森 重文
代数多様体を双有理的に分類する事は代数幾何で基本的な問題の一つである。
曲線の場合はリーマンにより曲面の場合はエンリケスや小平邦彦によりなされ
たが3次元の場合にはリード,川又,ベンベニステ,ショクロフ,コラール,
宮岡等の結果を基に, [5]により粗い意味で完成された。
この問題の難しさは代数多様体を双有理同値な他の多様体(モデル)で取り替
える事を許すことに起因する。なぜなら,この操作(双有理幾何)を理解する
必要があるが,双有理幾何は3次元以上だと非常に複雑になるからである。結
局, 多くの試行的研究の後に, マイルドな(端末的)特異点しか持たず標準因
子がネフであるという, 「極小モデル」の定義が確立された。
3次元では,極小モデルに,モデルを取り替えながら到達するための道しるべ
(端射線)が必要であり,モデルに特異点を許す必要もある。[3]により導入
され, 川又等により発展させられた端射線の理論とリードにより導入された特
異点のクラスが,3次元分類論の基礎になっている。これにより,3次元の場
合は極小モデルやQファノ多様体等を研究する事に分類論が帰着された。この
帰着の段階で重要な役割を果たすのがフリップと呼ばれる3次元で初めて現れ
る双有理変換である。
又,境界付き(つまり, ログ)3次元多様体にも,ショクロフ,川又,コラー
ル等により,フリップが拡張され,コルティ等によりサルキソフ・プログラム
が完成され, 3次元Qファノ多様体やQコニック束等の詳細な研究の基礎がで
きた。任意次元でも,ヘイコン・マッカーナン・ビルカー・カシーニ(2006)
は, ログ極小モデルの存在を一般型などの緩い条件の下に証明し,[8]を用い
て任意の代数多様体の標準環が有限生成であることを確立した。
3次元にもどると, 端射線の収縮射の分類も進展してきた。この方向では,
[2,3]を原型とする一連の[5,7,9]があり、さらにその後も分類が進められている。
それらに基づく最近の[10]はイス
コフスキー予想「3次元Qコニック束の底曲面は高々デュバル特異点しか持た
ない」を証明した。同予想は, イスコフスキーによる, 3次元Qコニック束の有
理性に関する研究の中で使われたものである。
また[10]の手法を改良し,3次元Qコニック束や,曲面を曲線につぶす
因子収縮射の分類を進めている。
将来的には, 3次元多様体の有
理性判定法など幾何学的問題へのさらなる応用も望まれる。
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- A numerical criterion of uniruledness, Ann. of Math., 124 (1986), 65-69. (with Y.Miyaoka)
- Flip theorem and the existence of minimal models for 3-folds, J. AMS, 1 (1988), 117-253.
- Rationally connected varieties, J. Alg. Geom., 1 (1992), 429-448. (with J.Kollar and Y.Miyaoka)
- Classification of three dimensional flips, J. AMS, 5 (1992), 533-703, (with J.Kollar); Erratum, 20 (2007) 269-271.
- A canonical bundle formula, J. Diff. Geom., 56 (2000), 167-188. (with O.Fujino)
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- Threefold Extremal Contractions of Types (IC) and (IIB), Proceedings of the Edinburgh Mathematical Society (Series 2), 57, Issue 01, (2014) 231--252. (with Y. Prokhorov)