作用素環論既習者向けの専門書。テンソル積と有限近似の理論は作用素環論のハイライトであるが、まとまった文献が(やや時代遅れの)Wassermann講義録しかないという状態が続いていたので、Brownの誘いに乗ってこの分野の教科書を共著した。だいたい2004年夏から2007年夏にかけて間欠的に書いた。構想が広がった(拡散した)ため、後半では特殊で高度な内容を扱っている。章毎に担当者を決めて構成・執筆したが、スタイルの違い(chatty/minimal)を解消するため、最終的には全てBrownが書き直した。
東大の修士論文。TAMUで1998年の秋から冬にかけて書いた。KirchbergのLLPの作用素空間版を考察した。この結果を利用して、「任意の可分C*環のイデアルはBanach空間として直和成分であるか?」という問題を解こうとしたが、出来なかった。実際に出版されたのは2002年。
99年3月にUIUCであった研究集会の講演でPisierが何気なく出した古い問題をTAMUに戻った翌日解いた。証明はかなりトリッキー。ついでに上の問題も解けたかと思ったが勘違いだった。
上記の研究集会の最中に、KirchbergのC*環に関する定理が、証明をちょろっと変更するだけで、作用素空間に拡張できることに気付いた。これはEffrosとRuanが行っていた研究の穴を埋めるのにぴったりだった。99年6月に九州であったの日米セミナーのときEffrosに話したところ、その結果を引用してもいいかと聞かれた(と思った)ので、もちろんと答えた。後になって私の名前入りの共著論文が送られてきてびっくり。
IHP滞在中にEffrosの弟子のNgと知り合う。彼の出した問題の一つを3日で解いた。Ngの博士論文用の問題だったので、共著にすることになった。その後Ngが自力で別の問題を解いて、私がそれを一般化できたのでそれも載せることになった。
これもNgが出した問題。99年10月にやった。あっちを叩けばこっちが出っ張るという状況の中、3週間ぐらい集中した。それまでの証明はすべて気合一発でやっていたが、これは方針を立ててひとつずつ証明していった。Kirchbergと無関係なネタもこれが初めて。
また気合一発で証明してしまった。きれいな結果ではあるが、何かの役に立つことはなさそう。
Paris第六大学に滞在していたとき、Guentner-Kaminkerのプレプリントを読んでいて、彼らの重要な見落としに気が付いた。この論文のおかげで、作用素空間の外でも名前が売れた。数学においても、競争という側面を無視するわけにはいかない。
IHPにいた頃にRuanと話し合った。RuanがUIUCに帰って同僚のJungeに話したら、結果を改良してくれた。
01年春MSRIに滞在していたとき、岸本・境の核型C*環の既約表現についての論文を見る。論文で使われている核型の仮定が必要であることを示すため、同室だった泉先生と反例探しをするが、捕まえられそうでいて捕まえられなかった。9月に京都であった研究集会の講演で境氏から証明の鍵が「従順性」であることを知らされる。林氏の勧めに従い、この「従順性」が核型を導くかどうかを確認したところ、意に反して実際には、それが任意のC*環に対して成り立つことに気が付いた。
01年8月末にTAMUから東京に戻って数日後、Pisierから某氏がQWEP予想を解いたと主張していることを知らされる。さっそくプレプリントをダウンロードして読んでみたら、実際にはさらに強い(疑わしい)主張が述べてあった。反例を探すこと一ヵ月でようやく見つかった。反例の構成法をいじったところ、思いがけず別の問題が解けたので、論文にした。数学というものは、勢いさえあれば何らかの結果にぶつかるものだと思った。
AF環への埋め込みに関する予想を肯定的に解決。もともとはMSRIに滞在していたときに挑戦した問題だが、予想に取り組むときはまず反例を探すことにしているので、このときは失敗した。01年12月のOberwolfachでの研究集会をキッカケに改心し、年末に問題を思い返して、正月に酒を飲みながら計算していたら何もかもがうまく行った。実際にはもっと単純な(従ってもっと強い)主張を示すつもりだったのだが、後でそれは不可能だと教えられた。それを知っていたら、そもそも挑戦していなかったかもしれない。
この結果は論文にするしばらく前から知っていたのだが、大したことないと思って放置していた。しかし、02年秋Berkeleyで講演したときにそれに触れたら、Voiculescuから論文にするように勧められた。さらに某氏から私が解いたのはvon Neumannが出した問題だと指摘され、驚いてvon Neumann全集を調べたが、そこで述べられていた問題とは残念ながらチョット違った。結局、境氏の教科書に未解決問題として挙げられているのを発見した。
02年8月に承徳であった研究集会の最中、Rieffelの提示した問題を解いたと勘違い。大した貢献もしていない私が共著者となっていることに居心地の悪さを感じる。複雑な事情があったのだ。
02年から03年にかけての年末年始に一人でBerkeleyにいて手持ち無沙汰になったので、何か建設的なことをしようと思い、QWEP予想に関するサーベイを書いた。
初めて重要なアイディア・結果を出すことができた。Geの定理に自分で証明をつけたいという意識をしばらく前から持っていたが、03年1月末のUCLAで(QWEP予想の概説[14]の校閲ため)ConnesのFields賞論文を眺めていたら、鍵となるアイディアがひらめいた。ずいぶん興奮した。常にいくつかの問題を抱えておくことが重要だ。
Monod-Shalomの論文を読んで、上の結果に改良の余地があることに気が付いた。それをPopaに相談したら、改良に必要な仕掛けを次々に証明してくれた。私のあいまいな要求にも的確な答えを出してくるところなど、さすがは因子環職人だと思った。
上記二本の続き。03年末にBerkeleyでやった。Popaとの共著を通じて得た技術が役立った。Popaとの共著ではテンソル積を扱ったが、今回は自由積と接合積。同じネタをいつまでも引きずるのは気が引けたが、自分以上の適格者はいないだろうと思い直し、取り組んだ。04年の2月から3月にかけてPennStateにいたとき、環積に取り組んだらうまくいったのでその分を加筆した。
正確な時期は思い出せないが、01年の秋ぐらいに東京でやったはず。01年春にReadが示した定理を、夏のTAMU研究集会でPisierが分かりやすく解説してくれた。Pisierに勧められてそれを応用してみたところ、Connesの定理(1978)に作用素環の知識を必要としない簡単な証明をつける事ができた。さらに新しい結果に結びつくかもしれないと思って放置しておいたが、某氏から某誌に論文を投稿して欲しいと頼まれたので、引っ張り出した。Banach環の研究者向けに分かりやすく書いたつもり。(追記:09年秋になって、Banach空間論のある標準的な知識を合わせれば追い求めていた結果に到達できるということを知らされた。人に出し抜かれたのはこれが初めてだ。)
論文は書いてあったものの、いくつか結果に不満の残るところがあり、放置してあった。しかしいくら寝かせておいても一向に良くなる気配を見せないので、公表して手を切ることにした。内容はKirchbergの研究を推し進めたものだが、主定理を当人に説明したら疑わしそうな顔をしていた。
[15-17]の影響から脱するためには何か新しいことをしなければと思い、04年夏に研究を始めた。この結果を足場にして「同型問題」の攻略に着手する予定だったが、技術的困難のため計画は頓挫した。
研究の幅を広げるため、作用素環とは直接関係のない分野を研究した。双曲群についての既知の結果を相対的双曲群に拡張しただけで、大したことはやっていない。それでも相対的双曲群の勉強には役立った。
07年の春にUCLAでやった。簡単な議論できれいな結果が出た。それまでは、双曲群の弱従順性を示すのは技術的に困難であろうとの思い込みから、ずっとhigh-tech approachに拘っていたが、UCLAで心機一転してlow-tech approachを試したら、アッサリうまくいった。鍵となるのは二項定理を使った全くtrivialな補題だが、これは前年の秋に天から降ってきた。
Popaが出したアイディア・構想を整理拡張して形にしたもの。07年の春から初夏にかけてUCLAでやった。Popaの初めの動機は、有限群と自由群の環積がHaagerupでないことを示すことにあったのではないだろうか。この問題自体は、ほぼ同時期にスイス人のチームによって、我々の予想に反して、肯定的に解かれた。
論文[15]で群のクラスSを定義したとき、このクラスに無限可換正規部分群を持つ群があるか否かがすぐに気になった。そのような例は後に環積で見つかったが([17])、当初から気に掛けていたSL(2,Z)×Z2もクラスSに入ることを確認した。08年3月末のBanffでの研究集会で機会を得たので再び考えてみたら、組み合わせ論的に難しいと思っていた箇所が、自分の手持ちの道具でアッサリ解決できることに空の上で気が付いた。教科書を書いたおかげで頭が整理されたのだと思う。論文は1日で書いた。
論文[23]の続編。PetersonやIoanaの理論を組み入れて結果を改良。08年3月にUCLAに滞在した折に、Popaに尻を叩かれて研究した。群測度von Neumann環の情報から、それを構成する材料となった群作用の情報を完全に復元できるような例を見つけようとしたが、あと一歩(?)のところで果たせなかった。
Dixmierの相似問題は、元指導教授のPisierが取り付かれている問題だが、私は手の届かない反例が存在すると(今でも)信じているので手を出さなかった。しかし、09年2月にチェンナイの研究所で2週間の集中講義を任されたとき、もう一人の講師であったMonodがこの問題について講義したので、その内容についてビールを飲みながら論議。彼の提案した方針では既知の結果以上のことは出ないだろうと踏んでいたのだが、予想に反して新たなカワイイ事実が判明した。[Notes2]で勉強しておいたことが役立った。
2009年の秋に3ヶ月間、ボンのハウスドルフ研究所であった長期ワークショップ「Rigidity」に参加。「Rigidity」は特定の分野・対象を意味しない一般的なテーマだが、自分にとってrigidityと言えばとりあえずKazhdanの性質(T)かなと思い、題目通りrigidityについて研究。研究所/主催者は強力な研究者たちを招待しながらもセミナーも何も行わず、独りで数学に集中するも気の合う友人と談義するも本人次第という、すばらしい環境だった。
上記ワークショップの間にThomが持ち出した問題を解決。たぶん私の分野の誰に聞いても解決できたと思う。単独で論文になるようなネタではなかったが、Burgerらとの雑談を通して構想が広がったので、問題の周辺も調べてまとめた。同期間に研究していた論文[27]との間のシンクロニシティが興味深い。
論文[23]の主定理のひとつを拡張したもの。論文[23]の執筆時からそうしたことが成り立つと考え、以来折々に挑戦してきたが、2010年の冬に突然できた。あらかじめ「従順部分群のところだけユニタリ化」しておくのがミソなのだが、それに気づいたのは、全く無関係とはいえ論文[28]で見た同様の現象が頭に残っていたおかげだと思う。論文[22]と合わせて、80年代にHaagerupらがLie群論・実解析を駆使して得た弱従順性に関する一連の結果を、(函数解析的)群論の枠組みで再編するという目標をひとまず達成した。
2011年夏にTAMUであったワークショップで、Sapirが講義中に出した問題を解いた。双曲群の研究([21])で学んだKaimanovichの手法を当てはめただけ。距離幾何学の論文だが代数系の雑誌に投稿。編集者のSapirにより即日アクセプト。TAMUで毎年夏に開かれるワークショップは、1998年に留学して以来、前年(2010)を除いて毎年出席している。
Banach環の有名未解決問題に、可縮Banach環は有限次元のものに限るかというものがあるが、相似問題同様、wildな反例が予想され攻略不可能っぽい。しかし、2011年初夏にIHPに滞在していたとき、Monodに勧められてこの問題に取り組んだ。不可能なことを信じる練習である。この論文では、不可能な方ではなく、良い条件下では予想が正しいというよくある結果を出した。
やはり2011年初夏にIHPに滞在していたとき、MonodやThomと適当な未解決問題を取り上げてはブレインストーミングをしていたのだが、ある群論の未解決問題に取り組んだところ、自分たちの手に負えない環論の問題に突き当たった。そこでその筋の専門家やMathOverflowに尋ねて回ったら、要領を得ない結果しかないにもかかわらず、参照するための論文を書くはめになった。タイトルにもある「irng」という造語は私の発明である。
Banach空間論は大学院生時代に少し勉強していたが、論文を書くのはこれが始めて。論文[30]同様、2011年夏にTAMUであったワークショップの際の話。Godefroyが講義中に出した問題に関して自分の考察を述べておいたのだが、しばらく経ってから本人から問題が解決したとの連絡があった。自分の考察と合わせて共著論文にした。
2010年の夏に、数学研究の専門的な話題を扱うウェブサイトmathoverflowを覘いていたところ、TAMU大学院生時代の恩師Johnsonが行列に関する興味深い問題を提示していたのを発見。手持ちの道具でtrivialな評価をnon-trivialなものに改良できたので知らせたところ、更に発展させてくれた。共著者たちのコネでPNASの定量的幾何学特集号に載ることになった。
論文[36]ともども、12年秋のコペン滞在中に書いた。両方とも作用素環論における最重要未解決問題の一つであるConnesの埋め込み予想(CEC)に関する論文である。こちらではCECと同値な量子情報理論の問題を扱った。論文電子投稿の過程で、当該論文について偏見なく審査できる専門家5人と、偏見なく審査できない専門家5人を挙げてくれと言われて驚いた。当初は面倒を避けるため完全に数学的な形式で書いたのだが、数理物理学者の査読者に修正を示唆されたので物理学的考察も少しだけ入れてみた。
[Notes6]を書いた09年夏に続き、12年の春(ヌーシャテル)と秋(コペンハーゲン)でも予定されていた講師がキャンセルしたため、代役でsofic group/CECに関する講義をした。CECと同値なQWEP予想に関するサーベイ[14]を書いた縁なのであろう。講義を準備する過程で発見したことを書いたのが[35]で、講義内容を纏めて増強したサーベイがこの論文である。キャンセルした3人(それぞれ別人である)に研究の機会を与えてくれたことに対する謝辞をささげようかとも思ったが止めておいた。
00年2月のexactness論文[7]以来、助手に採用されたり、MSRIに九ヶ月滞在したりしたにもかかわらず、1年以上研究が滞ってしまった。それで01年夏のTexasで、何でもいいから論文を書かなければと思い立ち、Dykema予想に取り組んだ。ところがもう少しで解けそうだというところになって、予想が実は既知の結果から簡単に従うことを悟った。仕方がないので結果を少し一般化して書いた。九月に入ったら別の研究[9,10]が忙しくなったので、不完全な仕上がりのまま講究録に載せてしまった。
相似問題(Similarity Problem)の偏ったサーベイ、というか勉強用のノート。楽しいところだけ選んで書いたつもり。この分野は未解決問題こそ多いけれど、どれもwildな反例が予想され攻略不可能っぽい。
京都大学で05年10月に行った集中講義(5コマ)の記録。ノートを取ってくれる人がいるとはありがたいことです。
東大の講義ノート。戸松くんによる手書き版も存在する。主な内容は、Feldman-Mooreの定理、Connes-Feldman-Weissの定理、 L^2-Betti数に関するGaboriauの定理(授業でやった証明は結構いい加減だったので書き直した。)、可閉微分作用素に関するSauvageot, Petersonの定理。PopaのCocycle Superrigidityもやるつもりだったが、時間切れになった。
08年8月にBędlewo (Poland)で行われた研究集会の報告書。2年以上前の結果で、論文[15]の補遺のようなもの。特に出版するつもりはなかったが、報告集向けに原稿を頼まれたので提出した。研究集会での講演内容とは無関係。
TAMU夏学校の記録。本来の講師がキャンセルしたため、ピンチヒッターを任された。既に発表されていた講義のタイトルとアブストラクトをそのまま使った。
「数学」の論説で作用素空間について何か書くように頼まれたので、名誉なことと思い引き受けた。他分野の研究者向けのサーベイを書くのは初めてで、いろいろと面倒くさかった。もうやりたくない。
日本数学会春季賞の受賞講演予稿を「数学」の論説向けに大幅に改定したもの。サーベイを書くのは相変わらず苦手なので、書くのに苦労した。実を言えば、「数学」の論説というのは、自分の分野の話題こそ飛ばし読みするが、それ以外は読んだことがない。他分野のお話を、ふんふん、と読めるのは2,3ページが限界ではないだろうか。