2018年11月、数理解析研究所は「国際共同利用・共同研究拠点」に認定されました。

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共同研究開催期間中の保育室設置について
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訪問滞在型研究リスト

2023年度

1942年に伊藤清によって確率微分方程式の定式化がなされて以来、日本における確率解析の研究は世界の確率論の発展に極めて大きな影響を与えてきた。確率論自体も、偏微分方程式、ポテンシャル論、幾何学など様々な数学や、統計力学、集団生物学、経済学など諸科学との強い相互作用を持ちながら、非常に幅広い研究対象を持った分野として成長を続けている。とりわけ今世紀に入ってからの発展は目覚ましく、その方向性も、統計力学をはじめとする物理学に動機付けを持つモデルの解析を始め、ビッグデータの解析など、応用に直接つながる研究へも凄まじい勢いで拡がっている。他方、確率論の研究テーマの急速な深化・拡大により、個々の研究者は自らの研究分野の周辺の知見を得ることで精一杯となり、より大きな拡がりとして確率論を捉えることが難しくなるという残念な状況も生じている。

本研究は、「確率過程と確率解析」をキーワードとして、以下の3つのテーマを軸にそれぞれの分野から日本発の研究成果を発信し、国際共同研究のさらなる推進をはかることを主な目的とする。異なるテーマの研究者同士が交流を深めることで、広範囲の研究動向を俯瞰し、確率論の研究のさらなる発展を促す。(それぞれのテーマについて、括弧内に記したタイトルの研究集会を企画する。)
i) 確率偏微分方程式と関連する確率過程の解析(確率偏微分方程式と確率解析)
ii) 統計力学に動機付けを持つ確率モデルの解析(大規模相互作用系の確率解析)
iii) ランダム行列を軸とする、組み合わせ確率論、量子情報等の解析(ランダム行列とその応用)
テーマ間の交流を目指すため、2023年9月に、国内外の第一線で活躍する確率過程・確率解析の研究者を招聘して、数理解析研究所で大規模な研究集会を行う。

それぞれのテーマの研究集会について中堅研究者がその運営責任を担い、若手研究者の参加・講演を推進し次世代研究者が活躍する場とすると共に、女性研究者の協力、参画を促し、当該研究のgender diversityを広げる機会とする。
2024年度
可積分系・数理物理学に関わる代数幾何学の発展

数理物理学の行列模型の数学的定式化である位相的漸化式は、代数多様体や シンプレクティック 多様体のGromov-Witten不変量や種々の不変量の数え上げの背後にある普遍的な漸化式であると期待されている。また、不変量の母関数である分配関数は、KdV方程式やPainlev\'{e}方程式などの可積分系のτ関数を与える事が様々な例で示されている。 これらの事は、Witten-Kontsevichの定理に起源を持つものであり、現在でも様々な方向から活発に研究されているが、近年、量子曲線の理論から可積分系に付随したLax対の構成が行なわれるなどより深い理解が得られつつある。 また、上記の不変量の母関数は摂動パラメータhの形式級数であり、そのBorel総和可能性やStokes構造などのリサージェンス構造について近年活発な研究が行なわれ、特に最新の研究では、BPS構造との関係性が見出されている。

Calabi-Yau多様体のミラー対称性の数学的理解においても、Gromov-Witten不変量から定義される量子コホモロジー理論や導来圏に基づくDonaldson-Thomas不変量、Gopakumar-Vafa不変量の定義、および位相的弦理論の厳密解などにおいて多くの進展が見られる。特に、近年、高次種数のGromov-Witten不変量を計算する構成的な理論が出来つつあり、Calabi-Yau多様体の変形空間の幾何学に由来する正則アノマリー方程式との関係が見えてきている。一方で、位相的弦理論の(全種数を足し上げた)非摂動解が求められ漸近展開の理論と共に研究が進み、ここにおいても正則アノマリー方程式が随所に見え隠れしている。この2つの異なった分野においてミラー対称性と位相的弦理論に関わる数学を深く理解出来る可能性が見えてきている。例えば、分配関数が満たすべき正則アノマリー方程式は、位相的弦理論の分配関数が満たす漸化式として広く認知されているが、漸化式だけでは統制できない正則(有理)関数を決める問題があり、解の一般的な構成は位相的弦理論における未解決問題となっている。近年、5次超曲面などの限られたCalabi-Yau多様体についてGromov-Witten不変量の構成的な理解が進み、正則アノマリー方程式の解を不変量の視点から捉えられるようになってきている。また、位相的弦理論の非摂動解が求められる例が見つかり、その場合の解の解析を通して正則アノマリー方程式の解の非摂動的性質について理解が進み、Calabi-Yau多様体のDT不変量に現れる壁越え現象との関係が示唆されている。これらの発展を融合することから新しい発展への手掛かりが期待される。

また、近年、一般種数の代数曲線の放物接続や放物Higgs束のモジュライ空間の代数幾何的構成が進み、点付き代数曲線のモジュライ空間や接続の局所指数をパラメータ空間とした相対的なモジュライ空間のファミリーが代数多様体として構成された。接続に対してそのモノドロミー表現やStokes現象を対応させる一般化されたRiemann-Hilbert対応が解析的写像として全射・固有的双有理写像である事の証明が完成し、放物接続の一般化された意味でのモノドロミー保存変形が対応するモジュライ空間の族上に定義する力学系が幾何学的Painlev\'{e}性を持つことの厳密な証明が得られている。 これらのモジュライ空間が自然な代数的シンプレクティック構造をもつ事、また見かけの特異点によってそのシンプレクティック構造に関するDarboux座標を自然に与えられる事の代数幾何学的な証明が得られている。これらの性質から、モノドロミー保存変形から得られる可積分系の相空間や力学系について、代数幾何学的に精密な取り扱いが可能になってきている。 また、Painlevé方程式の解から得られるτ関数の展開を共形場理論から構成する理論や、WKB解析などとの関係についても研究が進んでいる。これらの研究の進展を上記位相的漸化式やミラー対称性の研究の進展と関連させて考察する事は非常に興味深いテーマである。また、離散Painlevé系や非可換Painlevé系に関する研究も進んでおり、それらに関わる対称性の研究が新しい視点をもたらしている。

この研究プロジェクトにおいては、現在進展しつつある上記の研究テーマについて焦点を当てて、関連する多様な分野から研究者を招聘し、最新の研究発表を行なうとともに、理論の相互関係を探求し、可積分系と種々の不変量の分配関数の関係、そしてその背後にある幾何学的枠組みを理解する事を目的にする。
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Research Institute for Mathematical Sciences (RIMS)