所員 -望月 新一-

名前 望月 新一 (Mochizuki, Shinichi)
教授
E-Mail motizuki (emailアドレスには@kurims.kyoto-u.ac.jp をつけてください)
研究内容 数論幾何の研究
紹 介
 数体や局所体あるいは有限体の上で定義された楕円曲線は数論幾何の中で も中心的な研究対象の一つであり,その研究は20世紀初頭まで遡る。特にそ のような楕円曲線の等分点へのガロア群の作用や楕円曲線の上で定義される テータ関数は楕円曲線の数論幾何の研究では重要なテーマである。一方, 種数が2以上の代数曲線をはじめとする双曲的な代数曲線の数論幾何は比較的 最近まで余り熱心に研究されてこなかった。双曲的代数曲線の場合,非アー ベルな基本群への基礎体の絶対ガロア群の外作用は楕円曲線の等分点への ガロア群の作用の「双曲的な類似物」と見ることができ,双曲的代数曲線の 数論幾何の自然な出発点となるが,その研究は1980年代後半の伊原康隆の 仕事以降,日本の数論幾何において,取り分け数理解析研究所を中心に重要な 研究テーマの一つとなった。1990年代半ばに得られた遠アーベル幾何の様々な 結果もこの文脈の中で興ったものである。また1990年代の後半以降,一点抜き 楕円曲線の上で定義されたテータ関数を従来の「アーベル系」の視点とは決定 的に異なる「遠アーベル的」な視点で扱うホッジ・アラケロフ理論の研究も 大きく進展している。
 1990年代の望月の研究の殆どは,
   (a) p進タイヒミューラー理論 ([3])
   (b) p進遠アーベル幾何 ([1], [2])
   (c) 楕円曲線のホッジ・アラケロフ理論 ([4])
という三つの大きなテーマに分類することができるが,2000年以降の研究では,
   (d) 絶対p進遠アーベル幾何 ([5], [7])と
   (e) 組合せ論的遠アーベル幾何 ([9])
を中心に,上の三つのテーマの「相互作用」や「融合」に関心の対象が移った。 特に有限体上の双曲的曲線と数体の間の古典的な類似の延長線上にあるもの として,(a)にヒントを得た形で,((b)の延長線上にある)(d)と(e)を用いて, (c)をスキーム論の枠組みに収まらない幾何([6], [8])の下で再定式化するこ とにより,「宇宙際タイヒミューラー理論」(=「数体に対する一種 の数論的なタイヒミューラー理論」)を構築することが大きな目標となった。
 「宇宙際タイヒミューラー理論」に関する4篇からなる連続論文は2012年8月, プレプリントとして公開した(理論の要約については[10]を参照)。4篇 で500頁にも上る連続論文の内容を一言で総括すると,数体上の楕円曲線に 付随するテータ関数の値やその周辺にある数論的次数の理論を,絶対遠アーベ ル幾何等を用いて(比較的軽微な不定性を除いて)「異なる環論」にも 通用するような形で記述することによってディオファントス幾何的な不等式を 帰結するという内容である。
 一方,星裕一郎講師と共同で「節点非退化外部表現」の理論を構築し,長年未 解決問題であった基礎体の絶対ガロア群の外部表現の単射性に関する定理を証 明したり([9]),またその延長線上にある「組合せ論的遠アーベル幾何」に関 する,4〜5篇からなる連続共著論文の執筆に2010年度から取り組んでいる。 第一論文は2010年度に完成し既に出版されており,第二と第三論文はプレ プリントとして公開済みである。2010年度から2011年度に掛けて,特に双曲的 曲線に付随する配置空間の副有限基本群の惰性群の群論的特徴付けの理論や アンドレ氏による「緩和基本群」の理論への応用において大きな進展があり, それによって得られた結果は第二および第三論文に収録済みである。  第四論文では、組合せ論的セクション予想や理論の副有限版と離散版の間の 比較が主なテーマとなっている。
  1. S. Mochizuki, A version of the Grothendieck conjecture for p-adic local fields, The International Journal of Math. 8 (1997), pp. 499-506.
  2. S. Mochizuki, The local pro-p anabelian geometry of curves, Invent. Math. 138 (1999), pp. 319-423.
  3. S. Mochizuki, An introduction to p-adic Teichmüller theory, Cohomologies p-adiques et applications arithmétiques I, Astérisque 278 (2002), pp. 1-49.
  4. S. Mochizuki, A survey of the Hodge-Arakelov theory of elliptic curves I, Arithmetic Fundamental Groups and Noncommutative Algebra, Proceedings of Symposia in Pure Mathematics 70, American Mathematical Society (2002), pp. 533-569.
  5. S. Mochizuki, The absolute anabelian geometry of canonical curves, Kazuya Kato's fiftieth birthday, Doc. Math. 2003, Extra Vol., pp. 609-640.
  6. S. Mochizuki, Semi-graphs of anabelioids, Publ. Res. Inst. Math. Sci. 42 (2006), pp. 221-322.
  7. S. Mochizuki, Absolute anabelian cuspidalizations of proper hyperbolic curves, J. Math. Kyoto Univ. 47 (2007), pp. 451-539.
  8. S. Mochizuki, The Étale Theta Function and its Frobenioid-theoretic Manifestations, Publ. Res. Inst. Math. Sci. 45 (2009), pp. 227-349.
  9. Y. Hoshi, S. Mochizuki, On the Combinatorial Anabelian Geometry of Nodally Nondegenerate Outer Representations, Hiroshima Math. J. 41 (2011), pp. 275-342.
  10. S. Mochizuki, A Panoramic Overview of Inter-universal Teichmüuller Theory, RIMS Preprint 1774 (February 2013), to appear in RIMS Kôkyûroku Bessatsu.