1998/01/22 東大数理科学幾何コロキウム
ヒルベルト概型とビラソロ代数 (after M.Lehn)

Manfred Lehn の論文 `Chern classes of tautological sheaves on Hilbert schemes of Points on surfaces' の一部の解説を行う.

代数曲面 X の上の n 個の点のヒルベルト概型を X[n]とする. 私が数年前に行った結果により, そのホモロジー群を n に関して直和したものは, 無限次元ハイゼンベルグ代数の表現空間, すなわちボソンのフォック空間になることが分かる. その構成は, ハイゼンベルグ代数の生成元をヒルベルト概型の直積の中の部分多様体として定義し, 基本関係式をチェックすることによって得られた.

よく知られているように, ボソンのフォック空間にビラソロ代数の作用を定義することができる. (菅原構成法) しかし, その定義においてはビラソロ代数の生成元がハイゼンベルグの生成元二個の積の無限和で表わされ, 幾何学的な意味は明らかではなかった. Lehn は, ヒルベルト概型の中のある自然なdivisor(`境界'と呼ばれる)を導入することによって, その幾何学的な意味付けをはっきりとさせた.

また, 応用として Lehn は, tautological bundle のチャーン類を決定している.

しかし, 結果自体よりもその思想が重要であろう. ビラソロ代数は, 通常は, S1上のベクトル場のなすリー代数の中心拡大として捉えられるのが普通である. しかし, 上の構成のどこにもS1は現れていない. ベクトル場をS1の座標によってフーリエ展開すると上の生成元が得られるのであるから, S1が見えるようになるためには, 生成元に対応するヒルベルト概型の部分多様体を全て集めた母空間を考える必要がある. 母空間の重要性がここでも示されたと言っていいであろう.


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