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: 参考文献 : 応用解析等教科書の個人的な概観 : 数学の歴史

最後に

[21] は P. Erdosの伝記で, よく売れている ようである. 日本語を含めて様々な言語に翻訳されている. 『数学者は変人である』 といった偏見を一般の人々に与えかねないという心配があるけれども, 読み出したら止まらないおもしろさである.

James Clerk Maxwell といえば天才物理学者ということになっている. 彼の書いた電磁気学の本は有名ではあるが理解しにくい本である. 最近, 彼の熱学に関する書物がDoverから再版されたので読んでみ た([30]). いわゆるマックスウェル の悪魔が登場した本であることで有名である. この本は非常に明快であり, そこに書かれている 知識は今でも使えるものが多い. もちろん, 量子論の話もないし, 表面張力についても現在ではここにあるものよりも理解は進んでいる. しかし, [30]に書いてあることでも十分多くの物理現象を 説明できるのである. 100年以上たっても 十分役に立つ本が書けるというのはすばらしいことである.

Mathematical Association of America から出版されている本にはベストセラー が多い. [14]以外にも[44]は面白かった. 大学1年生あるいは 高校3年生の授業に使えるのではないかと思う.

多項式の根の公式とかガロア理論というと解析とは何の関係もないけれど, その歴史には多くの大数学者が現れるので, 代数学に興味のない人でもその 歴史を知っておくことはよいことだと思う. [46]はそれにうってつけの 本だと思う. 歴史を学びながらガロア理論の基礎も学べ, 一石二鳥である.

最後になったが, 偏微分方程式についてもいくつかあげよう. わかりやすさでは [16]であるが, もう少し高度な知識を得ようとすれば [26]が最もお勧めである. [26]よりも易しい本を, ということであれば [29]であろう. [7]の第4巻も偏微分方程式論 であるが, これについてはより最近の情報を併用する必要がある. 非線形偏微分方程式ならば[18]がモダンな本としてお勧めできる. 反応拡散系は応用上の意義の大きい非線形系であるが, 微分方程式論から 抽象的にみてもおもしろい. これについては(相当専門的であるが)[35] が決定版である. ただ, 学部の3年生がこれを読んで理解できなくとも がっかりしてはいけない. これは最先端の専門書なのだから. 最先端に行き着くには基礎的な知識を[26]などで仕入れておく 必要がある. もっと古典的な本たとえば[40,37]などでも 十分である.

冒頭で述べたようにまったくばらばらなことを書き連ねてしまい, あたかも 精神分裂のような状態になってしまった. 結果としてamazon.co.jpにずいぶんと 貢いでいるが, それでも乱読は楽しいのである. 結論:いわゆる古典と呼ばれるような本はそう簡単に価値を失わない. うすっぺらな本を何冊も読むよりも定評のある本を じっくり読む方が自分にはためになると改めて感じるのである.



Kazuko Suenaga 平成17年2月10日