所員 -阿部 光雄-

名前 阿部 光雄 (Abe, Mitsuo)
助教
E-Mail abe (emailアドレスには@kurims.kyoto-u.ac.jp をつけてください)
U R L
研究内容 場の量子論の研究
紹 介
 場の量子論(特にゲージ理論と量子重力の共変的演算子形式)の研究,及び, それに関係する作用素環(特にクンツ環)の研究を行なっている。
 ゲージ理論や重力理論の古典論は局所ゲージ不変性や一般座標不変性という局所的な対称性に基づいて定式化されるが, 量子論ではそれに代わりBRS(Becchi-Rouet-Stora)対称性と呼ばれる反交換的な大域的対称性が本質的に重要な役割を演じている。 このBRS対称性と時空対称性に関する共変性を明白に尊重したハイゼンベルグ描像の演算子形式において, 共変ゲージ(de Donder ゲージ)の2次元量子重力の厳密解(演算子解, 及びその表現としてのワイトマン関数)を構成した[1]。 そこで開発された方法は,便宜的自由場等を一切導入することなく, 正準量子化に基づいて代数的に解を構成するという新しい方法である。 この厳密解は, 4次元量子アインシュタイン重力に対するハイゼンベルグ描像での新しい近似理論を構築する上で特に重要になるものである。
 上記の2次元量子重力の厳密解によって得られた重要な知見の一つとして, 新しいタイプのアノマリー(量子異常)があげられる[1,2]。これは, 場の演算子の(反)交換子代数の表現として構成されるワイトマン関数が, 一部の場の方程式(場の演算子間の非線形関係式)と整合しないという現象で, 場の方程式アノマリーと呼ぶ。 経路積分法や共変的摂動論でこれまで知られているアノマリーは 皆それぞれ特定の対称性の破れに関連させて理解されてきたが, それはこれらの理論形式がT^*積(共変的時間順序積)という特殊な場の演算子の積の期待値(グリーン関数)に基づいているからであると考えられる[5]。 通常のT積(時間順序積)と異なり, T^*積はその定義によって場の方程式をあらわに破るため, 対称性に関するネーターカレントの保存則も必然的に破れる。もちろん, この破れのすべてがアノマリーを意味するわけではないが, その一部としてアノマリーが含まれることから, 対称性とアノマリーが結び付けて考えられてきたのである。一方, 演算子形式で得られるワイトマン関数は, 場の単純積の期待値であり, 場の方程式の破れは直ちにアノマリーと見倣される。 しかし、 これまでに場の方程式アノマリーが見いだされた理論では, いずれの場合も破れる場の方程式に応じてネーターカレントを修正することにより, アノマリーが一切現れない対称性の生成子を構成することが可能である。 これはストリング理論にもあてはまる[2--5]。 2次元量子重力の厳密解に基づいて考察した結果, 共形ゲージのボソン的ストリング理論で知られるBRSアノマリー(BRS対称性の巾零性の破れ)と臨界次元 D=26 との関係[加藤・小川理論]はユニークではないことが明らかになった[4]。 演算子形式ではBRS対称性を損なうことなく定式化でき, 場の方程式アノマリーが消失する条件として臨界次元が得られる。 ただしこれは共形ゲージの特徴であって, 共変ゲージでは事情は全く異なる。すなわち, 共変ゲージではストリングの次元を調節することによって場の方程式アノマリーを消すことはできないのである[1]。 他の厳密に解ける非常に簡単なモデルとして, 共形ゲージのストリング理論と類似した構造のアノマリーを持つ2次元のゲージ(BF及びYang-Mills)理論について考察した[6]。 また,重力アノマリーについてもT積とT^*積との違いによる観点から考察を行っている[10]。
 フェルミオン系の基本構造を探る上で, CAR環を部分環に持つクンツ環を用いて考察することが有効な方法ではないかと期待している。実際, パラフェルミオンを含む一般のフェルミオンの代数はクンツ環へ帰納的に埋め込み可能であり[7], この具体的な埋め込みを用いてクンツ環の表現(状態), 自己準同型,自己同型等をCAR環へ制限することによって, フェルミオン系の種々の性質が明らかになる。 特に、クンツ環へのユニタリ群の作用を制御することにより, フェルミオン系の非自明な時間発展を記述するCAR環の種々の1径数自己同型群の具体的な構成が容易に可能である[9]。
 BRS対称性において中心的な役割を演じるFP(Faddeev-Popov)ゴースト場は, それが通常のスピンと統計の関係を満たさない(ゴーストと呼ばれる所以)ため, ストリング理論のようにその零モードが重要になる場合は真空構造について特別な配慮を必要とし, 自由場であってもその状態ベクトル空間は単純なフォック空間ではなくなる。 この特殊な状態ベクトル空間を構成するために, クンツ環を不定計量を持つ系に拡張した擬クンツ環の表現論を用いた方法を考案した。 擬クンツ環への帰納的なFPゴースト系の埋め込みを構成し, このFPゴースト系に擬クンツ環の適当な表現を制限することにより、 その状態ベクトル空間が構成できることを示した[8]。
  1. ``BRS Symmetry and Two-Dimensional Quantum Gravity'' in Proceedings of the International Symposium on the BRS Symmetry on the Occasion of Its 20th Anniversary, ed. M. Abe, N. Nakanishi and I. Ojima (Universal Academy Press, Tokyo, 1996), pp. 223--246.
  2. Question on D=26 ─ String Theory versus Quantum Gravity ─, Int. J. Mod. Phys. A13 (1998), 3081-3099. (with N. Nakanishi)
  3. D=26 and Exact Solution to the Conformal-Gauge Two-Dimensional Quantum Gravity, Int. J. Mod. Phys. A14 (1999), 521--536. (with N. Nakanishi)
  4. Construction of an Identically Nilpotent BRS Charge in the Kato-Ogawa String, Int. J. Mod. Phys. A14 (1999), 1357--1377. (with N. Nakanishi)
  5. Perturbative or Path-Integral Approach versus Operator-Formalism Approach, Prog. Theor. Phys. 102 (1999), 1187--1200. (with N. Nakanishi)
  6. Exact Solutions to the Two-Dimensional BF and Yang-Mills Theories in the Light-Cone Gauge, Int. J. Mod. Phys. A17 (2002), 1491--1502. (with N. Nakanishi)
  7. Recursive Fermion System in Cuntz Algebra. I ─ Embeddings of Fermion Algebra into Cuntz Algebra ─ , Commun. Math. Phys. 228 (2002), 85--101. (with K. Kawamura)
  8. Pseudo-Cuntz Algebra and Recursive FP Ghost System in String Theory, Int. J. Mod. Phys. A18 (2003), 607--625. (with K. Kawamura)
  9. Nonlinear Transformation Group of CAR Fermion Algebra, Lett. Math. Phys. 60 (2002), 101--107. (with K. Kawamura)
  10. Question on the Existence of Gravitational Anomalies, Prog. Theor. Phys. 115 (2006), 1151--1166. (with N. Nakanishi)