所員 -入江 慶-

名前 入江 慶 (Irie, Kei)
助教
E-Mail iriek (emailアドレスには@kurims.kyoto-u.ac.jp をつけてください)
U R L
研究内容 幾何学の研究
紹 介
 シンプレクティック幾何学(擬正則曲線の手法,特にフレア・ホモロジー)および関連する主題について研究している。 大域シンプレクティック幾何学における記念碑的な結果であるグロモフの圧縮不可能性定理は,擬正則曲線を用いてシンプレクティック 多様体の「二次元的な幅」(シンプレクティック容量)を測ることで示された。 その後ホーファーらは,シンプレクティック容量の研究と,ハミルトン力学系の周期軌道の研究とが密接に関わることを見出した。 この発見は,フレア,ホーファー,ヴィテルボ等によるシンプレクティック・ホモロジー(定量的なフレア・ホモロジー)の理論へと発展した。 これらの仕事を踏まえて,私は以下のような研究を行っている。
 ハミルトン力学系の周期軌道に関する結果で特に重要なものとして,いわゆる閉補題の$C^\infty$級版を 三次元閉接触多様体上のレーブ流に対して証明した[6]が挙げられる。 閉補題を$C^1$級より強い位相で証明することは力学系における重要問題であり, 特に(自由度$2$以上の)一般の自励ハミルトン力学系においては$C^\infty$級の閉補題が成立しないという結果(エルマン)と比較すると[6]の結果は驚くべきものである。 証明には,三次元閉接触多様体に対して定義される一種のフレア・ホモロジーである埋込接触ホモロジー(ECH)の理論(ハッチングス・タウベス), 特にECHスペクトル不変量が接触多様体の体積を復元するという結果(ハッチングス・クリストファー-ガーディナー・ラモス)を用いる。 また[6]の結果を応用して,[7]においては閉曲面のハミルトン微分同相写像に対しても$C^\infty$級の閉補題を証明した。 これは,球面の場合に限っても長年未解決であった問題である。
 一方で,いわゆるストリング・トポロジーの基礎付けにも取り組んでいる。 閉多様体の余接束のフレア・ホモロジーと,多様体上の自由ループ空間のホモロジーが同形であるのは(ヴィテルボ等による)基本的な事実であるが, このときフレア・ホモロジー上の自然な積構造の自由ループ空間側の対応物は,ストリング・トポロジーで調べられているものに一致する。 フレア・ホモロジー上の代数構造の研究においては高次の積や余積(マッセイ積の類)が自然に現れるが,これらを記述するには ストリング・トポロジー側の代数構造を鎖複体のレベルで実現する必要がある。 しかし(横断正則性をはじめとする)諸々の技術的な困難のためこの方向の研究はあまり進んでいない。 [8]においてド・ラム鎖という道具を用いて多様体の自由ループ空間の新しい鎖複体モデルを提案し, チャス・サリバンにより発見されたホモロジー上のBV(バタリン・ヴィルコヴィスキー)構造を鎖複体レベルで実現した。 BV構造が対象とするのは出力が一つの演算だけであるが, [8]の手法を基に複数の出力を持つ演算や$S^1$同変ホモロジー上の演算を扱う枠組みを作る研究を進めている。
 昨年度は主に,[8]の手法と倉西構造の理論(深谷・オー・太田・小野による)をあわせて, ラグランジュ部分多様体に境界を持つ擬正則円盤のモジュライ空間の仮想基本鎖から(鎖複体レベル)ループ括弧積のモーラー・カルタン元を構成する研究を行った(論文準備中)。 この研究は,ラグランジュ部分多様体の分類問題に顕著な応用を持つ。
 その他の研究として,シンプレクティック幾何の手法(特に,シンプレクティック・ホモロジーを用いて定義される容量)を応用して 「短い」周期ビリヤード軌道の存在を証明した [1]とそれに関連する [2],[4],[5]や, シンプレクティック・ホモロジーの積構造を利用して (ハミルトン力学系の立場からは)最も重要なシンプレクティック容量のひとつである ホーファー・ゼンダー容量の評価を与えた[3]などがある。
  1. Symplectic capacity and short periodic billiard trajectory, Math. Z. 272, 1291--1320, 2012.
  2. Displacement energy of unit disk cotangent bundles, Math. Z. 276, 829--857, 2014.
  3. Hofer-Zehnder capacity of unit disk cotangent bundles and the loop product, J. Eur. Math. Soc, (JEMS) 16, 2477--2497, 2014.
  4. Symplectic homology of disk cotangent bundles of domains in Euclidean space, J. Symplectic Geom, 12, 511--552, 2014.
  5. Periodic billiard trajectories and Morse theory on loop spaces, Comment. Math. Helv. 90, 225--254, 2015.
  6. Dense existence of periodic Reeb orbits and ECH spectral invariants, J. Mod. Dyn. 9, 357--363, 2015.
  7. A $C^\infty$ closing lemma for Hamiltonian diffeomorphisms of closed surfaces, Geom. Funct. Anal. 26, 1245--1254, 2016. (with M. Asaoka)
  8. A chain level Batalin-Vilkovisky structure in string topology via de Rham chains, Int. Math. Res. Notices. doi: 10.1093/imrn/rnx023