数学入門公開講座 バックナンバー(講義ノート)

2015年8月3日-8月6日(第37回) 演題及び講師


ポアンカレ予想とリッチフロー                         助教・横田 巧

 ポアンカレ予想とは「任意の単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相であろう」という1904年の H. Poincaré による位相幾何学(トポロジー)の予想で、2002〜03年に G. Perelman がその証明を発表しました。実際には彼はポアンカレ予想を含む W. Thurston の幾何化予想を証明し、その証明には R. Hamilton が開発した(手術付き)リッチフローと、リーマン多様体の崩壊理論という微分幾何学の手法が使われています。彼の証明は多くの数学者達によって検証され、また今も沢山の研究を触発し続けています。
 この講義では、ポアンカレ予想の意味やその解決にまつわるドラマよりも、その証明の数学的な中身に踏み込み、受講者にその雰囲気が少しでも伝わるような解説を試みたいと思います。

天体ダイナモ理論の数理 -- なぜ星や惑星は固有の磁場を持っているのか?
                                        准教授・竹広 真一

 地球を始めとする数々の天体、たとえば太陽などの星や木星などの惑星は固有の磁場を伴っています。このような磁場は天体内部の電気電導性物質が流れることによって生じる「ダイナモ作用」により生成・維持されていると考えられており、その数理モデルが古くは20世紀初めから研究されてきています。本講義では、ダイナモ作用の基本的な性質の解説から始めて、ダイナモ理論の歴史をたどり、最後に近年可能となったコンピュータシミュレーション計算による研究を紹介しようと思います。

バナッハ=タルスキーのパラドックス                    教授・小澤 登高

 バナッハ=タルスキーのパラドックスは、球体を3次元空間内で幾つかに分割し、それらを回転や平行移動させてうまく組み合わせることによって、元の大きさの球体を2つ作ることが出来るという定理である。これは、1≠1+1と矛盾するようにも見えるが、分割したパーツに体積がきちんと定義できないゆえに起こりうる現象である。(また、各パーツを動かす時に他のパーツをすり抜けることが出来るものとしている。)従って純理論的にはパラドックスではなく、歴とした定理である。この公開講座では、体積や面積とは何かという話題から始めて、バナッハ=タルスキーの定理の紹介(証明)をしたい。

2014年8月4日-8月7日(第36回) 演題及び講師


乗法的情報による加法構造の復元     講師・星 裕一郎

 数や式に対するもっとも基本的な操作として、「加法(=足し算)」と「乗法(=掛け算)」があります。この加法・乗法という2つの操作は、非常に複雑に絡み合っており、例えば整数に関わる様々な問題の難しさは、ある意味において、この複雑な絡み合いに起因していると考えられます。一方、この絡み合いの1つの表れとして、数や式の適当な集まりに対して、そこで定義される加法を、その乗法的な情報によって記述・復元することができる場合があります。本講義では、そのようなタイプの数学的命題について、お話をしようと思います。

ビリヤードからシンプレクティック・トポロジーへ     助教・入江 慶

 解析力学のハミルトンによる定式化では、位置と運動量を組にして相空間というものを考えます。相空間の幾何、特にその大域的な性質を調べる分野をシンプレクティック・トポロジーといって、近年盛んに研究されています。ハミルトン力学系の周期軌道の研究はその起源のひとつで、現在でもこの分野の重要な主題です。
 講演の前半では、例としてビリヤード球の運動における周期軌道について考察し、バーコフによる古典的な定理を紹介します。この定理にはすでにシンプレクティック・トポロジーの一端が表れており、後半はそれを手掛かりに、より現代的な話題に進みたいと思います。

楽して計算するには −アルゴリズムの設計と解析     准教授・牧野 和久

 近年の情報化社会において、高速なアルゴリズムを設計することは極めて重要である。しかしながら、P vs NP問題に代表されるように、与えられた問題が効率的に解けるができるかどうかは、容易には分からない現状にある。
 本講義では、計算可能性,P,NPなどの計算量理論の基礎的な概念を説明すると同時に、高速アルゴリズム設計の意義や重要性を応用などを交えて議論する。その後、分割統治法や動的計画法などの高速なアルゴリズム設計のための手法およびその解析法を具体的な問題を用いて紹介する。
それ以外にも、NP困難な問題に対する最適化の手法を用いた近似アルゴリズムの設計法も議論する。

2013年8月5日-8月8日(第35回) 演題及び講師


型無しラムダ計算とモデル     助教・星野 直彦

 ラムダ計算は数学で日常的に行われる関数抽象や関数適用など関数についての操作を形式化したもので、関数型プログラミング言語の基礎理論として研究されています。またラムダ計算はCurry-Howard同型と呼ばれる対応によって論理学と強く結び付いている研究対象でもあります。論理学の研究に直観主義論理、二階論理、古典論理、線型論理など多くの論理体系が現れるのと同様にラムダ計算の研究には単純型付きラムダ計算、多相型ラムダ計算、ラムダミュウ計算、線型ラムダ計算と多様なラムダ計算が現れます。この講義ではその中で最もシンプルな型無しラムダ計算を扱います。型無しラムダ計算は関数抽象と関数適用のみを純粋に形式化した体系ですが、型の概念が無いために我々の直観が働かない「関数」が型無しラムダ計算の世界では定義できます。そのために型無しラムダ計算の数学的モデルの構成が容易でないなどの問題があり古くから多くの研究がなされてきました。この講義では型無しラムダ計算が型を持たないために起こる現象について他のラムダ計算との比較も交えつつ解説します。

クラッシュアイスの数理     講師・福島 竜輝

 液体に氷を入れて冷やすときに、同じ量の氷ならば砕いた方が冷却効率が良くなることは誰もが経験則として知っていることでしょう。しかし、なぜ/どれくらい、良くなるのでしょうか? 例えばもっともらしい仮説として「砕くと表面積が増えるから」ということが考えられますが、この仮説が正しいかどうかは数学的にはモデルを作って検証する必要があります。熱伝導はいわゆる熱方程式によって記述されると仮定し、氷は考えている領域のある部分の温度を0に保つ境界条件と考えるのが自然です。
 本講義ではこのような設定のもとで冷却効率が境界条件付きLaplace作用素の固有値で表現されることを説明し、さらにそれが氷を砕いたときにどのような振る舞いを示すかをお話しします。

Morse理論とFloer理論     教授・小野 薫

 空間をその上の関数を用いて調べることはよく行われる。中でも Morse理論と呼ばれる方法や考え方は、多くの重要な結果を導き、発展した。今回はそのような話題からいくつか取り上げる予定である。簡単な例を通して関数とその臨界点の説明をし、臨界点の存在が空間の性質とどう関わるのかを見ることから始め、Morse理論の考え方を説明する。
 最後には、Morse理論の類似である周期的Hamilton系に対するFloer理論について紹介したい。

2012年7月30日-8月2日(第34回) 演題及び講師


無限の対称性をめぐって  荒川 知幸

 有限次元単純リー環はディンキン図形によって分類されますが、その自然な拡張 としてKac-Moody代数と呼ばれる無限次元リー環があります。またこの仲間とし て、ビラゾロ代数や、もっと単純なハイセンベルグ代数などもあります。さらに 無限次元リー環の一般化として頂点代数と呼ばれる代数系も知られています。 無限次元リー環やその仲間たちが数学に登場したのは約50年ほど前で、長い数 学の歴史の中ではつい最近の出来事なのですが、今ではこれらは数学のさまざま な分野に登場しています。この講義では無限次元リー環やその仲間たちを紹介 し、その魅力について説明したいと思います。

グラフの剛性とマトロイド  谷川 眞一

 伸び縮みしないm本の棒部材とn個のジョイントで構成された平面トラス構造が剛 であるためにはm≧2n‐3が必要であります。この条件はJ.C.Maxwellの時代から知 られている古典的な事実であり、構造物の剛性がそのグラフ構造(棒とジョイン トの接続関係)に大きく依存している事を示唆しています。実際、殆ど全ての ジョイント配置において平面トラス構造の剛性は対応するグラフ上の組合せ的性 質によって特徴付け可能な事がMaxwellの結果から約100年後の1970年にLamanに よって証明されています。Lamanの定理自体は線形代数の基礎知識と単純なグラ フ理論の議論で証明可能ですが、なぜそのような特徴付けが可能かを理解するた めには、組合せ論・最適化分野に現れるマトロイドや劣モジュラ関数の理論が必 要となります。
 本講義ではグラフの剛性問題を話題の中心として、情景解析やCADなど離散幾 何学の幾つかの問題に共通に現れるマトロイドを紹介し、各問題における組合せ 的特徴付け定理について解説したいと考えています。

数体と位相曲面に共通する「二次元の群論的幾何」  望月 新一

 有理数体のような「数体」と、複数のドーナツの表面を合体させたような形 をしたコンパクトな「位相曲面」は一見して全く異質な数学的対象であり、初等 的な可換環論、つまり、「加減乗除」が可能な数学的対象としての構造の理論か ら見ても直接的に関連付けることは難しい。しかし数体の拡大体の対称性を記述 する「絶対ガロア群」と、コンパクトな位相曲面の有限次の被覆の対称性を統制 する「副有限基本群」を通して両者を改めて眺めてみると、「二次元的な群論的 絡まり合い」という形で大変に興味深い構造的な類似性が浮かび上がってくる。 本講義では様々な側面におけるこの種の類似性に焦点を当てながら、数体と位相 曲面の基礎的な理論について解説する。

2011年8月1日-8月4日(第33回) 演題及び講師


マルコフ連鎖と混合時間 ーカード・シャッフルの数理ー  熊谷 隆

 トランプをするとき、ゲームの前にカードがしっかり混ざるようにカードを切り(シャッフルし)ますが、何回くらい切ればカードがよく混ざってくれるでしょうか?この問題は、一般にマルコフ連鎖が定常分布に近づくのにかかる時間(混合時間)を調べる問題として設定することができます。このような定式化の下、トランプを大体7回切ればよく、しかも7回前後で急に「よく混ざった」状態になることが、今から20年ほど前にP. Diaconis教授らによって証明されました。
 この講義では、カード・シャッフルなどの具体例を念頭に置きながら、マルコフ連鎖とその混合時間について解説します。「急によく混ざった状態になる」という現象(cut-off現象)についても定式化し、具体例を通じてどのようなときにこの現象が起こるかについても触れたいと思います。

微分方程式の不確定特異点  望月 拓郎

 方程式を理解するための一つの指針は、与えられた方程式を簡単なものに変換することでした。 例えば、連立一次方程式は行列に関するなじみ深い操作で簡単な形のものに変形することによって理解できました。
 この講座で興味を持つ題材は、複素領域上の「可積分な線形微分方程式系」です。特に方程式の特異点のまわりにおける性質、いわゆる局所的性質に興味を持ちます。より粗い言い方をすると、特異点のまわりでどのぐらい簡単な形に変換できるか、が問題です。一変数の場合には、福原満洲雄を含む先人達による古典的な研究があり、確定特異点という比較的易しい特異点の場合にはモノドロミーによって分類されること、より難しい不確定特異点の場合にはモノドロミーとストークス構造によって分類されること、などが知られていました。多変数の場合にどうかを問うのは自然です。確定特異点の場合には一変数の場合とほぼ同様であることが以前から知られていました。一方、多変数の場合の不確定特異点の研究は最近になって進展があり、代数幾何におけるブローアップとよばれる操作を組み合わせることで、比較的簡単な形に変換できることが示されました。この講座では、一変数の古典的な話の復習から始めて、最近の発展までを概説したいと考えています。

特異点解消入門     川ノ上 帆

 爆発と呼ばれる操作を繰り返すことにより代数多様体を非特異なものに取り替えることを特異点解消といいます。廣中平祐先生は1960年代に標数0の場合に特異点解消がいつでも可能であることを証明し、フィールズ賞を受賞されました。今や特異点解消は標数0の代数幾何学において基本的かつ必要不可欠な道具となっています。
 廣中先生の証明は「廣中の電話帳」と呼ばれ長大さと難解さで夙に有名でしたが、近年の研究により大幅に簡易化されました。本講義では、超曲面の場合について特異点解消の証明を紹介します。時間が許せば正標数の場合の最近の進展についても簡単に紹介します。

2010年8月2日-8月5日(第32回) 演題及び講師


グラフ理論から組合せ最適化へ  岩田 覚

 ケーニヒスベルグの七つの橋を一回ずつ通る周遊路を求める問題が、オイラーの一筆書き定理によって否定的に解決され、グラフ理論の端緒となったことはよく知られています。それでは、全ての橋を少なくとも一回ずつ通って元の点に戻る周遊路のうちで、長さが最短のものを見つけるにはどうしたらよいでしょうか? このような問題設定は、20世紀の半ばになって提起され、線形不等式系の理論を援用した効率的な解法が与えられました。
 本講義では、この解法を中心に、グラフ上の最適化問題と多面体の整数性、アルゴリズムの計算量と良い特徴付けについて、解説します。

スライド

自然現象を数理的に理解する --自己組織化現象の数理解析--  上田 肇一

 自然界には、砂丘の風紋、雪の結晶、魚の模様など様々な美しい模様が存在し、そのような模様には規則的に見える幾何学的なパターンが存在します。そのようなパターンは、あらかじめ設計図が与えられているのではなく、粒子や分子などの個々の要素が、基本的な物理法則に従って運動することで模様を作ることから、自己組織化パターンと呼ばれています。自己組織化パターンは見た目に美しいという魅力に加えて、生命活動において重要な役割をしていることが知られており、現在、数学を含む様々な分野で盛んに研究されています。
 本講座では、自然現象を数学的に理解することを目的として、フラクタルや分岐理論といった数学的概念を、結晶成長や動物の模様などの身近な自己組織化パターンを例に、計算機シミュレーションと演習問題を用いながら説明します。また、計算機を用いて自己組織化パターンを再現する方法にも簡単に触れます。

極小モデル理論の発展  川北 真之

 代数幾何学の扱う対象は、代数多様体と呼ばれる、連立多項式の共通零点集合として定義される図形です。極小モデル理論とは、変数変換で写り合う代数多様体たちを本質的に同じものと捉え、各々の中から代表的な代数多様体を抽出する理論です。抽出の過程で多様体上の余計な曲線を収縮させるのですが、収縮によって悪い特異点を持つ多様体が生じます。それを回復させる操作がフリップと呼ばれる変換で、極小モデル理論において中心的な役割を果たします。3次元極小モデル理論は森によるフリップの存在を中心として90年代に完成しましたが、その高次元化は暫く模索段階でした。ところが2006年、ビルカー、カッシーニ、ヘイコン、マッカーナンは一般次元のフリップの存在を証明し、極小モデル理論は大きな前進を遂げました。講座では、このような極小モデル理論の最近の発展を、わかりやすく紹介します。

2009年7月30日-8月2日(第31回)


ディンキン図式をめぐって -- 数学におけるプラトン哲学  中島 啓

紀元前の哲学者プラトンは、正多面体が5種類しかないことを宇宙の基本原理としたそうです。現代数学のいろいろな分野に、この正多面体がディンキン図形として現れています。一次分数変換のなす有限群、リー環の分類、単純特異点の分類、箙の直既約表現の分類などがその例です。そして、これらの間にすぐには分からないが、隠された深い関係があることが次第に明かにされつつあります。これを数学におけるプラトン哲学と呼んでいます。この講義では、小学生にも分かると思われるクラスター代数の例から始めて、線形代数を知っていれば分かると思われる箙の表現論を紹介し、プラトン哲学を少し味わっていただこうと思っています。

『数学』を数学的に考える  照井 一成

数学にはいったい何ができて何ができないのだろうか。その可能性と限界を知りたい。そのために数学者の行う活動(定理を証明したり、反例を考案したり)を数学的に分析するのがメタ数学、ないしは数学基礎論と呼ばれる分野である。

本講義では、当分野における古典的な成果であるゲーデルの不完全性定理とその周辺について概説する。それが示唆するのは数学の本質的な限界であると同時に開かれた可能性であり、確固たる土台の非存在であると同時に諸理論が織りなす空間の豊饒さである。

方針としては算術階層に重点をおき、不完全性やさまざまな決定不能問題をその中に位置づけていく形で、統一的な解説を行う予定である。

多品種流の話  平井 広志

身のまわりには、様々なネットワークがあり、そして、その中に水や電気などの「もの」が流れています。 ネットワーク中の入り口から出口まで、どれだけたくさんの「もの」を流すことが出来るでしょうか?

 これに答えるのがFord-Fulkersonによる最大流最小カット定理です。最大流最小カット定理は、組合せ最適化の分野における最も基本的な「双対定理」の1つです。

 さて、ネットワーク中に互いに交じり合うことが出来ない、例えば水と油のような、複数の「もの」が流れている状況を考えましょう。これを取り扱うのが多品種流の理論です。 本講座では、最大流最小カット定理の多品種流への様々な拡張を紹介しながら、組合せ最適化における双対定理の考え方を学びたいと思います。

2008年8月4日-8月7日(第30回)


シューベルト計算入門  阿部 健

代数幾何の研究対象に「モジュライ」があります。「モジュライ」とは、然るべき幾何学的対象をパラメトライズするパラメータ空間のことです。曲線のモジュライ、射のモジュライ、ベクトル束のモジュライ、などいろいろなモジュライがあります。モジュライの構造を調べることによって、それがパラメトライズする幾何学的対象の性質が分かる、といったことがよくあります。

この講義では、直線や平面をパラメトライズするモジュライであるグラスマン多様体を扱います。「3次元空間内に配置された4本の直線全てと交わる直線は何本?」という様な、直線や平面の数え上げ問題を解けるようになることを目標にして、グラスマン多様体上の交点数の計算方法であるシューベルト計算を紹介したいと思います。

関数の歴史  岡本 久

関数は現在数学の中心にある概念であり、これを用いずに理論を展開できる数学の分野はあまりないし、あったとしてもそれほど面白いものとはならないだろう。それくらい重要な概念であるが、その歴史的発展について講義などで語られることは少ない。昨今の大学では、 最も重要な知識だけをできるだけ短時間に教育することが最優先されていることが多く、 数学の発展過程において天才数学者たちがいかに右往左往したか、 ということにふれている余裕がなくなっている。

本講義の目的は、 数学といえどもその発展には多くの挫折が伴っていることを例示することにある。 そして我々の知っている関数がどうして今の位置を占めるようなってきたのかを具体例を使って説明したい。

量子古典対応とミクロ・マクロ双対性  小嶋 泉

マクロの可視的世界の下に目に見えない広大なミクロ世界が広がっていることは、エレクトロニクスはじめ、その原理・法則を応用した工業技術の恩恵に日夜浴する現代社会の「常識」だが、粒子性と波動性を併せ持つ電子・光子,原子・原子核・素粒子が飛び交い「不確定性原理」が支配する魑魅魍魎世界に隠された豊かな含意は十分正確には伝わっていない:数学の言葉でなら容易に記述・了解可能な量子世界の本質が、日常言語で表現できないという障壁のために。他方、その奇妙なミクロ量子世界と既知のマクロ古典世界とがどうつながっているか?は重要な問題のはずなのに殆ど議論されることがない。この講義では、後者を考える視点が前者の扱いにも有効な役割を果たすことを見たい。

2007年7月30日-8月2日(第29回)


解けない微分方程式をめぐって  竹井 義次

解析学の創始以来、微分方程式を解くことは解析学の中心課題の一つでした。常微分方程式に対する種々の解法の整備と Cauchy-Kowalevskyの定理等を背景として、1950年代頃まで少なくとも線形の微分方程式は局所的には解けるものと信じられていたようですが、 1957年に H. Lewyが解を持たない線形偏微分方程式を発見して状況は一変し、その後超局所解析の導入と相まって線形微分方程式に対する理解は急速に深まりました。

この講義では、微分方程式が解けるかどうかについて、いくつかの例を題材として、実領域と複素領域での可解性の相違や微分方程式とその背後に存在するある種の幾何学との関わりに触れながら論じてみたいと思います。

R = T 定理の仕組みとその応用  安田 正大

TaylorとWilesは、谷山−志村予想を解決するために R = T 定理の基本的手法を確立し、それを用いてWiles は Fermatの最終定理を証明しました。 R = T 定理の背後には Galois群と保型形式とを結びつけるLanglandsの哲学があります。4回の講義は各回とも前半と後半とに分かれます。 講義の前半では、R = T 定理の仕組み、定理の背景となる Langlandsの哲学、Fermatの最終定理その他への R = T 定理の応用について、最先端の話題を織り混ぜながらお話しします。講義の後半では、前半で用いられる数学を理解するための第一歩となる基本的な概念について、参加者のみなさんに慣れ親しんでもらい、さらに理解を深めるための方法をいくつかご提案したいと思います。

プログラミング言語の意味論  勝股 審也

プログラミング言語の意味論とは、広い意味では文字列であるプログラムに何らかの「意味」を対応させる事である。普段、私たちはプログラムに対しコンパイラやインタプリタによって機械語や計算機の振舞いを対応づけ、それらを実際の計算機で動かすことで実用的な恩恵を受けている。

一方、プログラミング言語の理論的な研究においては、プログラムに対してその挙動を表現するような数学的な対象や構造を対応させ、それらを数学的な道具や知識を援用して分析することで、プログラムや言語の性質を調べるということをする。この対応づけを研究する分野を(狭い意味での)プログラミング言語の意味論と言い、これが私の講義のトピックである。

意味論には様々なスタイルがあるが、今回は二通りの意味論を紹介する。一つは操作的意味論と呼ばれ、計算機の上でインタプリタを実装するのに似た自然な意味論である。もう一つは表示的意味論と呼ばれ、プログラムに対しその入出力関係を表現する関数を対応させる意味論である。この二つの意味論の間には「観測可能な範囲においてプログラムに同じ意味を与える」という、 adequacyと呼ばれる関係が成り立つ。本公開講座はこのadequacyを目指して講義を進めたい。

2006年7月31日-8月3日 (第28回)


ベクトル解析、微分方程式、流体力学  大木谷 耕司

流体力学では「場」を取り扱うため、その記述は偏微分方程式によってなされます。 講義では、流体力学の問題を論じる際に必要な数理的な道具を復習し、 1次元のモデル方程式などへの適用例を具体的に紹介します。 偏微分方程式のベクトル表示、熱拡散方程式の解法などから始めて、 モデル方程式の解析・計算例へと進みます。 最先端の課題や、数値解析的な手法にも触れる予定です。

クンツ環の話   阿部 光雄

n次複素正方行列においてS*S=I (S*はSの随伴行列、Iは単位行列)が成り立てば、 S*はSの逆行列(すなわち、Sはユニタリ行列)となり、 SS*=Iも成り立ちます。この結果の導出で重要なのは行列の有限次元性であり、 無限次元ではS*S=IとSS*=Iは必ずしも両立するとは限りません。例えば、 S*S=T*T=I, SS*+TT*=Iを満たす行列は有限次元では表すことが出来ません。 クンツ環とは、このような関係式を満たす2個以上の等長作用素 (S*S=Iを満たす作用素)で生成されるC*環のことです。ここで、 一般に複素数体上の環で、 複素行列の随伴行列を取ることを抽象化した*(スター)演算で閉じているものを *環と呼び、更にある特別な性質をもつノルム(C*ノルム)について完備なものを C*環と呼びます。この講義では、 *環としての代数的な側面からクンツ環が持ついくつかの興味深い性質について紹介したいと思います。

ガロア理論とその発展   玉川 安騎男

ガロア理論とは、Evariste Galois (1811-1832) によって創始された、 代数方程式の解の置換に関する理論です。 その基本定理は「体」と「群」という代数学の基本概念を用いて述べることができ、 現在でも整数論の研究の中で最も基本的な道具の1つであり続けています。 この講義では、まず、 ガロア理論の基本定理の感じをつかんでもらうことを目標にしたいと思います。 次に、 ガロア理論の古典的に有名な応用(ギリシャ数学3大難問のうちの角の3等分問題と立方体倍積問題の否定的解決、 あるいは、5次以上の方程式の加減乗除とべき根のみを用いた解の公式の非存在の証明、 など)の中から題材を選んで解説したいと思います。最後に、 遠アーベル幾何など、現代の整数論・数論幾何におけるガロア理論の展開についても紹介したいと思います。

2005年8月1日-8月4日(第27回)


3次元多様体のトポロジー    葉廣 和夫

多様体とは、局所的にユークリッド空間であるような図形です。 トポロジー(位相幾何学)では、 連続的な写像で一対一の対応がつく2つの図形を「位相同型」であるといい、 同等なものとみなします。 1次元、2次元の多様体の位相同型については、よくわかっていますが、 3次元多様体についてはまだ完全にはわかっていません。 この講義では、3次元多様体の位相同型類たちのなす集合の構造を理解するための、 様々なアプローチについて、解説する予定です。

くみひもの数理    鈴木 武史

様々な色に染められた糸を交差させて組み上げる「くみひも」は、 ここ京都でも栄えた伝統工芸です。 くみひも職人は単純な工程を巧みに組み合わせて複雑な柄を組んでゆきますが、 数学者はこうした工程を「演算」や「作用」といった言葉を用いて解釈し、 くみひもの集合を「群」(演算を持った集合)として研究してきました。 講義では、この「くみひも群」について紹介し、 さらに、この素朴で一見単純な対象が、 位相幾何や統計力学等、数理科学の様々な分野の問題と絡み合い、 深い結果に結び付いている様子をお話したいと思っています。

劣モジュラ構造と離散凸性    藤重 悟

グラフやネットワークなどの離散システムに現れる劣モジュラ構造について論じます。 劣モジュラ構造は、 劣モジュラ関数と呼ばれるある種の集合関数とそれに付随して定義される多面体によって表現され、 効率よく解くことができる多くの組合せ最適化に顔をのぞかせます。 本講義では、 いくつかの具体例を通して劣モジュラ構造の本質とその面白さを伝え、 「劣モジュラ関数の理論」と、 近年、室田一雄によって展開されてきた「離散凸解析」への入門のお話をします。

2004年8月2日-8月5日(第26回)


この結び目はほどけるか?    大槻 知忠

ひもを結ぶと結び目ができます。 結び方をかえると、できる結び目もさまざまです。 では、どれくらい多様な結び目があるのでしょうか? 変形して互いにうつりあう結び目を同じ結び目とみなして、 数学的対象として結び目を研究する分野を結び目理論といいます。  与えられた結び目が同じであることを示すのは比較的簡単で、 すなわち、実際にそれらを変形してみせることによって同じ結び目は同じであるとわかります。 ちがう結び目が確かにちがうということを示すのは比較的難しく、 これを示すときに不変量というものがつかわれます。  この講義では、結び目のいろいろな不変量がどのように構成されるのかを解説します。 幾何的な量をいかに離散化して代数的にとりだしてくるのかという工夫に不変量のおもしろさがあるとおもいます。

円周率の公式と計算法    大浦 拓哉

円周率の計算は、アルキメデスの時代から現代にいたるまで、 さまざまな人たちによって行われてきています。 その計算公式と計算法には、その時代の高度な数学が用いられてきました。 この講義では、円周率の計算法を中心とするさまざまな数学的話題について解説する予定です。

不変式の話    向井 茂

2次方程式 ax2+2bx+c=0の判別式D=4(b2-ac)はよく知られている。判別式は高次の方程式にも一般化され、それが消えること(D=0)で重解の存在が特徴付けられる。 19世紀にBooleは方程式の係数の多項式の中で特殊1次変換でもって不変なものの全体を調べ、2次方程式や3次方程式では実質的に判別式しかないことを示した。しかし、4次以上の方程式ではこれは成立しない。多くの数学者の努力により方程式の不変式はよく解明され、一般の不変式研究の雛形となった。また、その研究過程からいくつかの重要な数学的概念も誕生している。より幾何的な例や具体的な計算を交えながら不変式論を説明してゆきたい。

2003年8月4日-8月7日(第25回)


大気と海の流体力学    山田 道夫

地球や惑星の大きなスケールの流体運動は、回転や重力の影響を受けるため日常身の回りの流れとは違った性質を持ち、しかもこれら奇妙な性質は天気の移り変わりや海流の道筋と直接に関わります。ここでは、これらの性質を紹介し、流体方程式との関わりについて説明したいと思います。現象への数理的アプローチと考え方、架空の惑星についての考察などを解説する予定です。

行列で表現する話    有木 進

連立方程式を解くとは、 $f_1(x_1,\dots,x_n)=0, \cdots, f_r(x_1,\dots,x_n)=0$ をみたす「数の組」 $x=(x_1,\dots,x_n)$ を求めることですが、ここでは $x_1,\dots,x_r$ が同じサイズの正方行列であるとし、関係式 $f_1(x_1,\dots,x_n)=0, \cdots, f_r(x_1,\dots,x_n)=0$ をみたす「行列の組」を求めることを考えましょう。このような問題は表現論という分野で考えられてきました。原理的にはどんな関係式を考えてもいいのですが、実際に研究されているのは数学や物理で自然に現れる関係式、つまり応用の見込めそうな筋のいい関係式だけです。 この講義では、線形代数で出てきた行列の標準形を表現論の見方で捉えなおすことから始めて、現代の表現論の一端をお見せするところまでご案内したいと思います。

複素解析と平面図形たち    山ノ井 克俊

複素数から複素数への関数で微分可能なものを正則関数と呼びます。この定義は普通の実微分可能関数、つまり高校数学に登場する実数から実数への微分可能な関数、の素直な拡張です。しかし、正則関数の世界では実微分可能関数の世界とはかなり趣のちがう、独特で見事な現象に出会うことができます。この講座の目標は、正則関数の世界にある「幾何」をいくつかの有名な定理を通して感じとって頂くことです。実微分可能関数との性質の違いが際だち、そこが面白い、という題材を選ぶ予定です。
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2002年8月5日-8月8日(第24回)


自己言及の論理と計算    長谷川 真人

自分自身について述べることの難しさと面白さは、日常誰でも経験することだと思います。  この講座では、数理論理学と計算機科学の密接な関係を示す好例として、自己言及から生じる様々なパラドックスなどの数理論理学における問題、また自分自身を呼び出すような再帰的なプログラムやデータ構造に関する問題などについて、統一的な視点から考察します。

積分の周期について    齋藤 恭司

円周率 \pi = 3,141592 ... (以下無限に続く)は円周の長さとして、積分 \frac{\pi}{2} = \int^{1}_{0}\frac{dx}{\sqrt{1-x^{2}}} で与えられます。\pi の様に超越的な数が右辺の様に、高々根号の入る積分で表示されるのは非常に面白いと思います。積分を不定積分にすると \sin ^{-1}(t) = \int \frac{dx}{\sqrt{1-x^{2}}} 三角函数の逆函数 (2\pi はその周期)となります。ガウスは更に、不定積分 \int \frac{dx}{\sqrt{1-x^{4}}} を考察して、複素変数の2重の周期函数(楕円函数の特別な場合)を得ました。この講義では積分の周期、又その高次元化等について考えてみたいと思います。

トーリックの世界    藤野 修

ユークリッド空間内の有限個のベクトルで張られた凸体を錐と呼びます。錐の集まりである扇が今回のお話の主人公です。扇から自然にトーリック多様体という代数多様体が構成できます。トーリック多様体の視点を導入することにより代数幾何の理論を扇の研究に用いることが出来ます。  一方、森理論は高次元代数幾何学の中心であり、現在も活発に研究されている大変難しい分野です。一般の代数多様体の世界ではまだまだ完成には程遠い状態です。しかしトーリック多様体の世界では森理論は扇の分割という非常に素朴な話になります。  講義では多面体や扇の分割という素朴なお話を題材にし、皆さんを広大なトーリック幾何学の世界の入口まで案内したいです。

2001年8月6日-8月10日(第23回)


電気回路とランダムウォーク    熊谷 隆

皆さんの中には、高校の物理でオームの法則・キルヒホッフの法則といった、電気回路についての法則を経験則として学んだ人も多いと思います。この講座では、これらの法則が離散調和解析と呼ばれる数学を用いてどのように表現されるかを学び、電気回路に対応するランダムウォーク(マルコフ連鎖)について考察します。グラフの上に電気回路を構成してそのポテンシャル論的な性質を学ぶとともに、電気回路の性が、対応するランダムウォークの性質にどのように反映するかを調べ、これらを用いた応用にも触れる予定です。

流体力学と流体数学    岡本 久

わが国の大学の数学教室では流体力学を講義することは少ないが、ヨーロッパの大学では数学教室で流体力学を教えることも多い. イギリスなどでは応用数学のかなりの部分を流体力学周辺で占めていることもある. 歴史的に見ても、 B. Riemann, H. Poincare, H. Weyl, A. N. Kolmogorov など、その人の主要な業績からは外れるけれども重要な流体力学の論文を書いてきた数学者は多い。  本講義の目的は、流体力学が数学の問題の宝庫であることを、具体例を通じて感じとっていただくことである。簡単な微分方程式は使うけれども、内容の大部分はグラフや流れの画像等を使って理解できるようにする予定である。

超弦理論の数学    高橋 篤史

物質や空間の基本構成要素が「点(素粒子)」ではなく1次元の空間的な広がりを持った「弦」であると考えることから, 超弦理論は始まりました. 現在では, 一般相対性理論と量子論の究極的統一理論, つまり万物の理論の最有力候補として, 理論物理学の表舞台で活躍しています.  数学と理論物理学は互いに刺激を与えながら発展してきましたが, 超弦理論はこれまで以上に数学の世界に非常に大きな影響を与え続けています. それは, 群論・表現論・保型形式・数論・代数幾何・シンプレクティック幾何・・・と広範囲にわたりますが, それも「弦」の持つ1次元の空間的自由度が理由です.  この講座では, 超弦理論の数学的側面について, 入門的解説および最新の成果の紹介をします. とくに, 「空間とは何か」という幾何学の基本的問題に対する超弦理論からのアプローチについて触れたいと思います.

2000年7月31日-8月4日(第22回)


球面の対称性    永田 雅嗣

「対称性」というのは、実生活にもなじみの深い概念です。「球面という図形にどんな対称性があるか」と問われれば、誰でも点対称、回転対称、面対称などのアイデアを思い起こすでしょう。  では、点対称や面対称が必ず周期2の対称性であるのは、なぜでしょうか。「周期3の点対称」のようなものがありえないことの理由をつきつめて考えていくと、図形のグローバルな性質をつかさどる、美しい数学が見えてきます。図形の定性的な性質と、定量的な群論とを結ぶ、変換群論と呼ばれる幾何理論を紹介したいと思います。

有理点の問題と符号暗号への応用について    伊原 康隆

代数曲線の有理点が符号、暗号(主に符号)の問題にどのように使われるかについて、入門的な話をしたいと思います。  体、とくに有限体とは何か(?)といったあたりから話をはじめ、代数曲線とその有理点、楕円曲線の場合、等についての基礎的な話をし、それらが符号、暗号に関する如何なる問題にどう応用されるかについて、その一端を紹介したいと思います。

離散と連続 − 微分方程式の数値解析    降旗 大介

「数えられるもの=離散量」と「数えられないもの=連続量」という素朴な感覚にたがわず、数学では離散量と連続量は異なった扱いを受けます。  しかし、離散と連続の間には、連続は離散の極限であるという直感を越えて微妙で意義深い関係があるらしいことが各分野の様々な結果によって強く示唆されていて、非常に興味深いものがあります。  本講座では、そうした離散と連続の関係の一端を紹介するべく、離散量を対象としアルゴリズムの構築と計算量の解析を柱とする計算機科学と、連続量を対象とし関数空間の解析を柱とする関数解析学とが合流する分野 − 微分方程式の数値解析 − を中心に講演を行います。

1999年8月2日-8月6日(第21回)


多項式の解の近似がとりもつ数論と幾何の関係    望月 新一

多項式の有理数解の研究は、歴史が長いだけに、樣々なアプロ−チを産み出しているが、二十世紀の後半に開発され、現在では数々の輝かしい成果を挙げているアプロ−チとして、現代数論幾何がある。本講義の目標は、その現代数論幾何の世界を紹介することにある。現代数論幾何の基本は、標語的にいえば、多項式の解の近似にあるといってもよい。つまり、有理数というものは、整数論の対象としては構造が複雑すぎるため、数論的にはより単純な構造をした実数や複素数のような数で近似することによって多項式の有理数解を調べるのである。このような近似解のなす集合は、有理数解のなす集合と違い、「滑らかな物質」で出来た幾何的な対象をなしていて、その対象の幾何的性質が、有理数解の性質に大きく影響することが知られている。

計算幾何学入門    田村 明久

平面上に与えられた有限個の点の集合に対して、これを含む最小の凸多角形を求める問題を(2次元)凸包問題とよびます。計算幾何学とは、このような幾何的な問題を解くアルゴリズム(解法)を 研究する計算機科学の一分野です。  本講座では、凸包問題のほかに勢力圏のモデルとして利用されるボロノイ図など、計算幾何学において基礎的な問題とそれらに対するアルゴリズムを紹介します。また、アルゴリズムの効率性の評価についてもふれます。

微積分をつうじて多様体が見える    宮岡 洋一

「多様体」は現代数学を理解する上で鍵となる概念です。  数学のなかでも最も古い伝統をもつ幾何学は、三次元空間という入れ物にはいっている図形という素朴な直感から出発したわけですが、百五十年ほど前のこと、リ−マンは、必ずしも入れ物を必要とせず、いくらでも高い次元をもてる、多様体の概念に到達しました。この概念は解析学を複雑な図形のなかで自由に展開することを可能とし、その結果として宇宙全体の幾何構造といったものまで考察することまでできるようになったのです。  この講義では、多様体の豊かな世界への入門として、積分を通じて解析(微分形式)と幾何(コホモロジ−)とがかかわりあう、その様子に焦点をしぼって解説したいと思います。

1998年8月3日-8月7日(第20回)


無理数、超越数

永田 誠

微分方程式と発散級数

竹井 義次

再帰的構造とアルゴリズム

西村 進

1997年8月4日-8月8日(第19回)


代数曲面の世界

中山 昇

数値積分と複素関数論

森 正武

超対称性の物理と数学

河合 俊哉

1996年8月5日-8月9日(第18回)


プログラミング言語、状態と型

Jacques Garrigue

リーマン面

古田 幹雄

漸近挙動を巡って:太鼓の形と酔歩

高橋 陽一郎

1995年8月7日-8月11日(第17回)


p進数と整数論

辻 雄

微分方程式とその応用

谷口 雅治

マトロイド理論とアルゴリズム

岩田 覚

1994年8月8日-8月12日(第16回)


代数曲線の幾何

森 重文

プログラミング言語の数理モデル

大堀 淳

楕円曲線と整数論

玉川 安騎男

1994年3月14日-3月17日


「非線形現象のモデリングとその数理」大学院生以上を対象

 生体系と非平衡過程

都甲 潔

 生態学と時・空間パターン

重定 南奈子

 電気回路と力学系

川上 博

 流体の乱れ

岡本 久

 化学反応と非線形性非平衡系

吉川 研一

1993年8月3日-8月6日(第15回)


論理とコンピュータ

服部 隆志

組紐群について

織田 孝幸

渦運動と乱流

大木谷 耕司

1992年8月4日-8月13日(第14回)


確率論の話題から

楠岡 成雄

「保証書」付き数値計算法

室田 一雄

時間とミクロ世界・マクロ世界

小嶋 泉

グラフと組合せ論

松本 眞

1991年8月6日-8月15日(第13回)


整数論・最近の話題

伊原 康隆

パソコンでできる偏微分方程式の数値解法

磯 祐介

ナビエ・ストークス流の話

木田 重雄

数学とコンピュータ教育

萩谷 昌己

1990年


開催しませんでした

1989年7月25日-8月3日(第12回)


定角曲線について

松浦 重武

微分方程式と数値解法

一松 信

確率・意思決定

楠岡 成雄

空間との長いつきあい

成木 勇夫

1988年8月2日-8月11日(第11回)


演算子法の話

松浦 重武

無限大の自由度と対称性

三輪 哲二

結び目の話

島田 信夫

代数方程式について

一松 信

1987年8月11日-8月20日(第10回)


曲面の位相幾何

齋藤 恭司

微分できない連続関数のお話し

笠原 晧司

計算機による数式処理

一松 信

対称性(及び反対称性)は自然界にどのように遍在するか

南 政次

1986年


開催しませんでした

1985年7月24日-8月1日(第9回)


四元数の話

荒木 不二洋

四元数の整数論

一松 信

金太郎飴と有平糖(アルヘイトウ)

松浦 重武

磁針のずれの幾何学

笠原 晧司

1984年7月24日-8月2日(第8回)


ゲームの理論をめぐって

一松 信

メビウスの問題をめぐって

松浦 重武

結び目と特異点

廣中 平祐

多次元立方体を切る

岩井 齊良

1983年(第7回)


暗号の数理

一松 信

カオスとフラクタル

宇敷 重広

グラフの理論と素粒子

中西 襄

接図形と無限小解析

松浦 重武

1982年(第6回)


ひまわりの渦

廣中 平祐

ユークリッド"原論"を読む

一松 信

ミクロの論理

荒木 不二洋

転と団子

松浦 重武

1981年


開催しませんでした

1980年(第5回)


数値計算の落し穴

一松 信

電気振動の話

上田 ヨシ亮

地底の物体の形について

松浦 重武

流体の数理

後藤 金英

1979年(第4回)


日本の洋算について

小松 醇郎

円形の池に浮かぶ中の島の形について

松浦 重武

確率模型の話

伊藤 清

素数の話

一松 信

1978年(第3回)


情報処理の数理

高須 達

偶然現象の微積分

伊藤 清

特異点とカタストロフィー

廣中 平祐

生物モデルの数学

山口 昌哉

1977年(第2回)


数と代数の話

松浦 重武

複素数と物理学

荒木 不二洋

記号列の数理

西尾 英之助

和算の話

一松 信

1976年(第1回)


集合の話

松浦 重武

数学と自然科学

佐藤 幹夫

シンメトリー(対称性)の話

吉澤 尚明

曲面の話

島田 信夫

確率過程の話

伊藤 清

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