流体力学/非線型力学


流体の運動は Navier-Stokes 方程式とよばれる方程式によって記 述されます.この方程式の有効範囲は非常に広く,銀河スケールの 現象からバクテリアスケールの現象まで適用することができます.

流体とは,マクロなスケールでは連続的とみなせるような物体で,力が加わる と流動するものを言います.広い意味では,星の集団も地球のマン トルも流体として扱うこともでき,実際そのようにして運動が調べ られています.このような流体は,古典力学に従うので,基本方程 式はほぼ確立していると言うことができます.

しかし,方程式が分かっている,ということは必ずしも運動の構造 が分かることを意味しません.例えば流体中の生物の運動は、生物の 形状変形を伴う連成問題として未知の事柄の宝庫ですが、同時に最 も難しい流体力学の一つでもあります。また流体力学は、解析力学 としての定式化が難しく、理論構造についても十分な理解が得られ ていません。さらに、流体は,流れが速くなると運動が乱れ乱流と よばれる状態になります.実は,日常身の周りにある流体の運動は, 水道管の中の水の流れ,エアコンから吹き出す冷風,川や海の流れ, 木々を渡る風,雲を吹きやる風,など,いずれも殆んどすべてが この乱流状態にあります.そして,基本方程式の知識に よってこの乱流状態をどうやって記述すべきか,という問題は,現 在でも未解決の問題です.

乱流現象は典型的な非線型現象で,非線型力学の重要な研究対象の 一つです.力学系の観点からみると,乱流は強い非平衡非線形のシ ステムであり,百万次元を超える巨大次元のカオス系です. 流体乱流はカオス系としてどのような特徴を持つのか,ある いは,それらの特徴が系の重要な統計的性質とどのように関係して いるのか,という点については,多くが未解明のまま残されていま す.流体乱流という現象をカオス力学系という枠組みで特徴づける ことは,大変興味ある課題です.

しかし,非線形偏微分方程式系で ある流体方程式を力学系的に扱うことは,大きな困難を伴います. 数値的に扱うにしても,いまの計算機ではまだまだ何桁も能 力が不足しているのが現実です.

私は,流体力学を中心とする非線型現象を研究しています。 流体力学の定式化の問題、流体力学に現れる解の安定性と分岐現象、 非線型力学現象としての乱流,乱流の基本 的性質と関連するカオス系の解析、などに興味を持っています。


大規模流れと微小な流れ


流体力学は約2世紀の歴史を持ち,身の回りの空気や水の流れにつ いて膨大な知識を蓄積してきました.現代の工学はその大きな成果 の上に成り立っています.

一方,20世紀の後半になってから,観測衛星や惑星探査の技術が 進み,地球の大気や海洋,太陽系の惑星大気など,大規模な流れに ついての観測結果が得られつつあります.しかし同時に,身の回り の流れにくらべ,それらを理解するための基礎知識が圧倒的に不足 していることも明らかになってきました.

地球惑星規模の流体運動は,基礎的で単純な系においてすら,しば しば予想もしなかった驚くべき流れを伴います.この ような大規模流れの基礎理論の研究を行っています ( この研究グループの紹介ページ).


データ解析手法


フーリエ解析では,関数を三角関数で展開することによって,関数 の構造を調べます.これは大変強力な方法ですが,三角関数がどこ までも振動し続ける関数であるため,不便な点もあります.例えば, 地震の波のような非定常的な波動を調べようとする時,フーリエ解 析はあまり便利な道具ではありません.

そこで,三角関数とは異な り,局所的にだけ振幅を持つような波をもとにして関数を展開して みよう,という数学的手法が1980年代に始められ,現在 ウェーブレット解析とよばれ,データ解析の手法として 理工学で広く応用されています.

このウェーブレット解析を,これまで,流体力学のデータを初めと して,インターネットのトラフィックや地震波などの時系列や 画像データの解析に応用する研究を行ってきました.さらにこの ウェーブレット解析に関連して発展したさまざまのデータ解析手法 に興味をもち,具体的な問題への応用研究を行なっています.