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全学共通科目講義(1回生~4回生対象)

 

現代の数学と数理解析
―― 基礎概念とその諸科学への広がり
授業のテーマと目的:
数学が発展してきた過程では、自然科学、 社会科学などの種々の学問分野で提起される問題を解決するために、 既存の数学の枠組みにとらわれない、 新しい数理科学的な方法や理論が導入されてきた。 また、逆に、そのような新しい流れが、 数学の核心的な理論へと発展した例も数知れず存在する。 このような数学と数理解析の展開の諸相について、第一線の研究者が、 自身の研究を踏まえた入門的・解説的な講義を行う。

数学・数理解析の研究の面白さ・深さを、 感性豊かな学生諸君に味わってもらうことを意図して講義し、 原則として予備知識は仮定しない。

第6回
日時: 2008年5月16日(金)
16:30-18:00
場所: 数理解析研究所 420号室
講師: 小嶋 泉 准教授
題目: 量子的ミクロと古典的マクロの双対性
要約:
この講義の目標は,量子的ミクロと古典的マクロの間の相互関係のエッセンスを,なる べく初等的な数学の道具を用いて明らかにすることである。量子力学を勉強すると,ミク ロ粒子に固有の粒子・波動の「二重性」と「不確定性原理」のため,量子/古典がいかに 異なるか?ということが繰り返し強調される。その正しい理解が量子論を理解する上での カギになることは言を俟たない。そうして理論の中に入り込んでしまえば古典物理学の記 述以上に美しい世界が開け,《量子的ミクロ世界こそホンモノで,古典的マクロ世界はそ れを「粗視化」して得られた粗い近似像に過ぎない》という感覚が当たり前になる。この 「視点の移動」と共に,量子的ミクロ・古典的マクロの間にはどちらの側からも越え難い 「断絶のカベ」が残される。しかし翻って考えた時,量子世界と古典世界がそのように隔 絶され,両者が全く別個の2つの世界だったとすれば,一体どういうことになるだろう か?

量子論の理論的内容が自然科学として正しいか否かを知ろうとすれば,理論から導かれ る予測を実験で確かめるよりほかに術はない。いかに「深遠な美しい理論」といえど,そ ういうチェックなしには現実世界と無縁の「絵に描いたモチ」に過ぎない。この目的には 「同じサンプル」を多数用意し,それらに「同一の」実験的操作を反復(時間的あるいは 並列的に)して加え,出てくる実験結果が理論的予測と「誤差の範囲で」一致する,とい う手続きを踏まなければならない。しかし,「ミクロ」=微視的=[装置の媒介なしでは 直接目に見えない]という定義からして,我々に実行可能なのは,目で見える何らかの 「マクロ変数」を介してミクロ系の状態とそれへの作用とを制御することだけである(い かに「自動化・computer 化」で人為操作を排除しても単に途中過程を階層化・ステップ 化するだけで,問題の本質は変わらない)。もし量子的ミクロ世界の本質が全て古典的 マクロ世界から隔絶した「不確定性」で尽くされるなら,「粗雑な」マクロ変数を用いた 「不確定な」ミクロ系の制御という「2階から目薬」のやり方で,「同じサンプル」, 「同一の」実験的操作の反復という実験的検証の意味づけに不可欠の「同一性」は,どう やって保証され得るのか?奇妙なことに,ミクロとマクロの間のこの深いミゾを埋め,両 者のつながりを保証する手立ては,これまで,量子・古典何れの理論からもこぼれ落ちた 勘と経験に頼る不確かな「直観」のみだった。実は,その橋渡しを理論化するための数学 的仕掛けがミクロ・マクロの双対性に隠されている。群と表現の間の Fourier-Pontryagin 双対性等,よく知られた例を参照しつつ,量子的ミクロと古典的マ クロの間には双対的・双方向的つながりが確かに存在して,量子世界の全てが全くの「不 確定」でもなく,決定論的でもない,ということをこの仕組みを通して垣間見ることにし よう。

 

[参考文献]

  1. 小嶋 泉,だれが量子場を見たか, 『だれが量子場をみたか』,pp.65-107 (日本評論社,2004).
  2. 小嶋 泉・谷村省吾, 双対性をめぐる物理学対話 -- 量子と古典,ミクロとマクロ,別冊『数理科学』 2007年4月号,特集「双対性とは何か---諸分野に広がるデュアリティ・パラダイム」,pp.34-44.
  3. 小嶋泉:「代数的量子論とミクロ・マクロ双対性」『数理科学』 2007年7月号, pp.18-23.


"http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/ja/special-02.html"

 

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Research Institute for Mathematical Sciences (RIMS)