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ポアソン方程式とグリーン関数

さて, 上でのべたグリーン関数についても説明しておこう. 数理物理学の問題ではポアソン方程式の解を求めることがしばしば重要である. いま, ある領域$ \Omega$で与えられた関数$ f$と, その領域の境界上で 与えられた関数$ \mu$が与えられたとき,
$\displaystyle - \triangle \phi$ $\displaystyle =$ $\displaystyle f \hskip 2cm (x \in \Omega )$ (5)
$\displaystyle \phi$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \mu \hskip 2cm ( x \in \Gamma )$ (6)

を満たす$ \phi$を求めることが要求される. (5)を ポアソンの方程式と呼ぶが, (5)(6) の境界値問題の解を求めることは 静電磁気学において中枢の働きをなす. また, $ \phi$ を温度とみなせば, 「領域$ \Omega$の境界を与えられた温度$ \mu$に保ち, 熱源$ f$が分布している ときの温度」を決める方程式であると解釈することもできる. 従って, ポアッソン方程式の解法を知っていれば電気力学にも熱力学にも (そして力学にも)応用できるのである.

では, ポアッソン方程式の解はどうすれば求めることができるのか? これが問題である. 実は, $ f$$ \mu$によらず領域$ \Omega$だけで決まる 関数を用いて, 解を積分で表示する方法が存在する. これがグリーン関数 の方法である. 以下に説明するように,

$\displaystyle \underline{\hbox{ある特殊な場合の
解が求められれば, その知識だけで一般の場合も解けるのである}}.
$

グリーン関数は200年近くたった今でもその重要性は増しこそすれ減ることはない, と言っても過言ではないくらい重要なものである. そこで, グリーン関数を直感的に定義しよう. $ \Omega$を有界領域とする. その境界$ \Gamma$はアースされているものとする. その領域の内点 $ x$ に強さ1の点電荷をおいたときの 電位分布(図1を参照)を $ y \in \Omega$ の関数とみなし, これを $ G(x,y) $ で表す. この関数 $ G(x,y) $ をグリーン関数 ( Green's function )と呼ぶ. グリーン関数は$ x \neq y$ なる点 $ x,y \in \overline{\Omega}$ について定義された関数である. $ G$が具体的に どのような関数であるかはわからないとしても, 次のことは明らかであろう.

G1
$ G(x,y) $ $ y \in \Omega \setminus \{ x \}$について調和関数である. つまり,

$\displaystyle \frac{\partial^2}{\partial y_1^2} + \frac{\partial^2}{\partial
y_2^2} + \frac{\partial^2}{\partial y_3^2} G(x,y) = 0;
$

G2
$ y \in \Gamma$ならば $ G(x,y) = 0$;
G3
$ y \rightarrow x$ のとき $ G(x,y) \sim \frac{1}{4\pi \vert x-y\vert}$.

以上は物理的な定義である. もう少し数学的には次のように定義する.

定義 1   点 $ x \in \Omega$ を任意に与えたとき, $ \Omega \setminus \{ x \}$ $ \triangle\phi = 0$を満たし, $ \Gamma$ でゼロとなり,

$\displaystyle \lim_{y \rightarrow x} \left( \phi(y) - \frac{1}{4\pi \vert x-y \vert } \right)
$

が存在するような$ \phi$が一意に存在することが証明できる. このとき $ G(x,y) = \phi(y)$ と定義して, グリーン関数と呼ぶ.

(ここで述べた$ \phi$の存在証明には多くのページ数が必要なのでここではやらない. 上で述べた物理的な直感からその存在を 疑うことはできないであろう. )

図 1: 点電荷が生み出す電位の等高線.
\includegraphics[height=4cm]{den-i.eps}

グリーン関数は様々な利用が可能であるが, 次の定理が最も 重要である:

定理 1   $ f$が与えられたときの ポアッソン方程式の境界値問題
$\displaystyle - \triangle \phi$ $\displaystyle =$ $\displaystyle f \qquad ( x \in \Omega ),$ (7)
$\displaystyle \phi$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 0 \qquad ( x \in \Gamma )$ (8)

の解はただひとつ存在して

$\displaystyle \phi(x) = \iiint_{\Omega} G(x,y)f(y){\rm d}V(y)$ (9)

と表示できる.

注意 1   $ \rho$が滑らかな関数であるならば$ \phi$も滑らかな関数であることが 知られている. しかし, その滑らかな関数の表示には不連続点を持つ 関数$ G$を用いていることに注意されたい. 求めるものが滑らかである といっても滑らかな関数だけを取り扱っていてはだめなのである.

定理の証明は省略する. また, (5)(6)の解も$ G$を 用いて表示できるが, これについても省略する.


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Kazuko Suenaga 平成17年2月14日