全学共通科目講義(1回生〜4回生対象)

 

現代の数学と数理解析
  ―― 基礎概念とその諸科学への広がり

授業のテーマと目的:
数学が発展してきた過程では、自然科学、 社会科学などの種々の学問分野で提起される問題を解決するために、 既存の数学の枠組みにとらわれない、 新しい数理科学的な方法や理論が導入されてきた。 また、逆に、そのような新しい流れが、 数学の核心的な理論へと発展した例も数知れず存在する。 このような数学と数理解析の展開の諸相について、第一線の研究者が、 自身の研究を踏まえた入門的・解説的な講義を行う。

数学・数理解析の研究の面白さ・深さを、 感性豊かな学生諸君に味わってもらうことを意図して講義し、 原則として予備知識は仮定しない。

第11回
日時: 2021年6月25日(金)
      16:45−18:15
場所: 4共11+Zoom(ハイブリッド型)
https://panda.ecs.kyoto-u.ac.jp/portal/site/2021-888-N114-001
講師: 磯野 優介 特定助教
題目: 力学系の同型問題とKolmogorov-Sinaiエントロピーについて
要約:
力学系とは状態の時間変化を表す数学モデルのことである.その起源はニュートン力学にまで遡り,豊かな数学的構造を持つ対象として長く研究されてきた.本講義では,それらの研究の中でもとりわけ重要とされている,力学系の同型問題に焦点を当てる.同型問題とは要するに,与えられた二つの力学系が互いに同一視出来るかどうかを調べよという事で,数学においては自然な問題意識の一つである.
Kolmogorovはこの問題を考えるため,エントロピーと呼ばれる不変量を導入した.これは簡単に言うと,各力学系に対して数字を対応させて,その数字を比較する事で力学系が互いに同じかどうかを判定しようという事だ.Sinaiはこのエントロピーの理論を推し進め,実際にこの数字を計算する事で,当時問題となっていたベルヌーイ力学系に対する同型問題を見事に解決した.(正しくは後のOrnsteinの仕事と合わせての解決である.)この大きな成功もあり,現在ではエントロピーはKolmogorov-Sinaiエントロピーと呼ばれ,力学系の研究に欠かせない基本的な道具になっている.ちなみにエントロピーという名前は,情報理論におけるShannonエントロピーから来ているが,情報理論と直接的な関係はない.
本講義では,このKolmogorov-Sinaiエントロピーについて紹介し,さらにベルヌーイ力学系に対してその計算を試みる.

参考文献: この講義に最も適した本は[1]であり,講義の内容は全てこの本で学習できる.[2]は力学系の位相的エントロピーについて解説しており,最後の章でKolmogorov-Sinaiエントロピーとの関係が述べてある.[3]は近年のブレイクスルーであるsoficエントロピー(Kolmogorov-Sinaiエントロピーの拡張)についての入門書で,基本的な事から分かりやすく書いてあり読みやすい.

  1. 十時東生,エルゴード理論入門,共立出版
  2. 青木統夫,白岩謙一,力学系とエントロピー,共立出版
  3. Kerr David,Li Hanfeng,Ergodic Theory,Springer

"http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/ja/special-02.html"