全学共通科目講義(1回生〜4回生対象)

 

現代の数学と数理解析
  ―― 基礎概念とその諸科学への広がり

授業のテーマと目的:
数学が発展してきた過程では、自然科学、 社会科学などの種々の学問分野で提起される問題を解決するために、 既存の数学の枠組みにとらわれない、 新しい数理科学的な方法や理論が導入されてきた。 また、逆に、そのような新しい流れが、 数学の核心的な理論へと発展した例も数知れず存在する。 このような数学と数理解析の展開の諸相について、第一線の研究者が、 自身の研究を踏まえた入門的・解説的な講義を行う。

数学・数理解析の研究の面白さ・深さを、 感性豊かな学生諸君に味わってもらうことを意図して講義し、 原則として予備知識は仮定しない。

第6回
日時: 2026年5月22日(金)
      16:45−18:15
場所: 数理解析研究所420号室
講師: 磯野 優介 准教授
題目: 力学系の同型問題とKolmogorov-Sinaiエントロピーについて
要約:
力学系とは,状態の時間変化を表す数学モデルのことである.その起源はニュートン力学にまで遡り,現在では数学のさまざまな分野と関わる豊かな研究対象となっている.本講義では,力学系の研究の中でも基本的な問題である「同型問題」に焦点を当てる.同型問題とは要するに,与えられた二つの力学系が同じかどうかを調べる問題であり,数学では自然な問題意識の一つである. KolmogorovとSinaiは,力学系の同型問題を考えるために,エントロピーと呼ばれる量を導入した.これは各力学系に一つの数値を対応させ,その数値を比較することで,二つの力学系を見分けるという考え方にもとづいている.この方法により,彼らは当時問題となっていたベルヌーイ力学系の非同型性を示すことに成功した.ここでベルヌーイ力学系とは,コイン投げを無限に繰り返すような状況から作られる,基本的な力学系である.この成果を出発点として,現在ではKolmogorov-Sinaiエントロピーは力学系の研究に欠かせない基本的な道具になっており,同型問題に限らず,力学系の複雑さやランダムさを調べるさまざまな研究で用いられている. 本講義では,このKolmogorov-Sinaiエントロピーについて紹介し,ベルヌーイ力学系を例に,エントロピーの計算を試みる.なお,エントロピーという名前は情報理論におけるShannonエントロピーに由来するが,情報理論の知識は仮定しない.

参考文献:
この講義に適した本は[1]であり,講義の内容は全てこの本で学習できる.[2]は力学系の位相的エントロピーについて解説しており,最後の章でKolmogorov-Sinaiエントロピーとの関係が述べてある.[3]はKolmogorov-Sinaiエントロピーの現代的な拡張であるsoficエントロピーにも触れる専門的な文献であり,発展的な参考文献である.
[1] 十時東生,エルゴード理論入門,共立出版
[2] 青木統夫,白岩謙一,力学系とエントロピー,共立出版
[3] David Kerr・Hanfeng Li,Ergodic Theory,Springer


"http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/ja/special-02.html"