河合 隆裕

名前 河合 隆裕 (Kawai, Takahiro)
名誉教授
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U R L
研究内容 特異摂動の代数解析学
紹 介
佐藤・柏原両氏と協力して構築した超局所解析学([1])及び極大過剰決定系の理論([2])は解析学に新しい方法論を提供し, 現在も種々の分野で有効に用いられている。 (例えば[5], [6]等参照。)併乍私の現在の最大関心事は,超局所解析学の構築の際切捨てた物でしかも解析的に意味ある対象の研究を如何に行うか, と云う点にある。具体的には,特異摂動の代数解析学,或いは完全WKB解析, が興味の中心である。([3]) これはその基礎付けに於て複素領域でのFourier解析と関連し(所謂 Borel和の概念の使用), 竹井・青木両氏との共同研究([4])が如実に示しているように, 超局所解析学と同根にして,しかも相互補完的である。 完全WKB解析と超局所解析学の相互補完性の故に,完全WKB解析は微分方程式の大域的解析に極めて有用である。 その最も顕著な例として,例えば2階Fuchs型方程式のモノドロミー構造のWKB解に拠る具体的記述([3])を挙げることが出来よう。 又,同時に完全WKB解析の理論の進展に伴い, 完全WKB解析の理論構成そのものに超局所解析的手法が有効に用いられる, と云う事態も現れて来ている。 例えば高階常微分作用素のStokes幾何学の記述に不可欠な仮想的変り点([9], [10]参照)の定義には,当該作用素のBorel変換の陪特性曲線が本質的な役割を果たしている。 又,無限個のphaseをそのWKB解が許容する作用素(WKB型(超局所)微分作用素)の構造論([5], [6])には超局所微分作用素に対する除法の定理([1])(の精密化)が基本的であること, さらに,そのような作用素のWKB解の構成には作用素の量子化接触変換が用いられていること等もこの2分野間の興味深い相互作用の好例と言えよう。 (尚,''WKB型超局所微分作用素の完全WKB解析''と云う主題は不均一プラズマ中の波動現象の解析に現われる積分作用素のWKB解析(Berk-Book, Phys. Fluids, 12 (1969), 649-661)に示唆された物である。)このように超局所解析学と完全WKB解析が両々相俟って有効な働きをする分野として現在攻略中の物は''高階Painlev\'e方程式の構造論”である。 これは通常の(2階)Painlev\'e方程式の任意の2--パラメタ解が局所的かつ形式的には適当にパラメタを選んだI型Painlev\'e方程式の解に変換される,と云う, 竹井氏との共同研究で得られた結果([3])の拡張版を,近時可積分系との関連で次々発見されつつある(多分Painlev\'e方程式的な性質を持つと期待されている)多くの高階Painlev\'e方程式(野海・山田方程式,下村方程式(=PI階層), PII階層,PIV階層,…)の解に対しても見出そうと云う試みである。 ([8])これ迄に得られた結果は高階Painlev\'e方程式の1型変り点の近くでの物であるが,本質的に高階特有の状況を扱うことになるのは2型変り点の近傍, あるいはさらに変わり点から遠く離れた点に於てであろうと予想している。 そのような点での解析に先立ち,現時点ではまず幾何学的状況を明らかにすべく本多尚文(北海道大学)・竹井両氏と協力して野海・山田方程式を対象に議論を進めている。 現在進展中の議論がうまく行けば,野海・山田方程式に付随する線型方程式のStokes幾何学で観察されるあるグラフ構造によって定まる函数がその線型方程式の仮想的変り点の決定に有用な役割を果たすと共に野海・山田方程式の解のインスタントン展開の相函数となることを通じて野海・山田方程式に関する解の接続公式に関わってくると予想している。 ([9],[10]) 当面,数理解析系院生であった西川享宏君,佐々木俊介君が計算機実験により見出した西川現象([7]参照)及びnapping virtual turning pointsの出現と云うStokes幾何学に於る面白い現象を統一的に理解することに力を集中したいと考えている。 一つには,そのような研究は多分野海・山田方程式の理解に役立つのみならず, 一般の高階線型常微分作用素のStokes幾何学を記述するアルゴリズムを求めたい, と云う年来の課題([3])に答を与えることにもつながるだろうと期待するからでもある。

[1] Microfunctions and pseudo-differential equations, Lect. Notes in Math., 287, Springer, 1973, pp.265-529. (with M. Sato and M. Kashiwara)
[2] On holonomic systems of micro-differential equations, III, Publ. RIMS, Kyoto Univ., 17 (1981), 813-979. (with M. Kashiwara)
[3] Algebraic Analysis of Singular Perturbation Theory, Amer. Math. Soc., 2005 (with Y. Takei; 日本語版 (岩波書店,1998)の英訳)
[4] The exact steepest descent method --- A new steepest descent method based on the exact WKB analysis, Adv. Stud. Pure Math., 42 (2004), 45-61. (with T. Aoki and Y. Takei)
[5] On the exact WKB analysis of operators admitting infinitely many phases, Adv. in Math., 181 (2004), 165--189. (with T. Aoki, T. Koike and Y. Takei)
[6] On the exact WKB analysis of microdifferential operators of WKB type, Ann. Inst. Fourier, 54 (2004), 1393-1421. (with T. Aoki, T. Koike and Y. Takei)
[7] On the Stokes geometry of higher order Painlev\'e equations, Ast\'erisque, 297 (2004), 117-166. (with T. Koike, Y. Nishikawa and Y. Takei)
[8] WKB analysis of higher order Painlev\'e equations with a large parameter --- Local reduction of 0-parameter solutions for Painlev\'e hierarchies $(P_{J})(J=\mathrm{I}, \mathrm{II}-1$ or $\mathrm{II}-2)$, Adv. in Math., in press.
[9] Virtual turning points and bifurcation of Stokes curves for higher order ordinary differential equations, J. Phys., A38 (2005), 3317-3336 (with T. Aoki, S. Sasaki, A. Shudo and Y. Takei)
[10] Virtual turning points --- a gift of microlocal analysis to the exact WKB analysis, RIMS Preprint 1533, 2006. (with T. Aoki, N. Honda, T. Koike, Y. Nishikawa, S. Sasaki, A. Shudo and Y. Takei)