: この文書について...

Date: 2002. 4. 24.
 タイトル  
 TITLE  
4次元スピン$ V$多様体上のディラック作用素の指数の評価と
低次元トポロジーへの応用
 講演者  
 NAME  
上 正明 
 所属  
 INSTITUTION  
京大・総合人間




$ \mathbf Z$上の2次形式の中でどのようなものが4次元スピン閉多様体の交叉形式に なりうるかについてはSeiberg-Witten理論に基づく古田氏の”10/8"定理を 始め深い結果がある。この定理は4次元スピン閉$ V$多様体$ Z$に対しても成り立つ ことが知られており、$ Z$上のディラック作用素$ D(Z)$の指数 $ \operatorname{ind}D(Z)$に関する 不等式として与えられる。


一方3次元多様体とその上のスピン構造の対$ (M,c)$に対して

$\displaystyle (M,c) =\partial (Y, c) $

となる4次元スピン多様体$ Y$(とその上のスピン構造$ c$)が存在するが、 これに対して

どのような2次形式が $ Y$の交叉形式になりうるか$\displaystyle $

という問題が考えられる.もし $ (M,c)$を境界とするスピン$ V$多様体$ X$が与えられるならば $ Z=(-X)\cup Y$に上記の定理を適用して $ Y$の符号数 $ \operatorname{sign}Y$を評価することが考えられる(なるべく ベッチ数の小さい$ X$をとる方が評価は良くなる。これが$ V$多様体を考慮に入れる 理由でもある)。ただしそのためには $ \operatorname{ind}D(Z)$ $ \operatorname{sign}Z$(および $ \operatorname{sign}Y$) の差を決定しなければならない。 $ Z$の特異点が 孤立特異点のみからなる場合にはこの差は$ V$指数定理により

$\displaystyle \operatorname{ind}D(Z) =-(\operatorname{sign}Z +\sum \delta (x))/8 $

の形で与えられる。ただし右辺の和は$ Z$の特異点$ x$からのある寄与 $ \delta (x)$$ x$の近傍上の局所的データで決まる量)の和である。 各$ x$の近傍は3次元球面型多様体$ S$上の錐$ cS$であり、 $ \delta (x)$$ S$とその上のスピン構造$ c$を与えると一意的に定まる(そこで これを $ \delta (S,c)$と書く)。この $ \delta (S,c)$ を完全に決定し、上記の問題への応用を 与えるのが今回の話のテーマである。


3次元多様体$ M$が球面型多様体$ S$そのものである場合は上記の$ X$として $ cS$をとれる。これにより 3次元球面型多様体とそのスピン構造の対$ (S,c)$を境界とする4次元スピン多様体 $ Y$に対し

$\displaystyle \operatorname{sign}Y\equiv \delta (S,c) \pmod {16} $

となる。$ Y$$ K3$曲面(またはその向きを逆にしたもの)を連結和で加えると $ \operatorname{sign}Y$は 任意の16の倍数だけずらせるので一般にはこれ以上のことは言い得ない。しかし $ Y$の交叉形式を定値なものに限ると10/8定理の$ V$多様体版によって 結果は強まる.


  1. $ \delta (S,c) \ne 0$ならば$ (S,c)$の連結和は $ \mathbf Q$ acyclicスピン多様体の境界にならない. 特に$ S$ $ \mathbf Z_2$ホモロジー3球面のときは ホモロジーコボルディズム群 $ \Theta^3_{\mathbf Z_2}$の中で無限位数.
  2. $ \vert\delta (S,c)\vert \le 18$かつ$ (S,c)$が定値スピン多様体$ Y$の境界ならば

    $\displaystyle \operatorname{sign}(Y) =\delta (S,c) $


多くの$ (S,c)$の例がこれらの条件をみたす.ただし,


  1. $ (S,c)=\partial (Y,c)$なるスピン定値4次元多様体$ Y$は存在するか?
  2. 上記の$ Y$の交叉形式は一意か?
という問題が残る.いずれについてもある場合は正しく,ある場合は正しくないことが 具体例により示せるが、より一般的に答えるにはまだ手段が不足していると思われる。

これ以外の応用についても時間に余裕があればふれたい.