全学共通科目講義(1回生〜4回生対象)

 

現代の数学と数理解析
  ―― 基礎概念とその諸科学への広がり

授業のテーマと目的:
数学が発展してきた過程では、自然科学、 社会科学などの種々の学問分野で提起される問題を解決するために、 既存の数学の枠組みにとらわれない、 新しい数理科学的な方法や理論が導入されてきた。 また、逆に、そのような新しい流れが、 数学の核心的な理論へと発展した例も数知れず存在する。 このような数学と数理解析の展開の諸相について、第一線の研究者が、 自身の研究を踏まえた入門的・解説的な講義を行う。

数学・数理解析の研究の面白さ・深さを、 感性豊かな学生諸君に味わってもらうことを意図して講義し、 原則として予備知識は仮定しない。

第2回
日時: 2019年4月19日(金)
      16:30−18:00
場所: 数理解析研究所 420号室
講師: 熊谷 隆 教授
題目: ランダムな空間の中で熱はどのように伝わるか?
要約:
物質の中では、各々の粒子がランダムに振動することで熱が伝わっていきます。このような熱伝導は、 熱方程式という微分方程式の解の挙動を調べることで、数学的に厳密な形で解析することができますが、 実は熱方程式を解析するための、もっと直感的に分かりやすい方法があります。すなわち、空間上に ブラウン運動を作り、このブラウン運動の性質を調べることによって熱方程式を解析するという方法です。 空間が離散の場合には、ブラウン運動の代わりにランダムウォークを使って解析ができます。確率論を使った このような解析は、粒子の動きという具体的なイメージがあるので分かりやすく、滑らかさのない空間にも適用 できるという強みがあります。 この講義では、ユークリッド空間上のブラウン運動から話を起こし、フラクタルのような滑らかさのない空間上の ブラウン運動、さらにはパーコレーションやランダムグラフと呼ばれる、ランダムな図形の上のランダムウォークと そのスケール極限についてお話し、ランダムな空間の中で熱がどのように伝わるについて考えます。

参考文献:

  1. 増田直紀・今野紀雄:「複雑ネットワーク」とは何か 講談社ブルーバックス(2006).
  2. 熊谷隆:Random walks on disordered media and their scaling limits, Lect. Notes in Math. 2101, Springer, New York, 2014.

"http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/ja/special-02.html"