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教育実施計画本拠点における数学教育のうち、全学共通の基礎教育は別として、 学生・院生に対する学部大学院教育で我々が目指すものは次の3つのカテゴリーの育成である。
(A)先端的数学の研究者
(B)高度の数学的問題解決能力を身につけ中高教育や
(C)高等数学に対する深い理解を基礎に一般企業あるいは 本拠点の形成において教育面で中心となるものは(A)(B)であるがこれを切り離して行なうことはできない。 (C)も含めた数学の専門教育の中で(B)さらに(A)の部分を特化していくプログラムを創出したい。 特に数学においては若い頭脳の活躍が新しい発展に重要であるにもかかわらず、 学部学生の学力低下が大学院教育(特に(A))を困難にしている。 従って、学部教育の改善も重要度が高いと考える。 このために学部教育においても大学院教育の基礎となる新たな取り組みを行なう。
(1)数学吉田塾(学部1、2年次) 京都大学理学部では専攻分化は3年次以降であり、 吉田キャンパスでの1、2年次の数学教育では最先端へつながる数学への意識づけということは必ずしも強調されない。 しかしながら(A)(B)を目指す学生にはこの時期の数学への集中は重要であり、 動機付けとしてより高度な教育が必要である。 同年代の横のつながりも重要であるが、 近年自主ゼミ等が活発に行なわれているとは言い難い。 数学へのきっかけを与え先端との距離感を身につけさせるため30名程度の1、2回生に対し週一回午後7--10時に数名の教官の交替による講義と討論の塾形式で数学吉田塾を開く。 教官ごとにテーマを選び最先端の数学がどのような基礎の上に何を目指しているかを伝えたい。 また夏冬には研究教育支援職員も参加して合宿も行ないたい。 これにより大学院入学時に高い意識と深い基礎知識を既得している学生が得られるようにする。
(2)1対1対話型教育による学部専門教育の高度化 現在、大学院入学者の学力低下が大きな問題となっている。 このため京都大学理学部では一般の学部学生の数学専門科目に対する理解を確実なものにするため、 授業内容を整理するカリキュラム改革が進行中である。 これにより大学院に進学する学生が基本的な学識を習得すると考えている。 この改革をこのプログラムのTAによる3回生レベルの演習支援によって強化する。 一方で特に優秀な学生に大学院レベルの教育を学部段階から実施する事も重要と考えている。 3・4回生レベルで教官と学生が1対1で行なうセミナー形式の教育を実施する。 このような指導を行ううえでの問題点は、 学生と教官の年齢の差が大きくなりすぎていることである。 過去には、20代の助手クラスの教官による学生指導での多くの成功例がある。 このため研究支援職員・教務補佐員をチューターとして採用し、 1対1対話型教育を実現する。 この結果、研究者を目指す優秀な大学院入学者を確保することが可能になり、 併せて3年次終了時点からの進学者や大学院在学5年未満の博士の学位取得者の増加が見込まれる。 数学・数理解析専攻における大学院教育は従来通り数理解析系では(A)のみ、数学系では(A)(B)にわけての指導 を行なうが、本拠点の形成により以下の新たな取り組みを創出する。
(3)城崎新人セミナーと院生国際ネットワーク 数学においては他の自然科学における実験装置や器具に相当するものが人間である。 自分の理解した内容を他人に伝え、逆に他人の言葉からそれを理解する。 そこには書物を読むだけでは得られない、 生の実験データとも言うべき刺激とレスポンスがある。 そのため教官の指導のもと、 院生自らが企画して国内他大学の院生も集めてブレーンストーミングを行なう。 これは基礎技術の訓練ではないので最先端に近いレベルで行なうことが効果的である。 従って多人数での学校形式ではなく特定のテーマで近い分野の院生を集めて10名程度の規模で複数行ないたい。 開催地としては、これまで数多くの数学シンポジウムの開催された城崎を考える。 博士後期課程のレベルでは韓国高等研究所、 仏の高等師範学校、 米国 カリフォルニア大学バークレー校 など海外との院生交流も行い、 若い年令層の国際的なネットワークを形成する。
(4)京都オープンスクール事業 国内外の第一線の数学者を招き連続講演を行なう。 大学院進学時のレベルと最先端の数学の基礎部分を繋ぐことが目的である。 夏の学校の短期集中形式とセメスター形式の2通りを用意し、 前者では国内他大学およびアジアの近隣諸国からの受講も受け入れる。 後者では京阪神の大学院生に開放し、出席しやすい場所・時間帯に行なう。 その分野を目指す院生がいる場合にレクチャーノート作成を行ないシリーズとして刊行する。 関連する研究を行なっているPDがいる場合に特別講演の機会を与える。 スクールは講師と院生・PDとのつながりを生むきっかけとなる。 (古くはZariskiと広中、Artinと森の出会いがこうして生まれた。) また(B)のために企業等で直接応用される数学(保険数学等)のコースも用意する。
(5)京都数学フェロー TA、RA、研究教育支援職員、教務補佐員を多数採用する。 TA、教務補佐員には演習支援を、RAには城崎新人セミナーの運営を、 研究教育支援職員には演習、講究、 (B)カテゴリーの大学院教育等の支援をさせることによって研究教育の円滑化をはかる。 これに加えて研究に専念させる目的で京都数学フェローを創設する。 これは、国内外からの公募により2―5年の任期で20名程度のPDに対して研究に専念できる自由な研究環境を与えるものである。 海外の国際研究集会への参加を支援し必要と認めた場合は海外への長期滞在についても柔軟に考えたい。 |
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Last modified: July 18, 2003 |