令和6年度 第45回数学入門公開講座
令和6年7月29日-8月1日(第45回) 演題及び講師
大学で習う幾何学の基本的な話に Morse 理論というものがあります。これは多様体の性質を、その上の函 数を用いて調べる理論です。これは基本的にはどのような関数を用いても同じ答えを出しますが、これを逆 に利用して、各関数に対してスペクトル不変量とよばれる値を紐づけることができます。シンプレクティッ ク幾何学等で用いられる Floer 理論は Morse 理論を手本としてつくられた理論であり、これに対するスペク トル不変量が、幾何学的性質を導きだすことに応用されています。このあたりのことについて、紹介する予 定です。
遠アーベル幾何学では(体に対するガロア群のような)構造の対称性のなす群が元の構造の情報をどの程
度保持しているかについて考察します。この対称性のなす群が(高度に)非可換/非アーベル的な設定を扱
うため、
「遠アーベル」と名付けられています。本講義では、体構造がその絶対ガロア群の純群論的構造から
どの程度復元されるかという遠アーベル幾何学における基本的な問題を取り上げます。体の絶対ガロア群の
ような基本的な概念を説明した後、数論的に興味深いいくつかの設定でどのようなことが知られているかに
ついて解説する予定です。
代数幾何では特異点が重要な働きをしますが、この講演では、シンプレクティック特異点とよばれる対象 について紹介します。シンプレクティック特異点は、代数幾何や幾何学的表現論の様々な場面で登場します。 例えば、複素正方行列で何回か掛けると 0 になるようなもの全体を考えるとシンプレクティック特異点をもっ た代数多様体になります。また、トーリック超ケーラー多様体とよばれる代数多様体もこうした特異点を持 ちます。具体例をゆっくりと説明しながら、シンプレクティック特異点に関わるいくつかの話題にアプロー チしていく予定です。
◇特別講演◇
C* 環を用いたデータ解析
NTT ネットワークサービスシステム研究所特別研究員・橋本 悠香
C* 環は、複素数全体の集合を自然に拡張したもので、これまで複素数として考えられていた概念を関数や 作用素へ拡張することを可能とします。本講演では、C* 環のデータ解析への応用について述べます。近年、 データやそれを解析するためのモデルは複雑化しており、高精度な解析を行うためには、より多くの情報を データから抽出するための枠組みが必要となっています。そこで、C* 環を用いて既存のデータ解析手法を拡 張し、複雑なデータやモデルを解析することについて解説します。C* 環を用いた手法の理論的側面について も触れ、どこに難しさがあるのかについても述べます。
(講義ノート)