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グリーンの定理

以下ラプラス作用素というものが頻繁に出てくるのでこれについて簡単に おさらいをしておこう. ラプラス作用素とは,

$\displaystyle \frac{\partial^2}{\partial x_1^2} + \frac{\partial^2}{\partial
x_2^2} + \frac{\partial^2}{\partial x_3^2}
$

という微分作用素で, 通常 $ \triangle$ と表す. (本稿では空間の点$ x$の座標を $ (x_1,x_2,x_3)$で表す. )  平面で定義された関数に ついてもラプラス作用素を

$\displaystyle \triangle = \frac{\partial^2}{\partial x_1^2} +
\frac{\partial^2}{\partial x_2^2}
$

で定義する. ラプラス作用素は力学, 熱学, 電磁気学, など古典物理学のほぼ全般にわたって 重要な働きをするので, その性質を知ることは大変重要である.

$ \Omega$を3次元の領域とし, $ \Gamma$ でその境界となっている閉曲面を あらわすことにしよう. 領域というときには開集合を意味するので$ \Gamma$ の点は $ \Omega$ には属さない. $ \Omega \cup \Gamma$ $ {\overline{\Omega}}$ で 表し, $ \Omega$ の閉包と呼ぶ. $ \Gamma$の各点で領域$ \Omega$の外向きに法線を 考え, その方向を向いた単位ベクトルを $ {\bf n}$ で表す. $ {\overline{\Omega}}$で定義された関数を考え, $ \Gamma$の点におけるその関数の $ {\bf n}$方向の微分を $ \frac{\partial f}{\partial n}$ で表す. $ \frac{\partial f}{\partial n} = {\bf n}\cdot\nabla f$であ る1. $ {\overline{\Omega}}$で定義された微分可能関数 $ f$$ g$ が与えられたとき,

$\displaystyle \iiint_{\Omega} f \triangle g \, {\rm d}V = \iint_{\Gamma} f \fra...
...{\partial n}{\rm d}\Gamma - \iiint_{\Omega} \nabla f \cdot \nabla g \, {\rm d}V$ (1)

が成立する. この事実をグリーンの定理と呼び, (1)をグリーンの 公式と呼ぶ. ここで, $ {\rm d}V= {\rm d}x_1 {\rm d}x_2 {\rm d}x_3$は体積要素, $ {\rm d}\Gamma$は曲面$ \Gamma$の面積要素である. (1)で$ f$$ g$を交換し, その式と(1) を辺々引き算すれば, 次式を得る:

$\displaystyle \iiint_{\Omega} \left( f \triangle g - g \triangle f \right) {\rm...
...\partial g}{\partial n} - g \frac{\partial f}{\partial n} \right) {\rm d}\Gamma$ (2)

これもグリーンの公式と呼ばれる.

$ \Omega$が2次元領域のときにも, $ \Omega$の境界となる閉曲線を$ \Gamma$ とすれば同じ形の定理が成り立つ:

$\displaystyle \iint_{\Omega} f \triangle g \, {\rm d}S = \int_{\Gamma} f \frac{...
...\partial n} {\rm d}\Gamma - \iint_{\Omega} \nabla f \cdot \nabla g \, {\rm d}S.$ (3)

ここで, $ {\rm d}S = {\rm d}x_1 {\rm d}x_2$ である.

グリーンの公式は1次元における部分積分の公式の多次元への拡張になっている. 1次元版である

$\displaystyle \int_a^b f(x)g^{\prime\prime}(x) {\rm d}x = f(x)g^{\prime}(x) \bigg\vert _a^b
- \int_a^b f^{\prime}(x)g^{\prime}(x) {\rm d}x
$

は部分積分の公式そのものである. 1次元の場合, 微分の方向は一方向 (あるいはその180度反対方向)しかないけれども, 多次元では境界の 微分の方向は無限にある. このうち外向き法線微分だけが公式に現れて くることが重要である.

グリーンの公式と同様の地位にあるのがガウスの定理 である. これは ベクトル値関数 $ {\bf u}= {\bf u}(x_1, x_2, x_3) =$ $ (u_1(x_1,x_2,x_3)$, $ u_2(x_1,x_2,x_3), u_3(x_1,x_2,x_3))$ に関するもので

$\displaystyle \iiint_{\Omega} {\rm div}\, {\bf u}\, {\rm d}V = \iint_{\Gamma} {\bf u}\cdot{\bf n} \, {\rm d}\Gamma$ (4)

と表すことができる. ここで

$\displaystyle {\rm div} \, {\bf u}= \frac{\partial u_1}{\partial x_1} +
\frac{\partial u_2}{\partial x_2} + \frac{\partial u_3}{\partial x_3}
$

である.

ガウスの定理とグリーンの公式が同値であることは良く知られている. 実際, グリーンの公式からガウスの定理を導くには (1)で $ f = u_1, g = x_1$ とおくと( $ \triangle g \equiv 0$ だから)

$\displaystyle \iiint_{\Omega} \frac{\partial u_1}{\partial x_1} {\rm d}V =
\iint_{\Gamma} u_1n_1 {\rm d}\Gamma
$

同様に $ f= u_2, g = x_2$, および $ f=u_3, g = x_3$ とおき, 得られた3式を辺々加えればガウスの定理が得られる. 逆に ガウスの定理からグリーンの公式を導くには, ベクトル値関数として $ {\bf u}= f\nabla g$をとる. このとき $ {\rm div}\, {\bf u}= f \triangle g
+ \nabla f\cdot\nabla g$ だからグリーンの公式が出てくる.

ガウスは19世紀の数学において他を寄せ付けないく らいの業績をあげた人物であるが, Cross [3]によれば, 彼が見いだしたものは(4)の特殊な ものでしかなかったということである. (4)という形の定理 を最初に見いだしたのは実はオストログラツキー( Mikhail Vasilevich Ostrogradski 1801-1862 ) である, というのが定説のようである. ロシアではガウス・オストログラツキーの定理とも呼ばれることが あるが, それも理由のないことではないのである.


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Kazuko Suenaga 平成17年2月14日