Japan. J. Math. 15, 1--120 (2020)

小林予想とGreen--Griffiths--Lang予想についての最近の結果

J.-P. ドメイリィ

Abstract:
射影代数多様体内の整正則曲線の研究は,幾何学と数論の魅力ある問題と密接に関係するこの関係は,とりわけ小平邦彦氏の数学への貢献の中心テーマである曲率と正値性の概念を通して得られる.この講演録の主目的は,その幾何学的な側面に関する最近の発展を紹介することである.Green--Griffiths--Lang予想は,$\mathbf{C}$上の任意の一般型射影多様体$X$に対しその真代数的部分多様体$Y$が存在して,全ての整曲線$f: \mathbf{C} \to X$は$Y$に含まれることを要求する.ここでは,有向多様体(directed manifolds)とジェット束による定式化を用いて$X$の接束$T_X$のあるジェット半安定性に関係する強一般型条件のもとで,この主張が正しいことを示す.同様な手法を,$n$次元複素射影空間$\mathbf{P}^n(\mathbf{C})$の十分大きな次数$d \geqslant d_n$の一般の超曲面は双曲的であろうという有名な小林昭七予想(1970)の研究に対し展開することが可能である.2000年代初頭に Yum-Tong Siuはある方略を提案し,2015年にジェット空間上の斜行的ベクトル場とNevanlinna理論の議論を巧妙に用いてある証明に達した.2016年,この予想はDamian Brotbekによって,Wronskian微分作用素と付随する乗法的イデアルをより直接的に用いるという,異なる方法によって解決された.その直後には,Ya Dengがその解決法をどのように改変すれば$d_n$の明示的値を出すことができるかを示した.我々は,彼らのアイデアをかなりの程度簡略化したものに基づく短い証明を与え,Dengの評価によく似た$d_n=\lfloor \frac13 (en)^{2n+2}\rfloor$という下界評価を与える.