane-Yetter,Kerlerによる)と対応している。[3]においては,タングルの圏の部分圏でbraided Hopf代数の「作用」を許容するようなものと,その量子不変量への応用について考察した。また,[6]において,曲面を対象としラグランジアン同境を射とする圏において定義される関手として,Le-Murakami-Ohtsuki型の不変量を構成した。[7]において,この関手を曲面のホモロジーシリンダーのなす半群へ応用した。
 [5]において,すべての1の巾根における整係数ホモロジー3球面の$sl_2$ Witten-Reshetikhin-Turaev不変量を統一するような不変量を構成した。この不変量は[2]で考察した多項式環の完備化に値をとる。
 [8]において,量子群$U_q(sl_2)$の圏化においてリボン元に対応する複体を構成した。[10]では,$U_q(sl_2)$の圏化のトレース(0次Hochschildホモロジー群)について考察した。
 3次元多様体の量子不変量の研究において重要な役割を果たすKirbyの定理は,3次元球面内の2個の枠付き絡み目が同相な3次元多様体をDehn手術により与えるための必要十分条件を与える。この定理の一つの精密化として,[4]において整係数ホモロジー球面を考えるときには,絡み行列が対角行列である場合のみを考えれば十分であるということ(Hosteによる予想)を証明した。[9]では,3次元多様体の中のnull-homologousな枠付き絡み目に対するKirby calculusについて考察した。
  1. Claspers and finite type invariants of links, Geom. Topol., 4 (2000), 1-83.
  2. Cyclotomic completions of polynomial rings, Publ. RIMS Kyoto Univ., 40 (2004), 1127-1146.
  3. Bottom tangles and universal invariants, Alg. Geom. Topol., 6 (2006), 1113-1214.
  4. Refined Kirby calculus for integral homology spheres, Geom. Topol., 10 (2006), 1185-1217.
  5. A unified Witten-Reshetikhin-Turaev invariants for integral homology spheres, Invent. Math., 171 (2008), 1-81.
  6. A functorial LMO invariant for Lagrangian cobordisms, Geom. Topol., 12 (2008), 1091-1170. (with D. Cheptea and G. Massuyeau)
  7. Symplectic Jacobi diagrams and the Lie algebra of homology cylinders, J.Topology, 2 (2009), 527-569. (with G. Massuyeau)
  8. A categorification of the ribbon elements in quantum sl(2). Preprint. (with A. Beliakova)
  9. Kirby calculus for null-homologous framed links in 3-manifolds. Preprint. (with T. Widmer)
  10. Trace decategorification of categorified quantum sl(2). Preprint. (with A. Beliakova, A. D. Lauda and M. \v{Z}ivkovi\'{c})

准教授 牧野 和久(離散最適化とアルゴリズムの研究)
 グラフ理論,あるいは,組合せ論などの離散的な構造を解析する研究,あるいは,それらの構造を利用した最適化やアルゴリズムの研究を行っている。
 代表的な研究としては,単調な論理関数の双対化問題を研究している[1]。単調な論理関数の双対化問題とは,与えられた論理積形からそれと等価な単調な論理和形を求める問題であり,数理計画,人工知能,データベース,分散システム,学習理論など様々な分野に現れる数多くの重要かつ実用的な問題と(多項式時間還元の意味で)等価であることが知られている。1996 年にFredmanとKhachiyan による準多項式時間で解けることは示されているが,未だに多項式時間で解けるかどうかわかっていない。この双対化問題は,この問題は,単調論理関数の論理積形,論理和形という2つの双対的な表現が与えられたときに,それらが等価であるかを判定する問題と等価であり,人工知能分野において重要な役割をもつホーン理論におけるホーンルールと特性ベクトル集合という双対表現の等価性とも関連する[2]。また,列挙分野においてその計算量が未解決であった多くの問題がこの双対化問題に準多項式帰着可能であることがわかってきた[3,4]。
 さらに推論分野における論理仮説の補完問題に対して,広く信じられていた予想を覆し,最も重要なクラスであるホーン推論において,逐次多項式時間で可能であることを示した[5]。
 上記以外にも,整数線形不等式系[6],相補性問題[7],オンライン最適化問題[8],ロバスト最適化[9],ゲーム理論における均衡解に関する研究[10] などを行っている。
  1. New Results on Monotone Dualization and Generating Hypergraph Transversals, SIAM Journal on Computing, 32 (2003) 514-537 (with T. Eiter and G. Gottlob)
  2. Computing Intersections of Horn Theories for Reasoning with Models, Artifical Intelligence 110(1999) 57-101. (with T. Eiter and T. Ibaraki)
  3. Dual-Bounded Generating Problems: All Minimal Integer Solutions for a Monotone System of Linear Inequalities, SIAM Journal on Computing 31 (2002) 1624-1643. (with E. Boros, K. Elbassioni, V. Gurvich, and L. Khachiyan)
  4. Dual-Bounded Generating Problems: Efficient and Inefficient Points for Discrete Probability Distributions and Sparse Boxes for Multidimen- sional Data, Theorical Computer Science 379 (2007) 361-376. (with L. Khachiyan, E. Boros, K. Elbassioni, and V. Gurvich)
  5. On Computing All Abductive Explanations from a Propositional Horn Theory, Journal of the ACM 54 (5) (2007). (with T. Eiter)
  6. Trichotomy for Integer Linear Systems Based on Their Sign Patterns, STACS 2012. (with K. Kimura)
  7. Sparse Linear Complementarity Problems, CIAC 2013. (with H. Sumita, N. Kakimura).
  8. Online Removable Knapsack with Limited Cuts. Theoretical Computer Science 411 (2010) 3956-3964, (with X. Han).
  9. Robust Independence Systems, ICALP (2011) 367-378. (with N. Kakimura)
  10. A Pseudo-Polynomial Algorithm for Mean Payoff Stochastic Games with Perfect Information and a Few Random Positions, ICALP (2013). (with E. Boros, K. Elbassioni, and V. Gurvich)

講師 岸本 展(偏微分方程式の研究)
 非線形偏微分方程式,特に分散型と呼ばれるクラスの発展方程式(非線形シュレディンガー方程式,KdV方程式等が含まれる)について,実解析的手法に基づいて初期値問題の適切性(解の存在と一意性,初期値の変動に対する安定性)や,線形解への散乱・有限時間爆発といった解の時間大域的性質等を研究している。
 線形分散型方程式の発展作用素は,放物型方程式ほど顕著ではないが,その分散性(異なる周波数の波が異なる速度で伝播する性質)に由来する平滑化効果を持ち,これは非線形方程式を解析する際に重要な道具となる。1990年代に登場したフーリエ制限ノルム法は,この種の平滑化効果を捉える新たな手法として,非線形分散型方程式の研究を飛躍的に進展させた。現在までの研究では,方程式の線形部分の性質に基づいたフーリエ制限ノルム法に,個々の方程式の非線形部分がもたらす相互作用の影響を考慮した修正を加えるというアイデアにより,精密な結果を得ることに成功した[1-6]。
 ここ数年は主として周期境界条件下での(即ちトーラス上での)初期値問題に取り組んでいる。トーラスのようなコンパクトな空間上では,解の分散性に由来する平滑化効果は大幅に制限されるが,方程式の線形部分のもつ振動の周波数が非線形部分の周波数からずれている状況(非共鳴状態)において,フーリエ制限ノルム法を用いることである程度の平滑化効果を引き出せる。これを活用すれば通常の(ユークリッド空間上で考える)問題と同様の結果が得られる場合がある[6-9]が,問題によっては本質的な違いが現れることもある[10]。 また,最近では初期値問題の解の一意性について研究しており,部分積分により方程式を繰り返し変形する手法(一種のノーマルフォーム)を用いた一意性証明の一般的な枠組みの開発に取り組んでいる。
 周期境界条件下では,十分な平滑化効果を得られない共鳴状態にある周波数がどれくらいあるかを見積もることが重要となる。波の振動は離散的な波数(格子点)に制限されているので,特定の条件をみたす格子点の個数を評価することが必要となり,この段階で例えば球面上の格子点の個数の評価などといった組み合わせ論的な知識がしばしば有用となる。また,空間2次元以上で各方向の周期が異なる場合に,周期(の比)によって解の性質にどういった違いが現れるかにも興味を持っている。
  1. Local well-posedness for the Cauchy problem of the quadratic Schrodinger equation with nonlinearity $\bar{u}^2$, Communications on Pure and Applied Analysis 7 (2008), 1123-1143.
  2. Low-regularity bilinear estimates for a quadratic nonlinear Schrodinger equation, Journal of Differential Equations 247 (2009), 1397-1439.
  3. Well-posedness of the Cauchy problem for the Korteweg-de Vries equation at the critical regularity, Differential and Integral Equations 22 (2009), 447-464.
  4. Counterexamples to bilinear estimates for the Korteweg-de Vries equation in the Besov-type Bourgain space, Funkcialaj Ekvacioj 53 (2010), 133-142.
  5. Local well-posedness for quadratic nonlinear Schrodinger equations and the "good" Boussinesq equation, Differential and Integral Equations 23 (2010), 463-493. (with K. Tsugawa)
  6. Sharp local well-posedness for the "good" Boussinesq equation, Journal of Differential Equations 254 (2013), 2393-2433.
  7. Local well-posedness for the Zakharov system on multidimensional torus, Journal d'Analyse Mathematique 119 (2013), 213-253.
  8. Resonant decomposition and the I-method for the two-dimensional Zakharov system, Discrete and Continuous Dynamical Systems 33 (2013), 4095-4122.
  9. Construction of blow-up solutions for Zakharov system on T^2, Annales de l'Institut Henri Poincare (C) Analyse Non Lineaire 30 (2013), 791--824. (with M. Maeda)
  10. Remark on the periodic mass critical nonlinear Schrodinger equation, Proceedings of the American Mathematical Society 142 (2014), 2649--2660.

講師 福島 竜輝(確立論)
 主にランダム媒質中の確率過程の研究を行っている。この分野の研究は空間的に一様でない媒質における物理現象を理解するという動機から始まったが,二重のランダムネスが生み出す多様な現象の定式化や解析の過程で数学的にも新しい概念や手法が生まれてきた。典型的なモデルを挙げると,各点での遷移確率がランダムなランダムウォーク(ランダム媒質中のランダムウォーク),強磁性と反磁性がランダムに混ざったスピン系(スピングラス),ランダムポテンシャルを伴うSchrödinger 作用素(Anderson 模型)ながあるが,私自身はこれまではAnderson 模型に関わる研究を中心に行ってきた。
 Anderson模型は不純物を含む結晶中での電子の運動を記述するモデルとしてP.W.Andersonによって提唱されたモデルであり,そこではとくに低いエネルギーを持つ電子が結晶の中の小さな領域に局在することが議論されている。Andersonの議論は数学的に厳密な証明ではなかったが,その後の多くの数学者の努力によりとくに合金型と呼ばれる,ポテンシャルの配置は規則的であるが高さ(形状)がランダムなモデルに対しては理解が進んできている。一方でポテンシャルの配置がランダムなモデルについては研究が遅れており,合金型に近いと見なせるPoisson配置の場合を除いてほとんど結果が無かった。そこで[1,2,3]では格子点をランダムに揺動したモデルを考察し,作用素の無限体積極限におけるスペクトル分布の挙動を決定した。これはいわゆるAnderson局在を示すための重要なステップになるが,局在の証明にはまだ困難があり将来の課題である。
 またAnderson模型に対応する拡散過程の局在についても,精密な定量的評価を目指して研究している。この方面ではGärtner, König, MolchanovやSznitmanによる先行研究があり,合金型のポテンシャルで短距離の影響力を持つ場合には拡散過程が通常の時間の平方根のスケールより小さい領域に局在することは知られていた。一方で長距離の影響力を持つ場合は異なるスケールで局在が起こることが予想されていたが,これを[4,5]において実際に確かめた。より一般の確率場として長距離相関を持つポテンシャルを扱うことは今後の課題である。
 最近はAnderson模型のポテンシャルに小さな因子を掛けたときにそれがあるランダムでない作用素で近似される,いわゆる均質化の問題も考えている。ポテンシャルの分布に適当な仮定をおけば一次近似は比較的容易であるが,その周りでの揺らぎに関する中心極限定理にあたる結果も示すことができた。とくに高次元では中心極限定理における揺らぎの中心を,均質化の極限ではなく統計平均に取る必要があるように思われ,両者の違いを記述することはこれからの課題である。
この他にdirected polymerと呼ばれるモデルの研究も行い,とくに劣加法エルゴード定理が使えない状況で自由エネルギーの存在を示す方法などについて調べている。
  1. Brownian survival and Lifshitz tail in perturbed lattice disorder Journal of Functional Analysis, vol. 256, issue 9, 2867-2893 (2009)
  2. Classical and quantum behavior of the integrated density of states for a randomly perturbed lattice (joint work with Naomasa Ueki), Annales Henri Poincar\'e, vol. 11, no. 6, 1053-1083 (2010)
  3. Moment asymptotics for the parabolic Anderson problem with a perturbed lattice potential (joint work with Naomasa Ueki), Journal of Functional Analysis, vol. 260, issue 3, 724-744 (2011)
  4. Second order asymptotics for Brownian motion in a heavy tailed Poissonian potential Markov Processes and Related Fields, vol. 17, issue 3, 447-482 (2011)
  5. Annealed Brownian motion in a heavy tailed Poissonian potential, Annals of Probability, vol. 41, no. 5, 3462-3493 (2013)

講師 星 裕一郎(数論幾何の研究)
 私は ``遠アーベル幾何学'' という観点を中心として,双曲的な代数曲線,及び,それから派生する代数多様体の数論的基本群の研究を行っている。
 [1]では,双曲的曲線の数論的基本群に対するカスプ化問題の研究を行った。双曲的曲線の数論的基本群に対するカスプ化問題とは,与えられた双曲的曲線の数論的基本群から,その曲線の開部分スキームや配置空間の数論的基本群を群論的・関手的に復元することができるか,という問題である。 [1]では,有限体上の射影的双曲的曲線の数論的基本群に対するカスプ化問題の副 $\ell$ 版を肯定的に解決した。
 望月新一氏との共同研究 [2],[5]では,組み合わせ論的遠アーベル幾何学の研究を行った。[2]では,ノード非退化な外表現に対する組み合わせ論的 Grothendieck 予想型の結果を証明して,その系として,組み合わせ論的カスプ化の単射性を得た。そして,この単射性を用いて,数体や $p$ 進局所体などといった体の上の双曲的曲線の数論的基本群から生じる外 Galois 表現の忠実性を証明した。また,[5]では,組み合わせ論的遠アーベル幾何学に関する様々な話題の研究が行われており,特に,副有限 Dehn 捻りの一般論を展開して,その帰結として,曲線のモジュライ空間上の普遍曲線に対する幾何学版 Grothendieck 予想を解決した。
 [3],[6]では,遠アーベル幾何学における未解決予想の一つであるセクション予想の研究が行われている。[3]では,(望月新一氏によって,双曲的曲線に対する Grothendieck 予想はその副 $p$ 版も成立することが証明されているにもかかわらず)セクション予想の副 $p$ 版は一般には成立しないこと,また,(Faltings による Mordell 予想の解決によって,数体上の射影的双曲的曲線の有理点は高々有限個であることが証明されているにもかかわらず)無限に多くの副 $p$ Galois セクションの共役類を持つ数体上の射影的双曲的曲線が存在することを証明した。[6]では,有理数体や虚二次体上の代数曲線に対する双有理セクション予想の研究が行われており,特に,そのような体上の代数曲線の双有理 Galois セクションが幾何学的になるためのいくつかの必要十分条件が与えられている。
 [4]では,双曲的曲線に対するモノドロミー充満性についての研究が行われている。双曲的曲線に対するモノドロミー充満性という性質は,楕円曲線に対する ``虚数乗法を持たない'' という性質の類似と考えられ,非常に多くの双曲的曲線がモノドロミー充満であるという事実が,玉川安騎男氏と松本眞氏によって証明されている。[4]では,玉川安騎男氏と松本眞氏によって提出された双曲的曲線のモノドロミー充満性に関するある問題 を,種数が $0$ の場合に否定的に解決した。
 [7],[8]では,それぞれ,多重双曲的曲線,$p$ 進局所体に対する Grothendieck 予想の研究が行われている。[7]では,劣 $p$ 進体上の多重双曲的曲線に関する様々な形の Grothendieck 予想型の結果が議論されており,特に,劣 $p$ 進体上の次元が 4 以下の多重双曲的曲線に対する Grothendieck 予想が解決されている。また,[8]では,$p$ 進局所体の絶対 Galois 群の間の開準同型射に対して,それが体の拡大から生じることと,その開準同型射が $p$ 進表現の Hodge・Tate 性を保つことが同値であるという事実が証明されている。
 [9],[10]で行われている研究の中心的な対象は,数体上の双曲的曲線の穏やかな点である。この対象は,松本眞氏によってその研究が始められ,また,アーベル多様体の等分点の双曲的曲線に対する類似と考えることができる。[9]では,数体上の双曲的曲線に付随する外 Galois 表現の核とその曲線の上の穏やかな点の関連についての研究が行われており,特に,そのような外 Galois 表現に関わる諸問題と Fermat 予想との関連についての議論が与えられている。[10]では,数体上のアーベル多様体の有理等分点の有限性(Mordell・Weil の定理の帰結)の曲線類似と考えることができる,数体上の一点抜き楕円曲線の穏やかな有理点の有限性が証明されている。
  1. Absolute anabelian cuspidalizations of configuration spaces of proper hyperbolic curves over finite fields, Publ. Res. Inst. Math. Sci, 45 (2009), no. 3, 661-744.
  2. On the combinatorial anabelian geometry of nodally nondegenerate outer representations (with Shinichi Mochizuki), Hiroshima Math. J. 41 (2011), no. 3, 275-342.
  3. Existence of nongeometric pro-p Galois sections of hyperbolic curves, Publ. Res. Inst. Math. Sci. 46 (2010), no. 4, 829-848.
  4. On a problem of Matsumoto and Tamagawa concerning monodromic fullness of hyperbolic curves: Genus zero case, Tohoku Math. J. 65 (2013), no. 2, 231-242.
  5. Topics surrounding the combinatorial anabelian geometry of hyperbolic curves I: Inertia groups and profinite Dehn twists (with Shinichi Mochizuki), ``Galois-Teichmüller Theory and Arithmetic Geometry''. 659-811, Adv. Stud. Pure Math., 63, Math. Soc. Japan, Tokyo, 2012.
  6. Conditional results on the birational section conjecture over small number fields, to appear in the Proceedings for Symposium in Durham (July 2011) ``Automorphic Forms and Galois Representations''. vol. 2, 187--230, London Math. Soc. Lecture Note Ser., 415, Cambridge Univ. Press, Cambridge, 2014.
  7. The Grothendieck conjecture for hyperbolic polycurves of lower dimension, J. Math. Sci. Univ. Tokyo 21 (2014), no. 2, 153--219.
  8. A note on the geometricity of open homomorphisms between the absolute Galois groups of p-adic local fields, Kodai Math. J. 36 (2013), no. 2, 284-298.
  9. On the kernels of the pro-$l$ outer Galois representations associated to hyperbolic curves over number fields, to appear in Osaka J. Math.
  10. Finiteness of the moderate rational points of once-punctured elliptic curves, to appear in Hokkaido Math. J.

助教 伊藤 哲也(位相幾何学・幾何学的及び組み合わせ群論)
 組みひも群,順序群およびその一般化などを中心に,関係するトポロジー・幾何・代数及びその組み合わせ構造について幅広く研究している。
 順序群とは,群自身の作用で不変であるような全順序を持つ群であり,群の一次元力学系と密接に関連した概念である。近年では三次元多様体の基本群に対して,順序付け可能性,Heegaard Floer Homology,taut葉層構造との関連が予想されるなど,順序群の概念は低次元トポロジーにおいても着目されるようになっている。私は主にトポロジーの問題意識から,非自明な順序群及び順序の構成や,順序構造のトポロジーの問題への応用などについて研究を行っている。
 [1,8]では,Dehornoy順序と呼ばれる組みひも群の標準的な順序をトポロジーへ応用することについて考察した。Dehornoy順序を用いて,Birman-MenascoによるBraid foliationの理論での特異点の数が評価できることを示し,特に組みひものDehornoy順序が十分に大きい,あるいは小さいときにはその組みひもから得られる結び目の補空間及び幾何構造が組みひものNielsen-Thurston分類と一対一に対応することを示した。また,応用としてBigelowによる予想「非忠実な量子表現から得られる量子不変量は自明な結び目を区別できない」を肯定的に解決した。
 近年では川室圭子氏との共同研究により,三次元(接触)多様体をそのオープンブック分解を利用して幾何的に調べる手法であるopen book foliationの理論を導入した。Open book foliationの手法による研究を進め,閉組みひも表示された横断的結び目のself-linking numberの公式や,位相幾何的な手法による接触構造のtight性の議論などの結果を得た[2--5]。
 また,最近では組みひも群の線形表現の構造について調べ,組みひも群のホモロジー表現や量子表現が組みひも群のdual Garside構造と密接に関連していることを明らかにした[6,7]。これは,これらの表現が忠実であることよりも強く,線形表現が組みひもの組み合わせ構造を強く反映し,より深い情報を持つことを示している。

  1. T. Ito, Braid ordering and the geometry of closed braids, Geom. Topol, 15 (2011), 473--498.
  2. T. Ito and K. Kawamuro, Open book foliation, Geom. Topol. 18 (2014) 1581--1634.
  3. T. Ito and K. Kawamuro, Visualizing overtwisted discs in open books, Publ. Res. Inst. Math. Sci, 50 (2014) 169--180.
  4. T. Ito and K. Kawamuro, Operations on open book foliations, Algebr. Geom. Topol. 14 (2014) 2983--3020.
  5. T. Ito and K. Kawamuro, Overtwisted discs in planar open books, Internat. J. Math. 26, 1550027 (2015) 29pages.
  6. T. Ito, Reading the dual Garside length of braids from homological and quantum representations, Comm. Math. Phys. 335 (2015) 345--367.
  7. T. Ito and B. Wiest, Lawrence-Krammer-Bigelow representations and dual Garside length of braids, Geom. Topol. to appear
  8. A kernel of braid group representation yields a knot with trivial knot polynomials, Math. Z. to appear.

助教 入江 慶(幾何学の研究)
 シンプレクティック幾何学(特にHamilton系の周期解やシンプレクティック容量)と,関連する話題について研究している。大域シンプレクティック幾何学における記念碑的な結果であるGromovの圧縮不能性定理は,擬正則曲線を用いてシンプレクティック多様体の「二次元的な幅」(シンプレクティック容量)を測ることで示された。その後Hoferらは,シンプレクティック容量の研究と,Hamilton系の周期解の研究とが密接に関わることを見出した。この発見は,Floerホモロジーと結びつき,Floer, Hofer, Viterbo等によるシンプレクティック・ホモロジー (定量的なFloerホモロジー)の理論へと深化した。私自身は,これらの研究の発展や応用を目標にしている。
 例えば[1]では,Euclid空間内の領域の単位余接束に対して,そのシンプレクティック・ホモロジーから決まる容量(Floer-Hofer-Wysocki 容量)の評価を与え,応用として,領域上の周期ビリヤード軌道の長さについて幾何学的な不等式を導いた。[2], [4], [5]はこれに関連する研究である。特に[4]では,Euclid空間内の領域に対して,その単位余接束のシンプレクティック・ホモロジーを,領域の自由ループ空間の(相対)ホモロジーを用いて記述する公式を証明した。閉多様体$M$について,その余接束のFloerホモロジーは$M$の自由ループ空間のホモロジーと同形になることが知られているが(Viterbo, Salamon-Weber, Abbondandolo-Schwarzによる),[4]の結果はこれの境界付多様体版(の特別な場合)といえる。一方[3]では,Floerホモロジーの積構造を利用してシンプレクティック容量(Hofer-Zehnder容量)を評価する方法を考えて,余接束の場合に応用を与えた。
 すでに述べたように,余接束のFloerホモロジーは自由ループ空間のホモロジーと同形になる。このとき,Floerホモロジーの持つ代数構造は,自由ループ空間の側でストリング・トポロジーとして研究されている代数構造と対応すると考えられている。例えば,Floerホモロジーのパンツ積はストリング・トポロジーにおけるChas-Sullivanループ積と対応することがAbbondandolo-Schwarz等により証明されており,これは\cite{JEMS}でも重要な役割を果たす。Floerホモロジーにおける高次の積を記述するには,ストリング・トポロジーにおける積を鎖複体のレベルで定義する必要があるが,その際に横断正則性に関する基本的な困難がある。[6]では,これに対してde Rham鎖という概念を用いる新しいアプローチを提案し,自由ループ空間の(特異)ホモロジーと同形なホモロジーを持つ鎖複体であって,ストリング・トポロジーにおける演算がうまく定義できるようなものを導入した。これに続く[7]では,この鎖複体の上に,ある次数付微分オペラッド(サボテン・オペラッドの変種)の作用を定義し,Chas-Sullivanにより定義された自由ループ空間のホモロジー上のBatalin-Vilkovisky構造を復元することを示した。

  1. Symplectic capacity and short periodic billiard trajectory, Math. Z. 272, 1291--1320, 2012.
  2. Displacement energy of unit disk cotangent bundles, Math. Z. 276, 829--857, 2014.
  3. Hofer-Zehnder capacity of unit disk cotangent bundles and the loop product, J. Eur. Math. Soc, (JEMS) 16, 2477--2497, 2014.
  4. Symplectic homology of disk cotangent bundles of domains in Euclidean space, J. Symplectic Geom, 12, 511--552, 2014.
  5. Periodic billiard trajectories and Morse theory on loop spaces, Comment. Math. Helv. 90, 225--254, 2015.
  6. Transversality problems in string topology and de Rham chains, arxiv:1404.0153
  7. A chain level Batalin-Vilkovisky structure in string topology and decorated cacti, arxiv:1503.00403

助教 大浦 拓哉 (数値解析,数値計算法の開発)
 数値解析の分野での基礎的な数値計算法の開発およびその解析を中心に行っている。これまでの主な研究内容は,フーリエ型積分変換の高速高精度計算の研究である。
 無限区間の収束の遅いフーリエ型積分の計算はさまざまな理工学の分野で必要とされるが,絶対収束しないような収束の遅いフーリエ積分は,十数年ほど前までは計算機で値を計算することが困難であった。この計算困難性の問題は,無限区間のフーリエ積分の計算が応用上非常に重要であるという背景から,日本や海外の多くの研究者を悩ませてきた。この収束の遅いフーリエ積分の計算法はここ十数年ほどで飛躍的に進歩し,筆者および森正武氏により,いくつかのフーリエ積分に対して有効な二重指数関数型公式(DE公式)の提案を行い,この困難を克服した[1],[2],[3],[8],[11]。これらの公式の提案により,収束の遅いフーリエ積分が通常の有限区間の積分と同程度の手間で計算可能となった。なお,本論文のアルゴリズムは,有名な数学ソフトウェアMathematicaでの数値積分``NIntegrate''で採用されている。
 フーリエ型積分変換計算のもうひとつのアプローチとして,連続オイラー変換の研究 [4],[5],[7],[10]がある。連続オイラー変換は,収束の遅い,または緩やかに発散するフーリエ積分を速く収束するフーリエ積分に変換するための方法として私が考案したものである。この連続オイラー変換を応用することで,今まで計算が困難だった収束の遅いまたは緩やかに発散するフーリエ積分に対する高速高精度の数値計算が可能になった。さらに,級数加速に関する有名な書である G. H. Hardy 著の``Divergent Series'', Oxford University Press, (1949) にはオイラー変換((E,1) definition)の連続版は存在しないと記されていて(pp.11),この連続オイラー変換の発見はその記述を覆すものであり,数値解析の分野において,この発見は今後さらに大きな革新をもたらすものであるとの予測がついている。今後の研究課題は,この連続オイラー変換の研究を発展させ,さまざまな数値計算に応用することである。
 その他の積分計算法の研究として,変数変換型数値積分公式の高速高精度化を行った[6],[9],[12]。論文[6]ではさまざまなタイプのDE公式(二重指数関数型数値積分公式)の信頼性と計算効率をともに向上させる方法の提案を行った。この方法を用いることでDE公式の誤差の信頼性を大きく向上させることができ,さらに計算時間の短縮も可能となった。また,論文[9]ではDE公式と同じ漸近性能を持つIMT型公式の提案を行った。変数変換型数値積分公式は,代表的なものに伊理正夫・森口繁一・高澤嘉光のIMT公式と,高橋秀俊・森正武のDE公式があるが,IMT公式はその多くの改良版も含めて,DE公式に漸近性能で劣っていた。この論文では,DE公式と同じ漸近誤差を達成するIMT型積分公式を初めて提案した。
 また,フーリエ積分の計算の一環として,汎用で高速なFFT(高速フーリエ変換)ライブラリの作成を行った。この方法は,Split-Radix FFTに再帰的なバタフライ演算をさせることでメモリーアクセスを高速化したものである。このライブラリはWEBで一般公開し,多くの教育機関や企業で用いられている。今後はさらに多くの数値計算ライブラリの開発および改良を行う予定である。
  1. The double exponential formula for oscillatory functions over the half infinite interval, J. Comput. Appl. Math., 38 (1991), 353--360. (with M. Mori)
  2. Double exponential formulas for Fourier type integrals with a divergent integrand, Contributions in Numerical Mathematics,ed. R. P. Agarwal, World Scientific Series in Applicable Analysis, 2 (1993), 301--308. (with M. Mori)
  3. A robust double exponential formula for Fourier type integrals, J. Comput. Appl. Math., 112 (1999), 229--241. (with M. Mori)
  4. A Continuous Euler Transformation and its Application to the Fourier Transform of a Slowly Decaying Function, J. Comput. Appl. Math., 130 (2001), 259--270.
  5. A Generalization of the Continuous Euler Transformation and its Application to Numerical Quadrature, J. Comput. Appl. Math., 157 (2003), 251-259.
  6. 二重指数関数型数値積分公式の収束判定法の改良, 日本応用数理学会論文誌, 13 (2003), 225-230.
  7. 連続Euler変換による二次元振動積分の計算法, 応用数学合同研究集会報告集, 龍谷大学(2005), 149-152.
  8. A Double Exponential Formula for the Fourier Transforms, Publ. RIMS, Kyoto Univ., 41 (2005), 971-977.
  9. An IMT-type quadrature formula with the same asymptotic performance as the DE formula, J. Comput. Appl. Math., 213 (2008), 232-239.
  10. 連続オイラー変換による超関数の直接計算, 雑誌「数学」,岩波書店,2009年61巻3号.
  11. 二重指数関数型変換を用いた様々な積分変換の計算法, 日本応用数理学会論文誌,Vol.19, No.1, (2009), 73-79.
  12. Fast computation of Goursat's infinite integral with very high accuracy, J. Comput. Appl. Math., 249, (2013), 1--8.

助教 勝股 審也 (理論計算機科学の研究)
 計算機科学の一分野にプログラミング言語の意味論がある。これはプログラミング言語が供える様々な機構を数学的および論理学的にモデル化して調べ, 得られた知見を実際の言語の設計や改良に還元する研究分野である。この分野においてラムダ計算の部分モデルの構成とプログラム変換に関して研究を行なっている。
 プログラミング言語の性質を調べることの多くは, 「任意のプログラムの解釈がある性質を満たす」ことを示す問題に帰着される。この問題を解くには, その性質の中から部分モデルを切り出せばよく, 特にラムダ計算では論理関係と呼ばれる手法が頻繁に用いられてきた。論理関係はラムダ計算の構造に依存して定義されるため, 90年代に入り, ラムダ計算をモナドで拡張してプログラミング言語の持つ様々な機構を表現することが提案されると, モナドに対する論理関係の定義が様々な研究で問題となった。
 これに対し, [1]で意味論的$TT-lifting$というモナドのための論理関係を与える手法を提案した。この手法の特徴はパラメータを変える事で様々な論理関係を導く事ができる柔軟さにある。この柔軟さを応用し, [5]で, 副作用を持つプログラムを二つのモナド的意味論により解釈した時, 両者の間にある関係が成立することを示すための十分条件を与えた。この結果は幅広いクラスの意味論に対して適用でき, 副作用を持つプログラミング言語の意味論の比較や, 安全性の検証に有用である。この研究のテクニックを発展させ, [7]では$TT-lifting$を応用して一般化されたエフェクトシステムのエフェクト健全性を示した。この他, 京都大学数理解析研究所の佐藤哲也氏と共同で, モナド上の前順序に関する研究を行った[6]。モナド上の前順序は, Kleisli圏に対し前順序による豊穣化を与える他, 余代数間の模倣関係の特徴付けに応用されている。[6]ではモナド上の前順序の集まりが射影的極限になっていることを示し, これをもとに具体的なモナドの上の前順序を列挙した。
 一方, 関数型プログラミングに関連する話題として, 融合変換の研究も行ってきた。累積変数付きの関数の融合変換を再帰的定義を用いて行う手法は属性文法のdescriptional compositionという手法を背景としていることが知られている。[3]の研究後, これらの融合変換と属性文法の両者をシステマティックに分析, 導出する枠組として, トレース付きモノイダル圏における属性文法の定式化を[2]で提案した。この定式化を押し進め, [4]では構文上の属性文法をトレースを保つある種の関手として, またそれらのdescriptional compositionを関手の合成として定式化できる事を示した。
  1. A Semantic Formulation of TT-lifting and Logical Predicates for Computational Metalanguage. In Proc. CSL 2005, LNCS, 3634 (2005), 87-102.
  2. Attribute Grammars and Categorical Semantics. In Proc. ICALP 2008, Part II, LNCS 5126, pp. 271-282.
  3. (Joint work with Susumu Nishimura) Algebraic Fusion of Functions with an Accumulating Parameter and Its Improvement. J. Functional Programming, 18, issue 5-6, pp. 781-819.
  4. Categorical Descriptional Composition. In Proc. APLAS 2010, LNCS 6461, pp.222-238.
  5. Relating Computational Effects by TT-Lifting. Information and Computation (Special issue on ICALP 2011), 222 (2013), pp. 228-246.
  6. (Joint work with Tetsuya Sato) Preorders on Monads and Coalgebraic Simulations. In Proc. FoSSaCS 2013, LNCS, 7794 (2013), pp. 145--160.
  7. Parametric Effect Monads and Semantics of Effect Systems. ACM SIGPLAN Notices - POPL '14, 49 (2014), issue 1, pp. 633-645.

助教  川ノ上 帆(代数幾何学の研究)
 代数幾何学,特に正標数の代数多様体の特異点解消について研究している。
 特異点解消は代数幾何学の重要な問題の一つである。標数0の体上で定義された代数多様体はいつでも特異点解消を持つ,というのが1964年の廣中平祐先生による大定理であるが,正標数の場合は特異点解消の存在は高々3次元までしか知られていない。私は任意標数の完全体上で定義された代数多様体の特異点解消を目指して Idealistic Filtration Program (IFP) を提唱し,Purdue大学の松木謙二氏と共同で研究を進めている。IFPはBierstone氏-Milman氏,Villamayor氏らによって簡易化された標数0の場合の特異点解消の構成的証明を正標数の場合にも通用するように翻訳することをその骨子とする。
 雛型となる標数0の場合の構成的証明は,代数多様体の各閉点に不変量を導入し,その最大軌跡を爆発するという方針で与えられる。この不変量の定義の際に鍵となる概念が,最大接触超曲面と呼ばれる非特異な超曲面であるが,正標数の場合は最大接触超曲面が常に存在するとは限らない。IFPにおいては,idealisticfiltration という概念を導入してその構造を解析することで,先頭生成系と呼ばれる最大接触超曲面の代替物を導入する。先頭生成系は正標数においては必ずしも非特異な超曲面を与えるとは限らず,このことに由来する様々な困難が現れる。その内不変量の最大軌跡の非特異性,基本単位となる不変量の上半連続性などの比較的基本的な性質が保証されることを示し,基本的な概念の導入やその性質と共にIFPの基礎付けを与えたのが[1],[2]である。
 上記論文では基本単位となる不変量について議論しているが,実際の特異点解消で登場する不変量はこれらを複雑に組み合わせたものであり,IFPの設定下で機能させる為には様々の変更,調整が必要である。2008年度にこのような不変量の候補を提示したものの,その後の研究でこの不変量が爆発後に増加する例が見付かり,現在はこの病理現象を克服する方向で研究を進めている。
 一つの可能性は本来想定していた対数微分飽和を相対微分飽和と呼ばれる特殊な微分によるより小さな飽和で置き換える方法である。この場合不変量の非増加性は保証されるが,最終状態の一つである単項型状態における非特異性が保証されず,更なる解析が必要となる。全空間三次元での埋め込み特異点解消については,Benito氏-Villamayor氏による単項型の解析を簡易化してIFPの枠組み下での再証明を与えた。この結果は技術的懸案の一つであった同伴改変の代数化と共に松木氏との共著として[3]にまとめた。当面の目標はこの手法を未解決の全空間四次元の場合に拡張することである。この方向での指針を得るために,古典的な剰余重複度という概念を通して[3]で導入した不変量の自然な解釈を与えた(論文準備中)。
 もう一つの可能性は技術的理由から一旦退けていた根基的飽和を組み込んだより大きな飽和を用いる方法である。この場合については単項型状態での非特異性が任意次元で成立することを証明した(IFPの概説と共に[4]に所収)。未だ肝心の不変量の非増加性を得るには至っていないが,IFPの哲学上は根基的飽和を含める方が自然なのでこの方針で進展を得る為に特異点解消のアルゴリズムを根基的飽和と両立するべく基礎から改造する試みを進めている。
 最後に,特異点解消とはやや趣きが異なるが超平面配置の自由性についても研究した。[5]においては射影空間内の中心的自由配置について12枚以下では全て再帰的自由であること及び13枚では再帰的自由でない例が存在することを示し,12枚以下の中心的平面配置に関する寺尾予想の別証を与えた。
  1. H. Kawanoue. Toward resolution of singularities over a field of positive characteristic. Part I. Foundation of the program: the language of the idealistic filtration. Publ. Res. Inst. Math. Sci., 43(3):819--909, 2007.
  2. H. Kawanoue and K. Matsuki. Toward resolution of singularities over a field of positive characteristic Part II. Basic invariants associated to the idealistic filtration and their properties. Publ. Res. Inst. Math. Sci., 46(2), 2010, 359-422.
  3. H. Kawanoue and K. Matsuki. Resolution of singularities of an idealistic filtration in dimension 3 after Benito-Villamayor. Adv. Stud. Pure Math. (accepted)
  4. H. Kawanoue. \newblock Introduction to the Idealistic Filtration Program with emphasis on the radical saturation. Clay Math. Proc., 20, 2014, 285--317.
  5. T. Abe, M. Cuntz, H. Kawanoue and T. Nozawa. Non-recursive freeness and non-rigidity of plane arrangements. preprint, arXiv:1411.3351.

助教 高澤 兼二郎 (離散最適化の研究)
 私の主な研究対象はマッチング問題の一般化である。マッチング問題は効率的に解ける離散最適化問題の代表例であり,1960 年代における J. Edmonds によるマッチングの組合せ的アルゴリズムや多面体的表現は,その後の離散最適化の研究の礎を成してきた。一方,マッチング問題の妥当な一般化は NP 困難な問題や入り組んだアルゴリズムしか知られていない問題であることが多い。私のこれまでの研究では,問題が離散凸性をもつ条件に注目することにより多項式時間下界であるクラスを解明し,組合せ最適化の古典的なアルゴリズムの拡張を与えてきた。
 論文[1,2,3,5] で扱った独立偶因子とは,マトロイドの共通独立集合とマッチングとの共通の一般化である。マトロイドの共通独立集合もまた,多項式時間可解である離散最適化問題である。その記述力の高さから多くの最適化問題を含む一方で,マッチングはマトロイドの共通独立集合では記述できないことが知られている。これらの二つの問題の共通の一般化である独立偶因子問題には,例えば点素パス問題や Tutte 行列の小行列の階数計算などが含まれる。
 独立偶因子問題は NP 困難であるが,奇閉路対称とよばれるグラフクラスにおいては多項式時間可解である。論文[1,2,5] においては,奇閉路対称グラフにおける重み付き独立偶因子の組合せ的アルゴリズムを与えた。本アルゴリズムはマッチングおよびマトロイドの共通独立集合に対する古典的なアルゴリズムの共通の拡張であり,マッチングとマトロイドの共通独立集合に対する最大最小定理,分割定理,多面体的表現の共通の拡張を導いた。また,論文[3] では偶因子がジャンプシステムおよびジャンプシステム上の M 凸関数という離散凸構造を導出することとグラフの奇閉路対称性が必要十分の関係にあることを証明した。本結果から,偶因子問題に対する厳密アルゴリズムを考えるにあたっては奇閉路対称グラフを扱うことが自然であると示唆される。
 論文[7,9] ではそれぞれ,双有向森問題および マッチング森問題の離散凸性を証明した。これらの問題に対しては多項式時間アルゴリズムが既に設計されており,その多項式時間可解性は完全双対整数性をもつ線形計画表現に起因すると理解されてきた。本研究ではこれらの問題の扱いやすさは離散凸性に起因するという,多項式時間可解性に対する新たな理由付けを与えた。さらに,各々の問題に対し,その離散凸性を活かしたアルゴリズムを設計した。
 また,マッチング理論などの離散最適化の理論を,主に巡回セールスマン問題などの応用上重要な問題へ適用する研究も行っている。論文[4,6,8,10] では,ハミルトン閉路と $2$-因子の中間に位置する様々な制約付き $2$-因子の離散凸性の分析やアルゴリズム設計を行った。
 論文[4,6,10] で扱った $C_4$-free $2$-因子とは,辺数が $4$ 以下の閉路を含まない 2-因子である。論文[4] では,2 部グラフにおける重み付き $C_4$-free 2-因子問題に対し最小費用流問題への手法を用いた主双対アルゴリズムを与えた。本アルゴリズムは,辺数 4 の閉路において辺重みが頂点に誘導されるグラフに対して適用可能である。また,論文[6] では,上記の辺重みの性質が 2部グラフにおいて重み付き $C_4$-free 2-マッチングがジャンプシステム上の M 凸関数を導出する必要十分条件であることを証明し,この辺重みの仮定の妥当性を示した。論文[6] ではさらに,$C_4$-free 2-マッチングの次数列全体が一般グラフにおいてもジャンプシステムを成すという Cunningham の予想を証明した。一般グラフにおける $C_4$-free $2$-マッチング問題の計算複雑度は未解決であるが,本結果により多項式時間可解であることが予想される。論文[10] では,2部グラフにおける $C_4$-free $2$-マッチングに対し,Dulmage-Mendelsohn 分解および Edmonds-Gallai 分解に対応する分解定理を与えた。
 論文[8] では,辺数~$3$ の辺カットすべてと交わる $2$-因子 ($\{3\}$-カット $2$-因子) と 辺数~$3$ または $4$ の辺カットすべてと交わる $2$-因子 ($\{3,4\}$-カット $2$-因子) を扱った。ハミルトン閉路をすべての辺カットと交わる $2$-因子と捉えることにより,これらもまた巡回セールスマン問題の緩和問題となる。論文[8] では,2辺連結 3正則グラフにおける 最小重み $\{3\}$-カット $2$-因子アルゴリズム,および,$\{3,4\}$-カット $2$-因子アルゴリズムを設計した。さらに,後者のアルゴリズムを前処理として,やはり巡回セールスマン問題の緩和問題である最小 $2$~辺連結部分グラフ問題に対し,3辺連結 3正則グラフにおける $6/5$ 近似アルゴリズムを設計した。
 今後の研究においては,これまでと同様にマッチング理論を離散凸解析などの理論と関連させながら深化させていくとともに,その中で得られた新たな理論を応用上重要な問題へ適用することも行っていきたい。例えば,上記の様々な制約付き $2$-マッチング,$2$-因子を初期解とする,巡回セールスマン問題に対する新たな近似アルゴリズムの設計などが考えられる。
  1. A weighted even factor algorithm, Math. Program., 115 (2008), 223-237.
  2. The independent even factor problem, SIAM J. Discrete Math., 22 (2008), 1411-1427. (with S. Iwata)
  3. Even factors, jump systems, and discrete convexity, J. Combin. Theory, B99 (2009), 139-161. (with Y. Kobayashi)
  4. A weighted K_{t,t}-free t-factor algorithm for bipartite graphs, Math. Oper. Res., 34 (2009), 351-362.
  5. A weighted independent even factor algorithm, Math. Program., 132 (2012), 261--276.
  6. A proof of Cunningham's conjecture on restricted subgraphs and jump systems}, J. Combin. Theory, B102 (2012), 948--966. (with Y. Kobayashi and J. Szab\'{o})
  7. Shortest bibranchings and valuated matroid intersection, Japan J. Indust. Appl. Math., 29 (2012), 561--573.
  8. Finding 2-factors closer to TSP tours in cubic graphs, SIAM J. Discrete Math., 27 (2013), 918--939. (with S. Boyd and S. Iwata)
  9. Optimal matching forests and valuated delta-matroids}, SIAM J. Discrete Math., 28 (2014), 445--467.
  10. Decomposition theorems for square-free $2$-matchings in bipartite graphs}, Proc. 41st Int. Workshop on Graph-Theoretic Concepts in Computer Science, Lecture Notes in Comput. Sci., to appear.

助教 谷川 眞一 (離散数学・離散アルゴリズムの研究)
 離散幾何学における一研究課題であるグラフやリンケージの剛性に関してその組合せ的側面の研究を行なってきた。ユークリッド空間内に埋め込まれたグラフの各辺を棒材,各頂点を節点と捉えることでグラフの局所剛性や大域剛性を定義することが出来る。一般的な埋め込みに対する剛性は一般剛性と呼ばれており,Asimov-Roth(1978)によって一般局所剛性が,Gortler-Healy-Thurston(2010)によって一般大域剛性がグラフの性質であることが示されている。2次元の場合,Maxwellの条件によってグラフの一般局所剛性が組合せ的に特徴付けされることがLaman(1971)によって示されているが,3次元以上の場合においてはMaxwellの条件は十分ではなく,特に3次元一般剛性の組合せ的特徴付けは剛性理論における重要な未解決問題である。同様に大域剛性に対しては,2次元の場合Jackson-Jord{\'a}n(2005)によるConnelly予想の肯定的解決によって組合せ的特徴付けが与えられているが,3次元以上は未解決である。この一般剛性/大域剛性の組合せ的特徴付け問題を解決することを目標として,これまで幾つかの部分的成果をあげてきた。また一般性の仮定が成立たない対称な埋め込みのリンケージに対する理論展開や関連するアルゴリズム設計問題に対しても一定の成果を得ている。
 TayとWhiteleyは,分子グラフと呼ばれる特殊なグラフクラスに対しMaxwellの条件が3次元一般剛性の必要十分条件であると予想した。[1]では,この予想を肯定的に解決した。この主張から導かれる高速かつ頑健な分子構造の自由度計算アルゴリズムは,幾つかのタンパク質の挙動解析ソフトウェアに組み込まれており,本結果はこれらの応用研究に対する理論的妥当性を与えている。
 論文[6]では,ユークリッド空間での剛性と球面上での剛性の等価性に着目し,$d$次元剛性と$d+1$次元剛性を補完する剛性概念を導入し,Lamanの2次元剛性定理の拡張を行った。また論文[4]では,剛性判定問題と行列補完問題の類似性を利用して,行列補完問題の解の唯一性を解析し,組合せ的十分条件の導出を行った。
 [7,8,2]では ゼオライト等の結晶構造の振動や対称性の高いメカニズムに潜む組合せ的性質の解明に向け,既存の有限グラフに対する理論の拡張を行った。Malestein-TheranやRossは,周期グラフに対する群ラベル付き商グラフを考える事でLamanの2次元一般剛性定理を2次元周期グラフに拡張可能である事を証明している。この成果に触発され[8]では,群ラベル付き商グラフ上の新たなマトロイド構成法を構築し,既存の成果や幾つかの未解決問題がそのマトロイドの表現理論から従う事を示した。また群ラベル付き商グラフの構築法による剛性解析手法の開発[2]や分子剛性定理の拡張に向けた取り組み[7]を行った。
 [9]ではグラフの大域剛性の組合せ的特徴付け問題に取り組み,大域剛グラフを逐次的に構成するための新たな手法を提案し,局所剛性に対する頂点冗長性が大域剛性の十分条件であることを証明した。またこの手法を利用することでJackson-Jordánの2次元大域剛性定理やFrank-Jiangの$k$-chainに関する大域剛性予想が容易に導かれる事を示した。さらに論文[5]では,3次元大域剛性に関するConnelly予想の反例を与えた。我々の例は,剛体ヒンジ構造と呼ばれる構造モデルの大域剛性特徴づけから得られたものである。Connelly-Jordán-Whiteley(2013)は剛体ヒンジ構造の大域剛性の十分条件を予想したが,その条件が実は必要十分で成立することを証明した。
  1. A proof of the molecular conjecture, Discrete Comput. Geom., 45 (2011), 647--700. (with N. Katoh)
  2. Infinitesimal rigidity of symmetric frameworks, (2013), arXiv1308.6380. (with B. Schulze)
  3. Linking rigid bodies symmetrically, Eur. J. Comb, 42 (2014) 145--166. (with B. Schulze)
  4. Combinatorial conditions for the unique completability of low rank matrices, SIAM J. Discrete Math., 28 (2014), 1797--1819. (with B. Jackson and T. Jordán)
  5. Generic global rigidity of body-hinge frameworks, EGRES Technical Reports, TR2014-06, (2014). (with T. Jordán and C. Király)
  6. Rigidity of frameworks on expanding sphere, arXiv:1501.01391, (2015). (with A. Nixon, B. Schulze and W. Whiteley)
  7. Periodic body-and-bar frameworks, SIAM J. Discrete Math. 29 (2015), 93-112. (with C. Borcea and I. Streinu)
  8. Matroids of gain graphs in applied discrete geometry, To appear in Trans. Amer. Math. Soc.
  9. Sufficient conditions for globally rigidity of graphs, To appear in J. Comb. Theory Ser. B.

助教 永田 雅嗣 (位相幾何・多様体論の研究)
 古典的な surgery 理論は,群の自由作用の分類について飛躍的な成果をおさめた。surgery 完全系列と呼ばれる道具を用いて,幾何学的対象を,特性類の計算から求まる対象である「法写像類群」と二次形式の線型代数から求まる対象である「L-群」とに帰着させる方法であった。
 変換群の作用が自由作用でない,より一般の場合を考えようとすれば,問題設定は複雑になる。「同変 surgery 完全系列」の構成は,各部において様相の異なる作用を扱うために開発された道具であった。群の位数が奇数の場合には,PL局所線形な多様体について G-transversality が stable には成立するため,自由作用の場合と類似の形の surgery 完全系列が成立し,これを用いて G-多様体の分類が特性類の計算に帰着できる。
 Surgery における同変構造群の幾何学的性質を知るためには,その構造群に対しても Mackey 構造のような代数的構造を構成できることが望ましい。特別な場合については,同変 surgery 完全系列と可換な Mackey 構造を同変構造群に与えることができたが,一般の状況でも「同変向き付け」を利用した一般化が可能と思われる。
 具体的な分類問題に結び付ける立場からは,「同変 (equivariant)」な分類に関する情報よりも,「等変 (isovariant)」な分類に関する情報の方が,はるかによく知られている。それは,後者の方がより直接に代数的構造に結び付けることができるからで,さまざまの特性類を用いた結果が多くの人たちによって得られている。これを本来の幾何的立場,すなわち同変構造と結び付けるためには,G-多様体における「同変」な情報と「等変」な情報とを橋渡しする手掛かりが必要となる。群の作用が比較的単純な場合,とくに半自由な作用についてはいくつかの結果が得られているが,より一般的な群作用についてはもっと深い構造が存在していると考えられ,その解明を目指して研究している。
 位相多様体の局所理論から発展した controlled topology の理論や,一般化された階層的手術(stratified surgery)の方法は,ともにこうした代数構造の記述のために有効な道具と思われる。古典的な幾何的手法に,こうした新しい代数化や,カテゴリー論的な手法と結果を適用することによって,多様体の幾何構造の解明のための結果を出してゆきたい。
  1. The Fixed-Point Homomorphism in Equivariant Surgery, 数理解析研究所講究録 1517, 2006年 10月, 44-55.
  2. On the G-Isovariance under the Gap Hypothesis, 数理解析研究所講究録 1569, 2007年 9月, 162-169.
  3. G-Isovariance and the Diagram Obstruction, 数理解析研究所講究録 1612, 2008 年 9 月, 181-188.
  4. Diagram Obstruction in a Gap Hypothesis Situation, 数理解析研究所講究録 1670, 2009 年 12 月, 156-171.
  5. Functoriality of isovariant structure sets and the gap hypothesis, 数理解析研究所講究録 1732, 2011 年 3 月, 126-140.

助教 Helmke, Stefan (Algebraic Geometry)
 In my long term research project, a proof of the Fujita Conjecture, I made overall progress but there where also some setbacks. In fact, it turned out that in order to apply the local theory of graded rings associated to valuations of Abhyankar type, their filtrations and deformations I have developed in recent years, to the problem of constructing global sections of algebraic line bundles, some small but important modifications where needed. Unfortunately, this consumed most of my time, so that the global theory is still not quite completed, as I had expected last year. On the other hand, the local theory is now much more coherent and it is certainly quite interesting on its own. In particular, it includes a very general version of the Restriction Theorem for multiplier ideals and dual versions of Teissier's inequality on the multiplicity of ideals and Demailly-Ein-Lazarsfeld's Subadditivity Theorem on the multiplier ideal of an effective divisor. The deformation theory includes generalizations of Galligo's Borel-invariance of generic initial ideals, the existence of universal Gröbner bases and many more new results. Those results are crucial to construct good filtrations of certain linear systems on projective varieties and to prove their rigidity. Earlier approaches [1-4] to the problem always relied on very special filtrations which do not have the appropriate strong properties necessary to proof the Fujita Conjecture. But as a drawback with these new filtrations, the minimal center of log-canonical singularities does not anymore always decrease in this process; it can even increase! This poses the new difficulty that the process may not terminate. But rigidity of the filtrations allows one to prove that it indeed terminates. The final result of this process will then be either a filtration with an isolated log-canonical singularity, or a filtration whose centers on the variety have very small degrees. In the first case, it is already well-known that the point under consideration is then not a base point. On the other hand, in the second case, the degrees of the subvarieties are so small, that it leads to an obvious contradiction to the assumptions of the Fujita Conjecture. These exciting new developments will appear in a hopefully forthcoming preprint [5].
  1. S. Helmke, On Fujita's conjecture, Duke Math. J. 88 (1997), 201--216.
  2. S. Helmke, On global generation of adjoint linear systems, Math. Ann. 313 (1999), 635--652.
  3. S. Helmke, The base point free theorem and the Fujita conjecture, Vanishing theorems and effective results in algebraic geometry, ICTP Lecture Notes 6, Trieste, 2001, 215--248.
  4. S. Helmke, Multiplier ideals and basepoint freeness, Oberwolfach reports 1, 2004, 1137--1139.
  5. S. Helmke, New Combinatorial Methods in Algebraic Geometry, in preparation.

助教 星野 直彦 (プログラミング意味論の研究)
 プログラミング言語の意味論,特に相互作用の幾何学(Geometry of Interaction,GoI)と実現可能性解釈の研究を行っている。GoIはGirardにより始められた線型論理の意味論の一つで線型論理のカット除去に関する研究がその端緒である。Curry-Howard同型を通してGoIを多相型線型ラムダ計算の意味論と見なすことができ,さらにプログラミング言語の重要な機構である不動点演算子のGoI解釈について研究がなされている。GoI意味論の特色は,プログラミング言語の解釈がその言語の実装を与えていること,1990年代後半から今に至るまで種々のプログラミング言語の完全抽象性問題を解決したゲーム意味論とよく似た構造を持っていること,Abramsky, Haghverdi, Scottらによって整備された圏論的枠組を持つことが挙げられる。与えれらたプログラミング言語に対する完全抽象性を満たすモデルを与えることはプログラム意味論の研究において1980年代から取り組まれてきた問題であり,その動機はプログラミング言語の計算可能性を特徴づけるという哲学的問題意識とプログラミング言語の検証への応用の2つ挙げられる。実際ゲーム意味論を用いたプログラミング言語の観測的同値を検証する研究がある。ゲーム意味論は完全抽象性問題に対し多くの結果をもたらした強力な意味論である一方で,ゲーム意味論の定義は初等的であり,また,与えられた言語に対して完全抽象性を満たすゲーム意味論があるか,どのようにそれを定義すべきかという問題は与えられた言語ごとに取り組まれている。こういった状況に対し,GoIの圏論的枠組みを通してゲーム意味論を捉えなおすことで新たな「ゲーム意味論」を構成することを目指している。
 しかしながらGoI意味論の研究においては不動転演算子の解釈をどのように与えるべきかという問題すら十分に議論されていなかった。[2]において星野は標準的なGoI解釈は不動転演算子の解釈の取り方によらず多相型線型ラムダ計算の妥当(adequate)な意味論とはならないことを観察し,実現可能性解釈を用いた圏論的モデルの構成から多相型線型ラムダ計算の為の妥当なGoI意味論を与えた。最近ではGoIの圏論的枠組みがもたらす一般性に着目することで量子的データを扱う量子ラムダ計算や計算効果をもつラムダ計算の為のGoI解釈を統一的な手法により与えることを行った。種々の計算効果に対し統一的な形で意味論を提供できることはゲーム意味論にはないGoIの強みの一例でありゲーム意味論の成果を[3], [6]の結果に応用することによる体系的なプログラム検証手法の構築を考えている。
  1. Naohiko Hoshino. Linear Realizability. In Proceedings of CSL 2007, volume 4646 of LNCS, pages 420-434, Springer.
  2. Naohiko Hoshino. A Modified GoI Interpretation for a Linear Functional Programming Language and its Adequacy. In Proceedings of FoSSaCS 2011, volume 6604 of LNCS, pages 320-334, Springer.
  3. Ichiro Hasuo and Naohiko Hoshino. Semantics of Higher-Order Quantum Computation via Geometry of Interaction. In Proceedings of LICS 2011, page 237-246, IEEE Computer Society.
  4. Naohiko Hoshino. A Representation Theorem for Unique Decomposition Categories. In Proceedings of MFPS 2012. ENTCS, volume 286, pages 213--227.
  5. Naohiko Hoshino. Step Indexed Realizability Semantics for a Call-by-Value Language Based on Basic Combinatorial Objects. In Proceedings of LICS 2012, pages 385--394, IEEE Computer Society.
  6. Naohiko Hoshino, Koko Muroya, Ichiro Hasuo. Memoryful Geometry of Interaction: From Coalgebraic Components to Algebraic Effects. In Proceedings of LICS 2014, article 52.

助教 柳田 伸太郎(代数幾何学と量子代数の研究)
 代数曲面上のGieseker安定層のモジュライ空間を調べる重要な手法の一つに,導来圏上で定義されるFourier向井変換があります。私の研究はAbel曲面上の安定層のモジュライ空間をFourier向井変換を使って調べることから始まりました。
 論文[1]において私達は1980年の向井茂氏の予想を肯定的に解決しました。この予想は,非常に一般なAbel曲面上の一般の安定層が, ある条件の下で,半等質層と呼ばれる特殊な連接層による分解を持つことを主張します。その応用として,安定層のモジュライ空間の双有理幾何に統制がつくことも分かりました。例えばモジュライ空間の双有理同値達がある算術群がなすことが分かりました。
 論文[2,3]ではAbel曲面ないしK3曲面上のBridgeland安定性を調べています。[2]では,Abel曲面及びK3曲面について導来圏のBridgeland安定性の構成,安定性空間の壁と部屋の構造などについて調べました。[3]ではアーベル曲面上でのBridgeland安定性とFourier向井変換との関連を調べました。これは[1]の結果に現れた算術群の記述に関係していることも分かりました。
 量子代数については文献[4]が研究のスタートに当たります。Macdonald対称函数は2パラメータを持つ重要な対称函数ですが,可換な差分作用素族の同時固有函数でもあります。文献[4]ではFeigin-Odesskii代数と呼ばれる有理函数のなす可換代数でもって差分作用素族の自由場表示に成功しました。またこの代数が Ding-Iohara-Miki代数と呼ばれる量子群の一種とも関係することが分かりました。
 モジュライの代数幾何学と量子代数の表現論の交差点にある話題として,物理学者によって提唱されたAGT予想があります。この予想は,射影曲面上の枠付き連接層のモジュライ空間の同変コホモロジー群に頂点作用素代数の重要な例であるW代数が作用し,その作用で同変コホモロジー群がW代数の完備普遍Verma加群と同型になることを主張します。
 論文[5,6,7,9,10]はこの予想に関する研究です。[6]ではVirasoro代数の場合の物質場なしのAGT予想の,Zamolodchikov型の漸化式による証明を完成させました。[7]ではAGT予想のK理論類似をDing-Iohara-Miki代数の立場から扱いました。特に物質場つきK理論的Nekrasov分配関数の実現に必要な頂点作用素に関して予想を提出しました。AGT予想において表現論サイドに現れる対象はWhittakerベクトルと呼ばれるW代数の完備Verma加群の特別な元ですが,[5]ではVirasoro代数の場合にJack対称函数を用いて明示化しました。最近のプレプリント[9]はこの変形版で,Macdonald対称函数を用いた変形W代数のWhittakerベクトルの明示公式を証明しました。
 最近はBridgelandが導入した2周期的複体のHall代数についても研究を進めています(プレプリント[8])。この研究は上述のDing-Iohara-Miki量子代数に動機づけされています。この量子代数の実現は私達の仕事の他に,楕円曲線上の連接層のなすAbel圏に付随したRingel-Hall代数のDrinfeldダブルを用いる構成が知られています。Ding-Iohara-Miki代数はHopf代数で,特にその余積構造の研究がこれから重要になると思われます。
  1. (with K. Yoshioka) Semi-homogeneous sheaves, Fourier-Mukai transforms and moduli of stable sheaves on abelian surfaces, Journal fur die reine und angewandte Mathematik, 684 (2013), 31--86; arXiv:0906.4603.
  2. (with H. Minamide and K. Yoshioka) Fourier-Mukai transforms and the wall-crossing behavior for Bridgeland's stability conditions, arXiv:1106.5217.
  3. (with K. Yoshioka) Bridgeland's stabilities on abelian surfaces, Math. Z. 276 (2014), Issue 1-2, pp 571--610; arXiv:1203.0884.
  4. (with B. Feigin, K. Hashizume, A. Hoshino and J. Shiraishi) A commutative algebra on degenerate $CP^{1}$ and Macdonald polynomials, J. Math. Phys. {\bf 50} (2009), no. 9, 095215, 42 pp; arXiv:0904.2291.
  5. Whittaker vectors of the Virasoro algebra in terms of Jack symmetric polynomial, J. Algebra 333 (2011), 273--294; arxiv:1003.1049.
  6. Norm of logarithmic primary of Virasoro algebra}, Lett. Math. Phys. 98 (2011), no. 2, 133--156; arxiv:1010.0528.
  7. (with H. Awata, B. Feigin, A. Hoshino, M. Kanai and J. Shiraishi) Notes on Ding-Iohara algebra and AGT conjecture, RIMS Kokyuroku 1765 (2011), 12--32; arXiv:1106.4088.
  8. A note on Bridgeland's Hall algebra of two-periodic complexes}, arXiv:1207.0905.
  9. Whittaker vector of deformed Virasoro algebra and Macdonald symmetric functions}, arXiv:1402.2946.
  10. Norm of the Whittaker vector of the deformed Virasoro algebra}, arXiv:1411.0462.

助教 横田 巧 (微分幾何学の研究)
 私は微分幾何学,その中でも主にリッチ流(Ricci flow)と Alexandrov 空間の幾何学について研究しています。リッチ流とは 1982 年の論文で R. Hamilton が導入したある発展型偏微分方程式を解くことによりリーマン多様体を変形する手法のことで,2002〜03 年に G. Perelman が発表した3次元ポアンカレ予想の証明に使われたことでも注目を集めました。私は特にリッチ流の幾何学的側面に興味を持って研究しています([1--4])。
 論文 [2--4] では特にリッチ流の古代解を扱っています。古代解とは,過去に無限時間存在するリッチ流方程式の解のことで,リッチ平坦計量や縮小リッチソリトン等を含み,リッチ流の特異点のモデルとなる重要な概念です。最近は非コンパクト多様体上の完備で曲率が有界とは限らないリッチ流の下での最大値原理について考えました。最大値原理によりコンパクト多様体上のリッチ流が様々な非負曲率条件を保つことが分かります。一方,一般に非コンパクト多様体上では最大値原理が成り立たないことがあり得ます。プレプリント [4] では,非コンパクト多様体上で最大値原理的議論を用いて,曲率がピンチされた完備な古代解とリッチソリトンに関する剛性定理を証明しました。
 また私は Alexandrov 空間などの距離空間の幾何学にも興味を持って研究しています([5--9])。曲率が下に有界な Alexandrov 空間とは,その曲率がある定数以上であることを意味する不等式を満たす距離空間のことです。例えば,断面曲率が下に一様に有界なリーマン多様体の列の極限空間がそのような空間の例となり,先の Perelman の証明にも現れます。論文 [7, 8] の主定理は曲率が1以上の Alexandrov 空間に関する比較定理です。論文 [7] では,正曲率閉リーマン多様体の filling radius と呼ばれる不変量に対して証明されていた比較定理を有限次元 Alexandrov 空間に対する比較定理に拡張し,論文 [8] では,その無限次元版を証明しました。証明は多様体の場合を参考にしましたが,Alexandrov 空間に拡張することで,より簡単な証明が得られました。
 最近,縁あって,CAT(1)-空間についても研究しました。CAT(κ)-空間とは,Alexandrov 空間とは逆に,その曲率がある実数κ以下であることを意味する不等式を満たす距離空間のことで,三人の幾何学者の頭文字を並べてそのように呼ばれています。プレプリント [9] の主定理の一つは「半径が π/2 未満の完備な CAT(1)-空間上の任意の確率測度は一意に定まる重心を持つ」というもので,これは CAT(0)-空間に対してよく知られた事実の CAT(1)-空間への拡張です。また,この重心を用いて,半径の小さい完備な CAT(1)-空間がバナッハ空間の Banach―Saks 性に似た性質を持つ事も証明しました。
  1. Curvature integrals under the Ricci flow on surfaces, Geom. Dedicata, 133 (2008), 169--179.
  2. Perelman's reduced volume and a gap theorem for the Ricci flow, Comm. Anal. Geom., 17, No.2 (2009), 227--263. addendum, Comm. Anal. Geom., 20, No.5 (2012), 949--955.
  3. On the asymptotic reduced volume of the Ricci flow, Ann. Global Anal. Geom., 37, No.3 (2010), 263--274.
  4. Complete ancient solutions to the Ricci flow with pinched curvature, Preprint 2014, submitted.
  5. A rigidity theorem in Alexandrov spaces with lower curvature bound, Math. Annalen, 353, No. 2 (2012), 305--331.
  6. (joint with A. Takatsu) Cone structure of $L^2$-Wasserstein spaces, J. Topol. Anal., 4, 2 (2012), 237--253.
  7. On the filling radius of positively curved Alexandrov spaces, Math. Z., 273, 1-2 (2013), 161--171.
  8. On the spread of positively curved Alexandrov spaces, Math. Z. 277(1-2), 2014, 293--304.
  9. Convex functions and barycenters on CAT(1)-spaces of small radii, Preprint 2014, submitted.