全学共通科目講義(1回生〜4回生対象)

 

現代の数学と数理解析
  ―― 基礎概念とその諸科学への広がり



授業のテーマと目的:
数学が発展してきた過程では、自然科学、 社会科学などの種々の学問分野で提起される問題を解決するために、 既存の数学の枠組みにとらわれない、 新しい数理科学的な方法や理論が導入されてきた。 また、逆に、そのような新しい流れが、 数学の核心的な理論へと発展した例も数知れず存在する。 このような数学と数理解析の展開の諸相について、第一線の研究者が、 自身の研究を踏まえた入門的・解説的な講義を行う。

数学・数理解析の研究の面白さ・深さを、 感性豊かな学生諸君に味わってもらうことを意図して講義し、 原則として予備知識は仮定しない。

第4回
日時: 2009年5月1日(金)
      16:30−18:00
場所: 数理解析研究所 420号室
講師: 照井 一成 准教授
題目: 計算量からみた『数学』
要約:
与えられた問題を解く (たとえば方程式を解く、グラフが一筆書きできるかどうかを判定する) のに必要な計算時間とメモリ量をあわせて計算量と呼ぶ。計算量の研究というと、 「問題を0.1秒でも早く解くにはどうしたらよいか」とか 「解法を効率的にコンピュータに実装するにはどうしたらよいか」というような、 とかく実利的な目的によるものと理解されがちである。しかし 理論的にいって本当に面白いのは、計算量という尺度を導入することにより、 離散数学におけるさまざまな概念や問題が自然に構造化されるという点にある。 そして数学の別領域に属し、一見したところ全く無関係に見える諸概念の間に 新たな関係性が見出される。極言すれば、 『数学』というアクティヴィティ自体が計算量の観点から 構造化されるのである。

さて、数学におけるある種の定理は、ある種の問題に効率的な解法をもたらす。 それまでは解くのに天文学的な時間がかかっていた問題が、定理が証明された後は 一瞬でスパッと解けるようになったりする。これは『数学』の偉大なる勝利であると 言ってよい。では、このような定理による高速化は、常に 可能なのであろうか? それともそこには限界があるのだろうか? 大部分の人が後者を予想すると思うが、そのこと自体を証明しようとすると、 とてつもなく難しい。これがいわゆる『P vs NP問題』の根幹である。 本講義では、このあたりの事情について、なるべく平易な状況説明を行う予定である。


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