8月21日から23日まで, CaliforniaのIrvineであったFirst Annual Symposium on Japanese-American Frontiers of Scienceというシンポジウ ムに行ってきた .

日本とアメリカの科学者が集まってそれぞれの分野の最先端の話をするというもの で , タイトルから分かるとおり第一回目である. これまでアメリカの中でやってきたのだ が, なかなかうまく行ったので今度いろいろな国 (日本以外にドイツと中国)とやることに したと言うことだ. 目的は, 違う分野の間の交 流と言うことで , 朝から夜まで缶詰で , Arnold & Mabel Beckman Center というU.C.Irvineの中に ある研究所で行われ た .

Sessionの名前を列挙..すると,

Applications of Physics to Topology and Geometry

Biological Clock

Composite Fermions and Bosons

Femtochemistry

Functional Genomics

Genetics: Nature vs. Nurture

Large Ground Based Telescopes

The Tempo of Mass Extinction and Recovery, No Dates No Rates

であった.

それからおまけとしてIBMのBlue 何とかというチェスのComputer Programでなんと かという人間の世界チャンピョンを破ったものを作った人がやってきて夕食のあとに講 演をした .

一番最初のApplications of Physics to Topology and Geometryが我々の session であり, 他の参加者は数学では T.Mrowka, C.Taubes, 東大の河野さんで, 物 理から東大の清水さん (物性の理論の人), 広島 大の菅野さん, それから阪大の糸山さんであった. 講 演をしたのは私と Taubesで, タ イトルはそれぞれ

Generating Functions in Geometry

Low Dimensional Topology and Physics

であった. 我々の講演は約30分で, その前にMrowkaが10分ほど概説をすることにな っていたが , 結局Mrowkaは30分近く話し, Taubesも延長したので私は途中はしょりながら30分でお わった .

シンポジウムの始まる前に講演者に求められたのは, 専門用語 を用いずに 最新のトピックスを話すというもので, 数学の話をどう生物の 人達に話せ ばいいのか非常に迷うことになったが , 結局高校数学は仮定してしまうこ とにして, 母関数のお話をした. 果たしてこれで良 かったのかどうかは , あまり明ら かではない. 物理化学関係の人にはおおむね好評だったので, まあよしと することに する . (つまり生物関係の人には不評だったと言うことでもある.)

Mrowkaの話はmanifoldとは何かから初めてEuler数の説明をしてとknotの絵を見せて 終わった . Taubesは, 主に3次元の多様体の話をした.

他の分野の話は, 専門外の話を聞く機会がほとんどなかったので楽しめた. できれ ば , 日本語でもっと気楽に聞きたい, という感想もあるが, これだけの人間を日本だけで 集めるのは難しいかもしれない .

いくつか面白かったものの感想を書こう.

Biological Clock

生物が外部の環境と切り離されて暮らしたときに1日を何時間単位で過ごすか, とい うのが問題である . 驚いたことにこれは種によって違うそうである. 例えば人 間は25時間, ネズ ミは 23時間だそうである. 25時間と言うことは, つまり外部から刺 激を与えなければ人間の 生活時間は 1日に1時間づつ後ろにずれていってしまうと言う ことで, 例えば時差ぼけのときに西回 りなら夜更かしをすることによって慣れて行け るのに対し , 東回りのときは早起きをしなければいけないのでつらい, というような ことや, 黒☆ くんがなぜ普通に生活できないのかというようなことが説明できる . そ してこの周期性をどの遺伝子が司っているのか調べるために, ネズミのいろいろな 遺 伝子を壊したり , 注入したりすることによって実験したそうで, 司る遺伝子を壊され たネズミは 1日 の周期を全く無視してずっと元気に動きまわっているそうである .

Large Ground Based Telescopes

最近, ハワイに大きな望遠鏡がいくつか作られたそうで, ただアメリカの望 遠鏡はちょっと前に完成して既にばりばりと仕事を始めているのに対して , 日本の`スバル'という望遠鏡は完成が伸びてしまってまだ動き出していないらしく, その意味で日本の講演者は気の毒であった . 望遠鏡を作る技術なんて当の昔に完成しているのかと思ったらそうでもないらしく, 大きい望遠鏡を作るのには昔は安定させるために厚い鏡を使っていたのが , 最近では薄いものを使ってそれをどう制御するか(細かく分けてそれぞれをcomputerでチェックするらしい )がポイントらしい. スペースシャトルのハッブル望遠鏡とは使い分けで地上の望遠鏡 は意味がないというのでもないらしい .

それで実際に望遠鏡を使ってどんな天文の問題が調べられるかも話があったが, 例 えばハッブル定数 (宇宙がどれくらいのspeedで膨張しているかを測る定数で, 遠くの星雲の遠ざかるspeed 割る距離のこと. もしかしたら間違ってるかも)とか宇宙定数とかが話題になった. こ の辺りは宇宙のモデルを仮定しているようなので , ほんとにそんなのでいいのかな, と疑問に思わないでもないのだがまあ楽しく聞けた. あとは我々の銀河の真ん中にブラックホールがあることが観察出来たと言うことだ.

The Tempo of Mass Extinction and Recovery, No Dates No Rates

全く知らなかったのであるが, 生物の歴史の中には過半数以上の種が絶滅してしま ったイベントが何回もあるらしい . 素人でもよく知っているのは恐竜が隕石の衝突のために絶滅したイベントであるが, それよりもはるかに激しく 90%以上の種が絶滅してしまったのが250万年ほど前にあったらしい. しかも驚きはつい 最近までこんな基本的なことが分かっていなかったらしいのである .恐竜の絶滅が隕石の衝突によるものだと確定したのもつい10年ほど前のことらしいの である . 生物の歴史の基本的なことが分かっていないようなのだ. マントル対流(プレートテ クトニクス )で海の底は全部入れ代わってしまうし, 地球の古いところの化石を探すのはそれ程簡 単ではないらしい . このへんは地球物理や生物や火山やいろいろが絡み合って面白そうなところである.

それで結局のところ250万年前のイベントの原因はまだはっきりはしていないらしい .

生物とかの話は, 素人にも分かりやすくていい. それに比べると数学や物理の話は, 素人にするのはかなり難しい. いろいろと予備知識を仮定しないと面白いことが話せな いということ , 実生活からかけ離れていること, などいろいろと理由があるだろう. まあ, それだけ 奥の深みみたいなものがあるわけで , 私もモジュラー形式とかを持ち出して深みを表わしたかったのだけど, 結局それもあ んまりうまくは行かなかった . 公開講座のように数学に興味を持っている人がくるのならばまだやりようもあるのだ ろうが , そうでない人達に何を伝えたらいいのか, 結局答えは分からなかった. 来年は日本で やるらしいのだが , 講演を頼まれた人はよく準備した方がいいだろう. ちなみに生物系の講演はほとんど スライドで行われ , OHPを使う人が「古いやり方ですいません」と言ってから講演に入ったのは驚かされ た . 数学の講演でスライドを使う人にはまだ出会ったことがない. 無論, 黒板とチョーク の方が数学にはむいていると思うが , 他の人達と一緒にやるときにはプレゼンテーションには一工夫も二工夫も必要だろう. 英語でやらなければいけないと言う問題もあるけれど....