MATH

RIMS

拠点形成の目的

 数学は人類文明の最深部に位置して科学全体の基盤となる基礎的学問分野であり、 現代社会における科学・技術を支えている。本計画では、 数学全般における長期的な視野のもとに次世代研究者を育成し、 事業推進担当者を次の3グループにわけ、 各々のテーマにおいて先端的数学の国際的拠点形成を行う。

第1グループ:無限と大域の対称性
テーマ:無限可積分系、幾何学的表現論、モジュライ空間の幾何

第2グループ:数論と代数幾何の融合
テーマ:双有理幾何、数論幾何

第3グループ:数理現象の解析
テーマ:複素力学系、数理流体力学、確率解析

 数学の新しい発展は、 常に異なるテーマ間の相互作用や新しい連関の発見によってもたらされる。 この点に機能的に対応するため、 上記の8つのテーマのほかにも萌芽的なテーマを積極的に取入れる。

拠点の構成

 数理解析研究所と理学研究科数学・数理解析専攻が協力して拠点を構成する。 京都大学の将来構想にあるように世界的研究・教育拠点の形成を目指す。

bar

 第一に、研究者の直接交流の場を京都に形成することである。 数学の発展には、他の自然科学のように大きな実験装置は必要としないが、 研究者の直接の対話によりアイデアを提供しあい新しい視点を見つけていくことが不可欠である。 国外では高等研究所(米)、数理科学研究所(米)、 アイザック・ニュートン研究所(英)、マックス・プランク研究所(独)、 アンリ・ポアンカレ研究所(仏)等が長短期の研究プログラムにより研究交流の成果を挙げている。 数理解析研究所では公募によるプロジェクト研究を実施し大きな成果をあげてきたが、 国内共同利用の制約があり国際的活動としては未だ十分でない。 21世紀COE国際拠点形成にあたっては、 数理解析研究所と数学教室を合わせた研究グループを基盤とする長期(3-12ヶ月)の国際共同研究プログラムを実行し、 京都における国際的な研究交流のなかで、無限可積分系、幾何学的表現論、 モジュライ空間の幾何、双有理幾何、数論幾何、複素力学系、 数理流体力学、確率解析などのテーマにおける独創的研究を発展させる。

 第二に、次世代研究者の育成をめざす。 数学の新たな発展は若い研究者の新しいアイデアに負うところが大きく、 次世代研究者の育成は数学そのものの発展に直結している。 大学院重点化によって大学院修士課程の入学定員は増えたものの、 その平均的学力は、20年前に比べ劣っていると言わざるを得ない。 このような状況のなかで、社会に対する人材の供給と研究者の育成を推進するためには、 数学・数理解析専攻と数理解析研究所がそれぞれの特徴を生かし連携する必要がある。 若い研究者にとって、大学院博士課程、 ポストドクターにおいて研究テーマを模索する時期に、 国際的な研究交流の現場に立ち会う事はその才能を開花させる絶好の機会である。 本拠点形成の中心的事業として、京都数学フェローを全国公募し、 国際共同研究プログラムのなかで次世代研究者として育成する。 また修士課程修了後大学院から巣立つスケールの大きな人材の養成にも、 修士在学中に国際的な雰囲気のなかで研究させることは非常に有効である。

 一方数学という学問の性格においては、 大学院入学以前の段階で通常のカリキュラムを越えて進んだ学習をすることが、 独創的な研究を育てるために必須である。このためには、 意欲ある学生に数学の魅力を伝え正しい方向性を与えなければならない。 この目的に沿う1対1対話型の新たなプログラムを創成し次世代研究者育成の一環とする。

bar

 計画の2本の柱の一つ、研究者の直接交流においては、 本拠点の現在までの実績を活用することによって、大きな成果が期待できる。 数理解析研究所では国内共同利用として年間70件近くの研究集会、 共同研究が行なわれ、参加者の総数は延約4000名(1年間)にのぼり、 外国人訪問研究者の数も非常に多く、 平成13年度は数理解析研究所242名、数学教室69名であった。 このような実績により国外の研究者を招へいすることは容易であり、 京都における国際共同研究プログラムを効果的に実行することができる。

 第2の柱、次世代研究者の育成においては、 上記の国際共同研究プログラムにより生まれる。 国際的な環境を院生、ポスドク(京都数学フェロー)に提供し、 広い視野をもつ次世代研究者を育成することができる。 これらについては海外の研究者による研究成果の評価を行い将来の成長につなげる。 又、数理解析研究所が既に結んでいるソウル国立大学, 韓国高等研究所との交流協定、 交渉中の 高等師範学校(ENS,仏)との交流計画を利用し、 国際的な 大学院生のネットワークを形成することにより国際的競争力の高い次世代研究者育成を推進できる。

bar

 COEとして成功している例として、高等研究所(IAS)とプリンストン大学、 数理科学研究所(MSRI)とカリフォルニア大学バ―クレー校がある。 これらは研究を目的とする研究所と教育を主体とする大学が車の両輪として機能することによって成功している。 ヨーロッパでは比較的近接した範囲に研究者が集まっているのに対し、 広大な米国では、近接した場所に研究と教育の機能を集約することが必要とされたのである。 我が国も、研究者の国際交流の上で地理的に不利な条件のもとにあり、 プリンストンやバークレーのシステムをとり入れるべきである。 このような拠点形成には、大学附置の数理解析研究所を持つ京都大学で行なうことが最適である。

bar

  1. 8つの研究テーマの相互作用により新しい研究の方向が生まれる。 例えば次のようなものが期待される。 
    • 双有理幾何における高次元多様体の構造の解明により、複素力学系の研究が、 現在の2次元から高次元に拡がる。
    • 無限可積分系において明らかになった無限次元対称性が、 数論幾何に新しい視点をもたらす。
    • 数理流体力学において数値実験などで発見された新しい現象が、 確率解析により研究される。
  2. 京都数学フェローを含む若手研究者の中から将来の中核となる研究者が育つ。
  3. アジアの有望な研究者が、日本に目を向けるようになる。
  4. レベルを低下させることなく大学院の充足率を確保する。
  5. 飛び級による大学院入学、早期の学位取得が増加する。
  6. 研究教育支援職員として教育経験を積んだ人材が育ち、次世代の数学教育を担う。

bar

 無限可積分系は、カオスや流体とは対極の、対称性が支配する世界である。 自由度が無限大の場合が数理物理との関連で重要であり、 代数解析的手法による研究から、表現論、組み合わせ論の新しい問題が生じた。 一方、同じ問題に幾何学的なアプローチもあることが発見され、 幾何学的表現論という新分野が生まれている。 モジュライ空間をもとにホモトピー代数を発展させ数理物理の弦理論や大域幾何学に応用するという壮大なプランも着々と進展しており、 基本類の構成などの成果が得られた。 これらの進展に対する、京都学派の寄与は大きく、 この計画によりさらに世界をリードすることができる。

 双有理幾何では3次元が「高次元」として現時点での中心課題であり、 極小モデル理論で基本的なフリップの分類を行なう。一方、 代数幾何と表現論の境界における興味ある問題として、 不変式環がいつ有限生成かというヒルベルト以来の問題に双有理幾何が応用されつつある。 対数的アーベル多様体の理論は、 代数多様体の理論からはみだした対象を新しい極小モデルとして数論的にとらえる新手法である。 数論幾何では数体上の楕円曲線について「ホッジ・アラケロフ理論」を圏論的に発展させる。 圏論的手法はディオファントス幾何の問題にも有効であると期待される。 複素力学系の研究では、カオス的力学系に複素解析的手法を適用することにより、 力学系理論と複素解析双方に新しい展開をもたらす。 数理流体力学では、ナビエ・ストークス 方程式と3次元力学系の関連を解明し、 複雑な流体現象の新しい側面を見い出す。 確率解析では、ランダムな経路空間の上に解析学を構築する。 これらの研究では、計算機数値実験により新しい数理現象の発見をめざす。

 又、分野間の相互作用により萌芽的な研究が生まれる。 例えば、高次元の双有理幾何の成果を利用して、 複素力学系における2次元の理論を高次元化して新しい分野が生まれることを期待している。

最新情報
拠点形成の目的
拠点形成実施計画
教育実施計画
ポスドクの公募
事業推進担当者
ポスドク
21世紀COEで行なった事業
  (研究集会・講演会等)

数理解析研究所大学院理学研究科数学・数理解析専攻



Last modified: July 18, 2003