過去の訪問滞在型研究リスト

2023年度

1942年に伊藤清によって確率微分方程式の定式化がなされて以来、日本における確率解析の研究は世界の確率論の発展に極めて大きな影響を与えてきた。確率論自体も、偏微分方程式、ポテンシャル論、幾何学など様々な数学や、統計力学、集団生物学、経済学など諸科学との強い相互作用を持ちながら、非常に幅広い研究対象を持った分野として成長を続けている。とりわけ今世紀に入ってからの発展は目覚ましく、その方向性も、統計力学をはじめとする物理学に動機付けを持つモデルの解析を始め、ビッグデータの解析など、応用に直接つながる研究へも凄まじい勢いで拡がっている。他方、確率論の研究テーマの急速な深化・拡大により、個々の研究者は自らの研究分野の周辺の知見を得ることで精一杯となり、より大きな拡がりとして確率論を捉えることが難しくなるという残念な状況も生じている。

本研究は、「確率過程と確率解析」をキーワードとして、以下の3つのテーマを軸にそれぞれの分野から日本発の研究成果を発信し、国際共同研究のさらなる推進をはかることを主な目的とする。異なるテーマの研究者同士が交流を深めることで、広範囲の研究動向を俯瞰し、確率論の研究のさらなる発展を促す。(それぞれのテーマについて、括弧内に記したタイトルの研究集会を企画する。)
i) 確率偏微分方程式と関連する確率過程の解析(確率偏微分方程式と確率解析)
ii) 統計力学に動機付けを持つ確率モデルの解析(大規模相互作用系の確率解析)
iii) ランダム行列を軸とする、組み合わせ確率論、量子情報等の解析(ランダム行列とその応用)
テーマ間の交流を目指すため、2023年9月に、国内外の第一線で活躍する確率過程・確率解析の研究者を招聘して、数理解析研究所で大規模な研究集会を行う。

それぞれのテーマの研究集会について中堅研究者がその運営責任を担い、若手研究者の参加・講演を推進し次世代研究者が活躍する場とすると共に、女性研究者の協力、参画を促し、当該研究のgender diversityを広げる機会とする。
2022年度

現代的な変分法は、直接法、ミニマックス法や峠の補題に代表される臨界点理論、Morse-Conley 理論など多岐に亘る。
これらの理論は、あるエネルギー汎関数の停留点として非線形楕円型方程式の解を求めるといった偏微分方程式論の分野のみならず、リーマン幾何学やシンプレクティック幾何学、数理物理学など広範な数学諸分野と関連して、現在も活発に研究されている。

本プロジェクトは以下の2つの主題に基づいて遂行する:
 (A) 非コンパクト型変分問題に現れる非コンパクト性の探求;
 (B) 変分法的手法の発展方程式への応用。

主題(A)で述べた「非コンパクト型変分問題」とは、考察する問題の近似解の列(最小化列やパレー・スメール列)がアプリオリにはコンパクトとは限らないような変分問題であり、冒頭で述べた分野への応用に於いても重要な問題として現れる。 1980年代に Pierre-Louis Lions 氏により導入された集中コンパクト性原理により、このコンパクト性喪失現象の描像が理解されるようになり、これまでにも非コンパクト型変分問題の解析へ広く用いられている。
主題(A)はこの描像をより精密化し、非コンパクト型変分問題への更なる適用を目指すものである。

一方で、近年では集中コンパクト性原理を解析手段として、非線形放物型方程式・波動方程式・分散型方程式などの非線形発展方程式の解の時間大域挙動の研究も盛んに行われている。
このような応用を代表とする、変分的手法を用いた発展方程式の研究をより発展させることが主題(B)の目的である。

上記の目的を達成するため、長期滞在者として Bernhard Ruf 氏(ミラノ大学)と Luca Martinazzi 氏(ローマ大学ラ・サピエンツァ)を招聘し、連続講義、3つの研究集会を開催する。
特に主題Bについて、同様の主題に基づき開催された2011年のRIMS研究集会「変分問題の展開--発展方程式論における変分的方法--」以降の進展を踏まえ、現状の問題点や未解決問題を洗い出すことを目指した研究集会を企画する。
加えて、若手研究者を主体とした1つのスクールを開催する。これらの研究集会・スクールでは、海外から関連する若手研究者を複数名短期間招聘する。
以上のプロジェクトは、大阪公立大学数学研究所 (OCAMI) と緊密に連携して遂行する。
2022年度

可微分写像の特異点論は、可微分関数や写像の特異点の周りの振る舞いを記述する理論であり、1960 年頃までのトム、モース、ホイットニーの研究を源流とし、1960 年代後半にマザーによって基本的な道具が整備された。その後も発展が続き、今日でも活発に研究されている。また、数学内外の様々な分野に現れる特異的な現象を可微分写像の特異点として捉え、特異点論を用いて詳細に解析する手法により、幾何学を中心に様々な分野に応用されている。特異点論とその応用において基本となるのは特異点の分類である。その際は問題設定に応じた各種の可換環の商環の構造が重要となるが、ある程度以上の分類では調べるべき構造が非常に複雑となることから、手計算では不可能で、よく知られている汎用ソフトウェアだけでは早期に限界を迎える。
近年、計算機の性能が大幅に発達していることに加えて、計算機代数を援用した新しい特異点の分類理論が我が国の研究者たちによって提唱され、上記の限界を大幅に突破して大きく進歩している。また、分類の次に研究されるべき特異点の判定法の発展も著しい。さらに応用面では、トポロジカル絶縁体に現れる行列値ハミルトニアンや連続体力学などへのこれまでになかった新しい類の応用が散見されておりこれらへの応用も急速に発展する可能性がある。近年になって勃興しているこれらの新しい理論は多分野にまたがっており、腰を落ち着けて本格的に勉強する機会が必要である。
この状況を鑑みて、特異点論の最新の成果の発表会とともに、新しい理論の専門家による体系的な理論の講義を行う集会を設ける。
このような集会を数ヶ月使って行い、若手研究者、特異点論を応用したい研究者と特異点論研究者が交流することで、特異点論と特異点論の応用分野を相互発展させ、次世代研究者を育成することが本計画である。
2022 年の 10 月から 12 月にかけてを「特異点論特別月間」と指定し、ブラジル・スペインから 2 名の指導的研究者を招聘して日本の代表的研究者も交えて勉強会と研究集会を断続的に開催する。
また、期間中に日本数学会季期研究所(MSJ-SI2022)「応用特異点論の深化と展開」も行われる。
本計画はこの集会と連携し、それぞれが相補的な集会となる。
2021年度

As a part of applied mathematical studies, biofluid mechanics has gathered significant attention from various research communities such as physical and material sciences, engineering, biology and medicine. In particular, novel computational and theoretical techniques, mathematical models and methods are all required to understand complex motions in biological phenomena. In this research project, though a series of workshops, tutorial seminars and symposia, we enthusiastically explore newly-born research topics in collaboration with researchers with various research backgrounds to expand the horizons of fluid mechanics and applied mathematics, in addition to deepening the traditional research topics, aiming at cultivating national and international networks of related researchers.
2021年度

作用素環論はJohn von Neumannが量子力学の数学的取り扱いを目指して始めた関数解析学の一分野であるが、現在ではエルゴード理論、位相力学系、解析的群論、数理物理学、量子情報理論、非可換幾何、非可換確率論といった様々な分野と関連して幅広く盛んに研究されている。作用素環にはvon Neumann環とC*環の二種類が存在する。作用素環論は可換である関数環ではなく非可換な作用素環を研究対象としているのであるが、このうち測度論的側面を扱うのがvon Neumann環論で、位相的側面を扱うのがC*環論である。
この訪問滞在型研究では、作用素環論全般の研究推進及び若手研究者の育成をはかるための包括的なプログラムを計画している。具体的には解析的群論に関するワークショップ、von Neumann環論関連の研究集会、C*環論関連の研究集会の3つの国際研究集会の他、長期滞在者らによる特別講義及び、若手向けのスクールを用意している。
                    
  • Workshop on von Neumann algebras and related topics (訪問滞在型研究計画)【RIMS共同研究(公開型)】

    部屋:420号室  期間:中止
    代表者:小澤 登高(京都大学数理解析研究所)

  • The Second Australia-China-Japan-Singapore-U.S. Index Theory Conference (訪問滞在型研究計画)【RIMS共同研究(公開型)】

    部屋:420号室  期間:中止
    代表者:河東 泰之(東京大学数理科学研究科)

  • Workshop on C*-algebras and related topics (訪問滞在型研究計画)【RIMS共同研究(公開型)】

    部屋:オンライン  期間:2021-09-27〜2021-09-28
    代表者:小澤 登高(京都大学数理解析研究所)

  • Workshop on free probability and related topics (訪問滞在型研究計画)【RIMS共同研究(公開型)】

    部屋:ハイブリッド  期間:2022-01-13〜2022-01-14
    代表者:Benoit Collins(京都大学理学研究科)

2020年度→2021年度

整数の加法構造(=「足し算」)と乗法構造(=「掛け算」)がどのように絡まり合っているか、その絡まり具合の解明は整数論において最も重要かつ中心的なテーマの一つである。2012年8月、望月新一(=本訪問滞在型研究の提案者・組織委員長)はこの絡まり具合を解明する上において重要な前進となる「宇宙際タイヒミューラー理論」に関する連続論文をプレプリントとして発表し、理論の帰結となる「ABC予想」の証明が世界的な注目を集めた。理論の発表以降の約9年の間に:

・約7年半に及ぶ審査を経て理論に関する連続論文(4篇)は国際数学雑誌PRIMSに掲載された。

・理論に登場する不等式を 数値的に明示的な形で精密化する、5人の著者による共著論文のプレプリントが発表された。

・理論の理解者や習熟者(=理論の学習や関連した研究活動が進んでいる研究者)は多数の関係者の並々ならぬ努力により少しずつ増えている。

・連続論文の著者のみならず、理解者や習熟者によるサーベイ等の解説原稿(=出版済みまたは出版予定が6件、未出版でも公開済みが1件)が多数執筆されている。

・世界各地(=日・英・露・米・中・独・仏等)で理論に関する 講演や小規模なワークショップ・連続講演等は(件数の正確な勘定は困難だが)既に数十件行なわれている。

・理論に関する大規模な研究集会(=1~2週間程度)も、日本国内(=京都・2015年3月、2016年7月)のみならず、中国(=北京・2015年7月)やイギリス(=オックスフォード・2015年12月)においても、(少なくとも)4件開催されており、また主に日英仏の参加者によるオンライン(ズーム)の長期ワークショプ(=2020年9月~2021年4月)も開催されている。

これらの一連の活動により、十数名の研究者から構成される一種の「宇宙際タイヒミューラー理論コミュニティ」が形成されつつあるとも言える。また、組合せ論的遠アーベル幾何等、宇宙際タイヒミューラー理論に関連した考え方に依拠した研究の進展により、グロタンディーク・タイヒミューラー群や有理数体の絶対ガロア群の研究との重要な繋がりも生まれ始めている。

このような状況を踏まえ、「宇宙際タイヒミューラー理論コミュニティ」や、宇宙際タイヒミューラー理論に関連した数学に関心を抱いている研究者に対して、一堂に会し、上述の一連の進展を巡る活発な議論を行なう場を、単発の(=1週間程度の)研究集会では叶わない、月単位の交流が可能な環境の下で実現することが、今回の訪問滞在型研究の趣旨である。
2020年度→2021年度

2000年7月開催の第9回日本数学会国際研究集会「微分幾何学における可積分系」(リンクhttp://www.math.tsukuba.ac.jp/~moriya/iri-j2.html)以来,微分幾何と可積分系に関わる研究が広汎かつ集中的に行われてきた。リーマン面から対称空間への調和写像と可積分系理論をコアとする可積分系に関わる微分幾何学研究の発展は目覚ましい。調和写像に対するDPW(Dorfmeister-Pedit-Wu)法の曲面の幾何解析への応用,制限ウィルモア予想への可積分系アプローチ,極小部分多様体とそのモジュライ空間の特殊幾何,有限次元及び無限次元等径部分多様体論,等質ケーラー幾何に現れるラグランジュ部分多様体のフレアーホモロジー研究,無限可積分系・正則ヒッグス束やミラー対称性による特殊微分幾何研究,離散的な曲面の微分幾何や離散幾何解析研究,また,幾何解析・非線形PDE研究や微分幾何におけるモジュライ空間研究と,微分方程式の対称性に基づいた可積分系の手法の融合,など多くの進展がある。
本研究プロジェクトでは,そのような「微分幾何と可積分系」研究の一層の強化・拡大および若手研究者育成推進し,対称性と安定性・モジュライの数理の新しい研究を拓くことを目指す。Franz Pedit (UMASS Amherst,USA), Chikako Mese(Johns Hopkins U.,USA),Eric Rains (Caltech,USA),Fernando Codá Marques (Princeton,USA),Jaigyoung Choe(KIAS,Korea)などの外国人RIMS客員教授(3カ月)2名および海外の指導的研究者数名の中長期招へいを基軸に,主に,部分多様体と可積分系の幾何学,幾何的PDEと変分問題,調和写像とヒッグス束,ミラー対称性と微分幾何への応用,などの側面から国際ワークショップ,特別レクチャー,共同研究,合宿セミナー等の活動を年度を通じて実施,年度末には大規模国際共同研究集会「微分幾何と可積分系」(MSJ-SI)を開催して,新たな研究成果を大きくアウトプットすることと広く若手研究者の活動を奨励する。また,京都大学数理解析研究所と大阪市立大学数学研究所の間の研究協力協定(2007年締結)は,本プロジェクト推進でも活かされる。
2019年度
 団代数(cluster algebras)は,元々は2000年ごろにFominとZelevinskyによりLie理論に現れる可換代数を「Laurent 現象」の観点から一般化したものとして導入された.現在では,団代数はルート系のある種の拡張理論であり,ささまざな数学の分野に横断的に現れる基盤的な代数的組合せ論的構造と認識され,活発に研究されている.
 この研究計画においては,近年進展著しい団代数の理論と応用に関して,2014年の韓国KIASでのセマンティックプログラム以来の包括的な国際研究集会シリーズ「Cluster Algebras 2019」を2019年6月にRIMSにおいて3週間(スクール1週間、研究会2週間)に渡って開催する.また,Bernard Leclerc氏 (Universitè de Caen),Michael Gekhtman氏 (Notre Dame) の2名をRIMS外国人客員教授として招聘し,2019年5月にRIMSにおいて団代数に関するトピックについてのミニコースを開催する.
2019年度
離散最適化とその周辺
離散最適化は、私たちの経済的および社会的活動において頻出します。
人工知能(AI)、機械学習、およびビッグデータが大きな注目を集めている現在、理論と応用の両方において離散最適化分野の発展は、私たちの社会に大きな影響を与えます。
本プロジェクト研究では、離散最適化に関する理論的研究の推進を目指します。古典的な研究だけでなく、準線形または一定時間最適化アルゴリズムなどのビッグデータに関連する研究にも焦点を当てます。我々は、以下の3つの国際ワークショップを開催する予定です。

1) Hungarian-Japanese Symposium on Discrete Mathematics and Its Applications

2) International Workshop on Innovative Algorithms for Big Data

3) International Workshop on Combinatorial Optimization and Algorithmic Game Theory
過去のプロジェクト研究へ

← BACK TO THE TOP

  • Follow on

Research Institute for Mathematical Sciences (RIMS)