hondana
私の本棚
- 藤沢秀行、「勝負と芸、わが囲碁の道」、岩波新書
碁に対する藤沢氏の気迫が伝わってくる内容である。
勝ち負けだけではなく芸であることを求める姿勢は
トップレベルにたっした者の余裕であろう。
なかなかまねのできないことである。
- 村上春樹、「走ることについて語るときに僕の語ること」、文藝春秋
「少なくとも最後まで歩かなかった」という孤高な生き方に
村上氏は前向きにまじめに向き合う。
「たとえ何も書くことがなかったとしても、私は1日に何時間かは
必ず机の前に座って、1人で意識を集中することにしている」
というチャンドラー氏のコメントが共感をもって引用されているが、
私も同感である。
集中力や持続力を長期間にわたって日々よりよく保つことは
数学者にとっても重要な課題である。
- 藤原正彦、「数学者の言葉では」、新潮文庫
冒頭のエッセー「学問を志す人へ-----ハナの手紙」に
「学者になるための4条件」が提示されている。
これから学問を志す人によむことをおすすめしたい。
「天の啓示はギラギラした気迫で天から奪い取るものだ」
という言葉は、藤原氏もまた高度成長期の世代の一人であることを
おもいださせるとともに、このエッセーをよむ者を奮い立たせる。
私としては藤原氏の「4条件」に「自分の研究対象がすきであること」
を加えたい。私の場合、研究への第一の motivation は
「すきだから」であると思う。
- 中島梓、「あずさのアドベンチャー’80」、文春文庫
中島氏によるとても主観的な短編ルポの連載をまとめた本である。
「度外れた情念にとりつかれた人々」を求めて中島氏はインタビュー
にかけまわる。流行作家をとりあげた章では、
「へたな小説読んでてムラムラと小説書きたくなりませんか」
という中島氏の問いに、某流行作家はそれを否定しつつ、
「デパートなんかでよくできた工芸品とかをみたときに、
もう、わーッと家ン帰って小説書きたくなる」ということを説明する。
「書くこと」にとりつかれているのである。中島氏もまたそうである。
- 伊原康隆、「志学 数学 〜研究の諸段階〜発表の工夫〜」、
シュプリンガー・フェアラーク東京
数学を志す若い人に、基本事項の確認として、一読をおすすめしたい本。
勉強のやり方や講演での話し方や論文の書き方などの
実用的なアドバイスからなる。
基礎的なことはおおむねこの本に書かれている通りだとおもうが、
そこから先は自分で自分の方法をみつけていかなければならないとおもう。
1つ私が違和感を感じるのは論文を書く手順についてで、
私の場合は「頭で十分考えてから、書き下す」という手順ではなく、
構想のメモの段階から tex の画面上で作業をする
(tex の画面を自分の思考の一部として使う)ことが多い。
複雑な式を計算するときも(ノートではなく)
tex の画面上で計算することも私はときどきあり、
このあたりの方法論には世代による違いもあるかとおもう。
- 五木寛之、「生きるヒント」(1〜3)、角川文庫
この本の内容は私の価値観にとても近いとおもう。
有限の人生の中で、自分個人として、また、
自分が直接かかわりをもつ周囲の人たちの間で、
人間がよりよく生きるためには、
どのような価値観をもって日々の生活にのぞめばよいのか、
五木氏はまじめに考える。私もまじめに考えたい。
- 沢木耕太郎、「バーボンストリート」、新潮文庫
エッセー集ということになっているが、内容は、沢木氏自身の
体験を題材にした短編集のおもむきである。切れ味はするどく、
全編をとおして気合いがはいっており、手抜きがない。
ちょっとした疑問が著者自身の体験の中で解消される
(何かにはっと気づく)というのが基本パターンであるためか、
この路線の本はこれしかかかれていないのが残念である。
疑問を解消する、という感動をしょっちゅう体験するというのは
としをとったら難しいのであろうか。
沢木氏自身を「発光体」として題材にした短編集を、
もっとよみたいとおもう。
- 安野光雅、「算私語録」(その1〜3)、朝日新聞社
各項は数行程度のコメントだが、含蓄のある内容もあり、
塵もつもって山となっている。たとえば、、、
○全人類がもっている金をすべて1か所に集めて固めると
1辺15メートルの立方体の大きさになる。
体育館だったらかるくはいる。
全人類は互いにその金を求めて争っているのだそうである。
○人間において自分自身の体をどこまで直接見ることが
できるか? ほっぺやくちびるはちょっとつまみだせば
みえるそうである。なるほど。
- 根上生也、「グラフ理論3段階」、遊星社
グラフ理論のトピックスを具体的な問題に仕立てて、各問題を
パズラー編、おりこうさん編、数学者編で3回ずつとりあげる。
パズラー(ひらめきのみで場当たり的に問題を解決する)や
おりこうさん(理屈をこねて数学的に問題を処理するが、与えられた
問題を解くだけで満足する)から脱皮して数学者(そのトピックスの
研究全体に豊かな構造や流れをつくりだす)になりなさいよ、
と根上氏はいっている(ように思える)。
私には耳のいたいことである。
それはそうとして、私はグラフ理論はパズルに近いとおもう。
- R.H.クロウェル、R.H.フォックス、「結び目理論入門」、岩波書店
私が学部教養の学生のころ初めてよんだ結び目理論の専門書。
結び目の研究で生活していける、ということ
(つまり、結び目というのは学問の対象になる、ということ)
を私におしえてくれた。
結び目群と Alexander 多項式の定義に、この本全体(200余ページ)
を使いはたしている。昔はのどかであった、ということか。
(「この本は大学院のテキストに用いることが出来る」そうである。)
巻末の文献表は古い文献を大量に網羅し、結び目理論の歴史を
ふりかえることができる。
(これから結び目理論について勉強しようとおもわれる方には、
この本のような古い本よりも、1990年以降の本がおすすめです。
たとえば
寺垣内氏のサイト
にいろいろな文献が挙げられています。)
- 内田百間、「阿房列車」(第一〜三)、旺文社文庫
- さくらももこ、「もものかんづめ」、集英社
さくら氏自らの日常生活や恥をさらして笑いをとる。
エッセー本第1作のいきおいというか、まださらすべき恥が
たくさんあって、おもしろい。
- 秋月りす、「OL進化論」(1〜16)、講談社まんが文庫
4コマまんががひたすらつづく。秋月氏はテーマをひろげることは
せず、もっぱら日常の話題について地道に堅実に4コマまんがを
かきつづける。陳腐にならないところに職人芸をかんじさせる。
- H.E.デュードニー、「パズルの王様」、ダイヤモンド社
- ポントリャーギン、「連続群論」(上下)、岩波書店
- 松島与三、「多様体入門」、裳華房
- 中岡稔、「位相幾何学、ホモロジー論」、共立出版
- 高木貞治、「代数的整数論」、岩波書店