全学共通科目講義(1回生〜4回生対象)

 

現代の数学と数理解析
  ―― 基礎概念とその諸科学への広がり

授業のテーマと目的:
数学が発展してきた過程では、自然科学、 社会科学などの種々の学問分野で提起される問題を解決するために、 既存の数学の枠組みにとらわれない、 新しい数理科学的な方法や理論が導入されてきた。 また、逆に、そのような新しい流れが、 数学の核心的な理論へと発展した例も数知れず存在する。 このような数学と数理解析の展開の諸相について、第一線の研究者が、 自身の研究を踏まえた入門的・解説的な講義を行う。

数学・数理解析の研究の面白さ・深さを、 感性豊かな学生諸君に味わってもらうことを意図して講義し、 原則として予備知識は仮定しない。

第11回
日時: 2020年7月3日(金)
      前講義が終了次第開始
講師: 小澤 登高 教授
題目: アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンのパラドックス
要約:
量子力学における量子もつれ状態を利用する量子情報理論の世界では、 古典的実在論的では説明できないことや想像できないことが起こる。 アインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンはそれゆえ量子力学の解釈が 間違っていると主張したが、現在ではベル不等式の破れの検証などを経て、 破綻しているのは量子力学ではなく古典的実在論の方であると考えられる ようになった。つまり、情報のやり取りが一切できず完全に独立している はずの2者の間に、古典手実在論では説明のつかない不可思議な 連絡(量子相関)が存在しうるのである(非局所性と呼ばれる)。 この現象の可能性を数学的に定式化しようとすると、2通りの異なった やり方があることに気付く。つまり、事象を記述する状態空間を、 有限次元であると仮定するか、無限次元であると仮定するか、の2つである。 この2つの異なる定式化が本当に違いをもたらすかどうかを問うのが チレルソン問題である。チレルソン問題は四半世紀以上にわたり 量子情報理論における中心的未解決問題であったが、今年の初めに 量子計算複雑性理論の専門家らによって否定的な解決がアナウンスされた。 この講義ではEPRパラドックスやベル不等式、チレルソン問題、その解決に ついて解説する。線形代数学の基礎(線形空間の計量やエルミート行列の 対角化)を知っていると話が分かりやすい。

参考文献:

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/EPR_paradox
  2. https://arxiv.org/abs/2001.04383

"http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/ja/special-02.html"