望月新一の感想・着想
2012年01月23日
 ・IUTeich理論の連続論文の進捗状況について報告する。連続論文の執筆
  および最終点検は順調に進んでおり、4編でちょうど500頁位になる見込み
  である。以前(=2009年10月15日の項目を参照)から今年の夏までの完成
  を目指しているが、夏に間に合うかどうかは別として今年の後半までの
  完成を目指したいと考えている。(もちろん現時点では何も保障すること
  はできませんが。)
2011年06月20日
 ・IUTeich理論の連続論文の進捗状況について報告する。IUTeich IIIは
  (イントロを除いて)一通り書き終え、現在、IUTeich IVを執筆中である。
  IUTeich IIIとIVで取り上げられている内容について改めて考えてみた結果、
  IUTeich IVの題名を、

   IUTeich IV: Log-volume Computations and Set-theoretic Foundations

  に変更することにした。IUTeich I〜IIIでは、遠アーベル幾何、特に
  「絶対p進遠アーベル幾何」の延長線上にある「IU幾何」の枠組みの下で
  の「環構造の復元の議論」(=環構造が存在しないような設定において)
  という極めて抽象的な内容を扱っていたのに対し、IUTeich IVの「体積
  計算」では、至って初等的な議論(=議論の雰囲気は「Arithmetic
  Elliptic Curves...」によく似ている)をするので、久しぶりの「モード
  の切り替え」に少し戸惑っているところである。
2011年05月02日
 ・2011-03-03のコメントで懸案となっていた付値論的な問題が簡単に解決できる
  ことに気付いた。これにより、Pop-Stixのp進セクション予想関連の仕事で
  得られた主定理が、(玉川氏による「非特異性の解消」のような難しい
  数論的な結果を必要としない)ごく初等的なグラフ論と可換環論による考察
  から導くことが可能であることを示したことになる。詳しくはこちらへ。
2011年03月03日
 ・以前のコメントで説明したように、Pop-Stixのp進セクション予想関連の
  仕事を用いることによって、副有限p進セクション予想はその「tempered
  版」に帰着させることが可能である(=Y. Andre氏による指摘)。一方、
  この帰着だけなら、(玉川氏による「非特異性の解消」のような難しい
  数論的な結果を必要としない)ごく初等的なグラフ論的考察からも導く
  ことが可能であることに最近気付いた。詳しくはこちらへ。
2010年11月18日
 ・IUTeich理論の連続論文の進捗状況について報告する。現在、4篇からなる
  連続論文全体の3分の2強程書き終わっており、IUTeich IIIの最後の節の
  執筆に向けての準備に入ったところである。この節では、IUTeich理論の
  
「主定理」(詳しくは先月の講演のOHPシートアブストラクトを参照)
  を定式化し、証明する予定である。作業が順調に進めば、IUTeich IVの
  
「体積計算」等の執筆は、来年度早々から開始できる見込みである。
2010年11月11日
 ・先日のPop-Stixの定理に関するコメントを少し修正した。詳しくは、
  こちらをご参照下さい。
2010年11月02日
 ・「組合論的セクション予想」と、Pop-Stixのp進セクション予想関連の仕事
  の関係について、もっと一般的な体や、素数集合Σに対しても同様な議論
  ができることに気付いたので、2010-10-29の議論を少し修正した。詳しく
  は、こちらをご参照下さい。
2010年10月29日
 ・Pop-Stixのp進セクション予想関連の仕事が、数年前の論文「Semi-graphs
  of anabelioids」で証明した「組合論的セクション予想」と関係している
  ことが分かった。詳しくは、こちらをご参照下さい。
2010年04月12日
 ・IUTeich理論の連続論文の進捗状況について報告する。最近、IUTeich II
  を(イントロを除いて)一通り書き終えたので、(2008年7月に始めた)
  このプロジェクト(=つまり、連続論文の執筆)全体の約半分が完成した
  ことになる。本当は、IUTeich IIIとIVは、IとIIより短くなる予定なので、
  2年弱で既に「半分強」書き終わったことになる。一方、最近は研究以外
  の義務が以前より増えているので、残りの「半分弱」には、2年強掛かっ
  ても可笑しくない感じがしている。つまり、現時点での(イントロを除い
  た本文の執筆の)終了時期の予測は、これまでと変わらず、2012年の夏頃
  ということになる。  

  IUTeich IとIIの理論は、p進Teich理論との類似でいうと、「曲線の標準的
  な持ち上げ」と「付随するガロア表現」の構成に対応している。既に発表
  している論文のうち、この理論において一番本質的に使うのは、「Semi-
  graphs of anabelioids」「Etale theta」という2篇の論文である。
  p進Teich理論との類似からも分かるように、既に書き終わっている理論だ
  けでも、「既にかなり出来ている」という気分になる。一方、残りの
  IUTeich IIIとIVは、(当然ながら)決して「自明」ではなく、まだ暫く
  の時間を要しそうである。p進Teich理論との類似でいうと、IUTeich III
  は「フロベニウス持ち上げ」の構成に対応していて、IUTeich IVは
  「Hasse不変量」(=「フロベニウス持ち上げの微分」)の計算に対応し 
  ている。また、IUTeich I, II, IIIは、既に発表している様々な論文の中
  で用意した「部品」を用いて「ある装置を組み立てる」作業に対応してい
  るという意味において一つの「自然な単位」を成していると見ることがで
  きる。つまり、その装置の組み立ては、既に3分の2強程、完成していると
  いうことになる。一方、IUTeich IVは、組み立てた装置に関する計算である。
2009年10月15日
 ・現在執筆中のIUTeich理論の論文の進捗状況について報告する。前回(=
  2009年02月)の報告では、理論を3篇の論文に分けて執筆中であると書いた
  が、その後3篇が次の通り4篇に増えた。

   IUTeich I: Construction of Hodge Theaters
   IUTeich II: Hodge-Arakelov-theoretic Evaluation
   IUTeich III: Canonical Splittings of the Log-Theta-Lattice
   IUTeich IV: An Analogue of the Hasse Invariant

  これは、別に数学的内容が増えたことによって起こったことではなく、む
  しろ理論をきちんと定式化することによって理解がより精密になり、それ
  によって理論を前と比べてある程度簡略化することができているが、理論
  を詳しく解説しながら、1篇の長さを100ページ余りに抑えようとすると、
  さらなる分割が必要になることが判明しただけのことである。

  現在は、IUTeich II をほぼ半分書き終えたところである。つまり、この
  プロジェクト全体が「4.0」だとすると、そのうちの「1.5」位まで書き
  進んでいることになる。IUTeich I は、2月頃一旦書き終えたが、その後
  ある部分を書き直したり、また新たな節を追加したりしたことによって
  全体のペースが少し落ちてしまった。現在のところ、大体「1篇に1年
  (弱?)位」掛かるというペースなので、書き終わるのは2012年の夏頃
  という計算になる。(もちろん保障はできないが!)

  より精密な理解に到達した課題は無数にあるが、中でも恐らく最も特筆
  すべきなのは、以前の定式化の最後辺りに出てくる

         「複雑な極限」の理論を完全に削除できた

  ことであろう。p進Teich理論との類似でいうと、これによって「p進体ま
  での標準的持ち上げ」ではなく、「mod p^2までの標準的持ち上げ」で
  十分であることが分かったということである。この簡略化によって、
  理論全体の論理構造がより透明になり、(以前から主張していたように!)
  Etale ThetaAbsolute Topics IIIの、「遠アーベル系」理論こそが
  IUTeich理論全体の中でも最も中心的かつ本質的な部分であることがより
  明示的になった。
2009年02月11日
 ・IUTeichの論文を昨年の7月から執筆しているが、最近の進捗状況について
  報告する。まず、2008-03-25の報告(過去と現在の研究を参照)では、
  この理論を二篇の論文に分けて書く予定であると書いたが、この半年
  余りの間、(論文一篇の長さが100ページを大幅に超過しないように)
  理論を三篇の論文に分割して書くことに方針を変更した。現時点で
  考えている題名は次の通りである:

   IUTeich I: Construction of Hodge Theaters
   IUTeich II: Hodge-Arakelov-theoretic Evaluation
   IUTeich III: Canonical Splittings

  このうち、IUTeich I は(イントロを除いて)一通り書き終わっていて、
  IUTeich IIを書き始めているところである。これまでのペースで作業が
  進めば、(2008-03-25の報告で予定した通り)2010年末までに一通り
  書き終わる見通しであるが、もちろんこれについては現時点では何も
  保障できない。

  IUTeich I では、

             (a) Frobenioid I, IIの理論
  の他、
             (b) Etale Thetaの理論
  や
             (c) Absolute Topics IIIの理論
  
  の、非自明ながら比較的表面的な部分を、本質的な形で利用したが、
  IUTeich II では、(b)の最も深い部分を使う予定である。一方、
  IUTeich III では、(c)の最も深い部分を適用する予定である。
2008年06月11日
 ・組合せ論的カスプ化(前回04月09日の報告を参照)の論文が完成した
  (論文を参照)。この論文では、properな双曲的曲線の場合、配置空間
  の次元が2から1に下がるときの単射性は証明されていないが、論文が
  完成した後で、星裕一郎氏との共同研究でこの単射性を証明することが
  できそうになった。この共同研究が完成すると、松本氏の定理のproper
  な場合への拡張ができたことになる。この展開で特に面白いと思うのは、
  スキーム論の枠組に留まる限りとてもできそうな感じがしなかったproper
  な場合が、スキーム論に「パターンのヒント」を得ながらスキーム論の
  枠組の外にある組合せ論的な理論を適用することによってすんなり解決
  できたこと。即ちこの展開は、正に「IU幾何の精神」の有効性のよい例に
  なったと思う。

  組合せ論的カスプ化の論文では、GT(=Grothendieck-Teichmuller群)
  に含まれる「対称性」が、(次元が下がったときの配置空間の幾何的
  基本群の外部自己同型群の)全射性の証明では重要な役割を果たす。
  最近、興味深いことに、このGT的対称性を使うことによって、p進局所体
  上の絶対遠アーベル幾何において、初となる副pのGC(=Grothendieck
  予想)型の定理を証明できることに気付いた。簡単な議論だが、そろそろ
  IUTeichの論文の執筆を再開したいと思うので、いつ書くことになるか
  分からない。
2008年04月09日
 ・「combGC」(=「Grothendieck予想の組合せ論版」--- 2007年の論文を
  参照)を適用することによって、松本眞氏の有名な「単射性定理」(=
  1996年のCrelleの論文のTheorem 2.2)の「組合せ論版」ができそう。
  これは2つの意味において興味深い展開だと思う。まず、第一に、
  「Grothendieck予想型」の定理の*応用*になっているところが面白い。
  第二に、証明では、「combGC」は一種の*「canonicalな分裂」*を
  構成するのに使うのだが、IUTeichにおいても、遠アーベル幾何は正に一
  種の「canonicalな分裂」を構成するのに使うことを連想させるところ
  がある。(最近の「過去と現在の研究の報告」を参照。)特に、この
  「canonicalな分裂」が、松本さんの議論における「スキーム論から
  生じる」という性質の「代役」を果たしているところが、IUTeichとの
  類似性を更に感じさせるものである。因みに、この「GCのようなもの
  がもたらす分裂=半単純性」という現象の原型は、「center-freeな
  群Gと任意の群Hに対して、HのGによる拡大と、HによるGへの外作用は
  同値である」という事実だと思う。
2006年10月31日
 ・「対称化された配置空間」に関する訂正:先日、数理研で開かれたガロア
  理論の研究集会で玉川さんの(配置空間の代数および遠アーベル幾何に関
  する)講演の後、私と玉川さんの共著論文で得られている結果が、「対称
  化された配置空間」(=配置空間を対称群で割って得られる空間)に対し
  て拡張可能かどうか、(伊原康隆先生とT. Szamuely先生より)質問が
  あった。そこで、私は、「早とちり」で、共著論文で得られている二種類
  の定理のうち、一種類については、拡張可能であると答えたが、これは私
  の誤解によるものであった。この場をお借りしてお詫びしたい。

  講演から帰った後、改めて考えてみたところ、次の結論に達した:対称化
  配置空間への拡張は、「pro-l、かつ l > 配置空間の次元」という条件の
  下では、(単に最大pro-l 部分群を考えることによって)共著論文の二
  種類の定理に対して可能だが、それ以外の場合(=例えば、一般の
  profiniteの場合等)は、共著論文で得られている結果から直ちに従う 
  帰結はなさそうだ。つまり、対称化配置空間への一般的な拡張は、今のと
  ころ、面白い*未解決問題*と言わざるを得ない。また、配置空間の基本
  群の同型によって各々の対角因子に付随する分解群たちが保たれるかどう
  か(これも伊原先生による質問だが)という問題も、現時点では*未解決* 
  なままである。 
2006年08月25日
 ・pro-(p,l)のabs pGCに関する補足:06月24日の報告の「点論性から幾何性」
  が従うという議論はまだ大丈夫だと思うが、「できそうだ」と言っていた
  「点論性」の議論にギャップが見付かり、今のところ修復の目処が立って
  いない。
2006年06月24日
 ・pro-(p,l)のabs pGCに関する補足:05月17日の時点ではまだ出来て
  いなかった部分(=Green自明化に関係する部分)があったが、これは無事
  解決できたと思う。ただし、この「pro-(p,l)のabs pGCが出来た」という
  話は全部「点論的」(=「Cuspidalization」の論文の「point-theore-
  tic」)という仮定の下での話。一方、「点論性」については、学生の
  星氏との共同研究によってそう遠くないうちにできそうだ。すると、現在
  の認識では、「p進遠アーベル幾何のもっとも重要な未解決問題」は、
  pro-pのabs pGCかな。これまで出来ていることを考慮すると、この問題は、
  pro-p abs的な設定において曲線のspecial fiberの(閉点や既約成分の)
  幾何を復元することと事実上同値である。
 ・双曲的曲線の配置空間の遠アーベル幾何に関する玉川さんとの共同研究は
  順調に進んでいて、そう遠くないうちに論文も公表できそうだ。
2006年05月17日
 ・pro-(p,l)のabs pGC (p進局所体上の絶対グロタンディーク予想)
  が出来そうな気がしてきた(まだ完全にチェックしたわけではないが)。
  これを受けて、「pro-p Green 自明化がこのようなabs pGCの設定で
  保たれる」ことを示すことが、p進遠アーベル幾何のもっとも重要な
  未解決問題であると改めて認識させられた。(Green自明化については、
  「Cuspidalization」の論文を参照。)