所員 -望月 拓郎-

名前 望月 拓郎 (Mochizuki, Takuro)
教授
E-Mail takuro (emailアドレスには@kurims.kyoto-u.ac.jp をつけてください)
U R L
研究内容 微分幾何、代数幾何の研究
紹 介
 1980年代末,K. CorletteとC. Simpsonは, 射影多様体上の平坦束,ヒッグス束, 調和バンドルの三位一体を見出し, これをもとにしてトポロジー・ 代数幾何・微分幾何にまたがる巨大な仕事をしました。 彼等の仕事の発展として, 私は特異性を持つ調和バンドルについて 研究しています。 全く一般の特異性を考えるのは生産的ではないので, ``有理型''に相当する``ワイルド''という 条件を課したものを研究しています。 この特異性を持つ調和バンドルの研究は, 代数幾何学・大域解析学・ 代数解析学・トポロジーなどが交錯する地点で, 非常に興味深い展開を見せています。
 より制限された``従順''な特異性を持つものに関しては, [2], [3]--[6]において満足すべき結果を得られていました。 例えば, [3], [6]では, 従順調和バンドルと 安定パラボリックヒッグス束や安定パラボリック平坦束の 間のKobayashi-Hitchin対応を確立することで, Corlette-Simpsonの三位一体を 確定特異性を許す場合にまで拡張しました。 これより, 準射影多様体上の任意の平坦ベクトル束を 偏極付Hodge構造の変動に変形できることがわかり, 応用として例えば $\Gamma$を任意の群,nを3以上の整数とすると, ``$SL(n,{\mathbb Z})\times \Gamma$ $(n\geq 3)$は 準射影多様体の基本群にならない'' ことなどが示されます。 また[2], [4]では, 従順調和バンドルは無限遠において 偏極付Hodge構造の変動と(ある意味で) ほぼ同様の振舞をする,ということを 示しました。 これをもとにして,射影多様体上の 偏極付正則純ツイスター加群と 半単純ホロノミックD-加群の対応を確立して, 半単純正則ホロノミックD-加群(偏屈層)に関する 強Lefschetz定理の証明を得ました。
 ここ数年は, これらの結果をワイルドの場合に拡張する, という仕事に取り組んできました。 従順とワイルド,あるいは確定特異点と 不確定特異点の間の大きな違いの一つは 変わり目点の存在でしたが, 代数曲面上の有理型平坦束の変わり目点の 解消の存在定理[7]を示すことで, この方面の突破口が開かれました。 そして, 満足できる成果をまとめたモノグラフ [10]が出版されました。
 現在は,発展の後の小康状態ですが, はっきりさせておくべき課題はまだだいぶ残っているので, 少しずつ処理していく予定です。 これまでに, TERP構造の漸近挙動の研究 [9] ホロノミックD-加群のベッチ構造についての研究 ``Holonomic D-module with Betti structure'' arXiv:1001.2336, 混合ツイスターD-加群の研究 ``Mixed twistor D-module'' arXiv:1104.3366 などを行なってきました。 今後の当面の目標としては, 調和バンドルの研究で得られた知見を モジュライ理論に応用することが挙げられます。 さらに,非可換代数幾何学のHodge理論, 正標数多様体上の$\ell$-進層の理論との類似, 非正則な場合のRiemann-Hilbert対応, 超局所解析との関連など, 未発達な課題にも取り組んでいきたいと思います。 またインスタントンなどのように調和バンドルと関連するものに 研究の幅を広げていきたいと考えています。
 これとは別に,最近は離れてしまっていますが, 射影曲面上の半安定層などのモジュライ, およびそこから得られる不変量にも興味を 持っています。 80年代から90年代初めにかけて,Donaldson不変量が 盛んに研究されました。 その頃は主としてトポロジーへの応用が主目的でしたが, Seiberg-Witten不変量の登場以来, Seiberg-Witten不変量との関係(Witten予想)や 計量への依存(壁越え公式)への興味から 研究されています。 私は[8]において, 一般階数の半安定層のモジュライや \delta-安定Bradlow対のモジュライを用いて Donaldson不変量の代数幾何的類似物を構成しました。 このようにして得られる不変量達の間の関係を調べることは 興味深い問題であり, 例えば偏極への依存を階数の低い半安定層のモジュライ達の 直積上の積分の和としてあらわす 弱壁越え公式が得られています。 特に階数2の場合にはHilbert schemeの直積上の積分の和として 表す式になり,曲面のコホモロジー環と特性類のみに依存する 普遍的な関係の存在を意味します。 L. Göttsche, H. Nakajima, K. Yoshiokaの仕事 とあわせると射影曲面に関する壁越え公式が得られます。 類似の話を別のモジュライの場合に展開すること, あるいは,上の話をJ. LurieやB. Toenによる 導来スタックの理論を使ってやり直してみることなどを 当面の課題としていますが, 背後に隠れている(?)幾何学構造をつかまえることが, 遠い目標です。
  1. The Gromov-Witten class and a perturbation theory in algebraic geometry, Amer. J. Math., 123 (2001), 343--381
  2. Asymptotic behaviour of tame nilpotent harmonic bundles with trivial parabolic structure, J. Diff. Geometry, 62, (2002), 351--559
  3. Kobayashi-Hitchin correspondence for tame harmonic bundles and an application, Astérisque, 309, (2006)
  4. Asymptotic behaviour of tame harmonic bundles and an application to pure twistor D-modules I, Mem. AMS., 185, no. 869, (2007)
  5. Asymptotic behaviour of tame harmonic bundles and an application to pure twistor D-modules II, Mem. AMS., 185, no. 870, (2007)
  6. Kobayashi-Hitchin correspondence for tame harmonic bundles II, Geometry & Topology, 13, (2009), 359--455
  7. Good formal structure for meromorphic flat connections on smooth projective surfaces, IN `Algebraic Analysis and Around', Advanced Studies in Pure Mathematics 54, (2009), 223--253
  8. Donaldson type invariants for algebraic surfaces, Springer-Verlag, Lecture Notes in Mathematics 1972, Springer, 2009
  9. Asymptotic behavior of variation of pure polarized TERP structure. Publ. Res. Inst. Math. Sci. 47 (2011), no. 2, 419--534
  10. Wild harmonic bundles and wild pure twistor $D$-modules, Astérisque 340, 2011