所員 -熊谷 隆-

名前 熊谷 隆 (Kumagai, Takashi)
教授
E-Mail kumagai (emailアドレスには@kurims.kyoto-u.ac.jp をつけてください)
研究内容 確率論
紹 介
 複雑な系の上の物理現象の解明を目指して,系の上の確率過程と対応する 作用素について研究を進めている。典型例であるフラクタルに関しては, 熱核の精密な評価,大偏差原理の研究を行い,対応する二次形式の定める 関数空間の理論を構築するなど,フラクタル上の確率過程論・調和解析学の 基礎を固める研究を行ってきた。また,当該分野の重要な未解決問題の一つ であったシェルピンスキーカーペット上のブラウン運動の一意性を証明した[7]。
 フラクタル上の拡散過程は,劣拡散的である,すなわちユークリッド空間の ブラウン運動に比べて,拡散のオーダーが小さい(拡散が遅い)。では, 確率過程のこのような性質は摂動安定性を持つであろうか?熱核が上下からガウス型 評価を持つ拡散過程については,安定性の問題は古くから研究され,対応する作用素 に多少の摂動を加えても大域的な挙動に大きな変化が現れないことが知られている。 私は,一般の測度つき距離空間において,熱核が劣ガウス型の評価を持つことと, ある種の放物型ハルナック不等式が成り立つことが同値であり,さらにいくつかの 関数不等式と同値であることを示した[1,2]。これは,劣ガウス型熱核評価の安定性 を意味する。さらに,このような評価が空間のquasi-isometricな変形で保たれる という安定性の理論を構築し,この理論を発展させることにより,相転移を持つ確率 モデルの臨界確率における熱伝導の研究を推し進めている[4,6]。その成果の一つ として,統計力学の基礎モデルであるパーコレーションクラスターの,臨界確率に おける熱伝導についての数理物理学者の予想(アレキサンダー・オーバッハ予想)を, いくつかの具体例で肯定的に解決した。最近は,これらの手法を有限グラフの列の 上のマルコフ連鎖に応用し,混合時間の評価等を進めている[10]。
 複雑な系の上の確率過程の研究を通じて,非対称拡散過程や飛躍型確率過程論に 新たな方向性を与える研究も行っている。離散で非対称なマルコフ連鎖の自然なクラスにおいて, 熱核がガウス型の評価を持つことを示し,さらにそのスケール極限が非対称な拡散過程に 収束するための十分条件を解析した[11]。また,ハルナック不等式や 熱核評価の研究を,飛躍型確率過程にも発展させている[3,5,8,9]。飛躍型確率過程の 調和解析では,従来の解析学の手法が適用できない状況が多く,熱核評価に関する 研究は限定的であった。上記研究では,確率論的手法と実解析学的手法を融合 することによりこれらの困難を乗り越え,安定過程型確率過程の熱核の精密な 評価を行い,その一般化を行っている。
  1. (With M.T. Barlow and T. Coulhon) Characterization of sub-Gaussian heat kernel estimates on strongly recurrent graphs, Comm. Pure Appl. Math. 58 (2005), 1642--1677.
  2. (With M.T. Barlow and R.F. Bass) Stability of parabolic Harnack inequalities on metric measure spaces, J. Math. Soc. Japan 58 (2006), 485--519.
  3. (With R.F. Bass) Symmetric Markov chains on Zd with unbounded range, Trans. Amer. Math. Soc. 360 (2008), 2041--2075.
  4. (With M.T. Barlow, A.A. Járai, and G. Slade) Random walk on the incipient infinite cluster for oriented percolation in high dimensions, Comm. Math. Phys. 278 (2008), 385--431.
  5. (With M.T. Barlow and A. Grigor'yan) Heat kernel upper bounds for jump processes and the first exit time, J. Reine Angew. Math. 626 (2009), 135--157.
  6. (With B.M. Hambly) Diffusion on the scaling limit of the critical percolation cluster in the diamond hierarchical lattice, Comm. Math. Phys. 295 (2010), 29--69.
  7. (With M.T. Barlow, R.F. Bass and A. Teplyaev) Uniqueness of Brownian motion on Sierpinski carpets, J. European Math. Soc. 12 (2010), 655--701.
  8. (With Z.-Q. Chen) A priori Hölder estimate, parabolic Harnack principle and heat kernel estimates for diffusions with jumps, Rev. Mat. Iberoamericana 26 (2010), 551--589.
  9. (With Z.-Q. Chen and P. Kim) Global heat kernel estimates for symmetric jump processes, Trans. Amer. Math. Soc., 363 (2011), 5021--5055.
  10. (With D.A. Croydon and B.M. Hambly) Convergence of mixing times for sequences of random walks on finite graphs, Electron. J. Probab., 17 (2012), 1--32.
  11. (With J.-D. Deuschel) Markov chain approximations to non-symmetric diffusions with bounded coefficients, Comm. Pure Appl. Math. 66 (2013), 821--866.
[B] 確率論, 共立出版, 2003.
[B1]Random Walks on Disordered Media and their Scaling Limits. Lect. Notes in Math. 2101, École d'Été de Probabilités de Saint-Flour XL--2010. Springer, New York, (2014).