冪零軌道の幾何と表現論
を半単純リー群とし、
をその Lie 環とする。
このとき、
に対して、
が冪零の時、 を冪零元といい、
冪零元全体のなす多様体を冪零多様体と呼ぶ。
もし が一般線型群ならば、冪零多様体は単に(通常の意味の)冪零行列全体のなす多様体である。
冪零多様体には随伴作用によって が自然に作用しており、その軌道を冪零軌道と呼ぶ。
これらの概念は対称空間に対しても拡張されており、例えば、 を の極大コンパクト群としたとき、 の(複素化された)冪零軌道と の冪零軌道は一対一に対応することが関口次郎(東京農工大)によって証明されている。 冪零軌道は の(無限次元)表現とも深く結び付いていて、 大域指標の Fourier 変換が冪零軌道上の不変測度の和でかけるなどの結果が知られている。 また、ある種の特殊なユニタリ表現(ユニポテント表現)が冪零軌道の自然な幾何構造から構成できるはずだと考えられており、 現在も活発な研究対象である。 この講演では、冪零軌道の幾何と表現論との関わりあいについて、自分の研究(や共同研究)をもとにその一側面をお話ししたい。 だいたい以下のような内容を講演する。
以下各項目について大まかに説明する。(講演では時間の制約から以下の内容をすべて話せないかも知れないが、その節はご容赦願いたい。) Weil 表現と極小冪零軌道、theta 対応Weil 表現はシンプレクティック群の極小表現である。 この表現の構成等を復習した後、極小冪零軌道との関わり、一般の極小表現への拡張について概観する。 さらに dual pair を用いて表現論的に定式化された theta 対応についても簡単に述べる。theta 対応は、特殊な場合には 柏原-Vergne を始め多数の研究があるが、一般的には R. Howe によって導入された概念であり、 保型形式の theta 積分を用いた lifting の理論を表現論的に定式化したものである。 Harish-Chandra 加群と随伴サイクルHarish-Chandra に始まる半単純リー群のユニタリ表現の代数的な理論は 1970 年代以降急速に発展した。 その原動力の一つとなったのは Vogan による一連の Harish-Chandra 加群 (HC 加群) の研究であろう。ここでは Vogan にしたがって HC 加群から、表現の不変量として、随伴サイクルと呼ばれる冪零軌道の形式和を構成する方法を紹介する。 また、例として特異最高ウェイト表現の随伴サイクルが theta 対応を用いてどのように計算できるのか(落合啓之(名大)、谷口健二(青学大)との共同研究)、 とか、山下博(北大)による等方表現との関連づけや一般化された Whittaker モデルとの関連についても紹介する。 冪零軌道の持ち上げ (lifting) と不変式論シンプレクティック群 とそれに含まれる reductive dual pair を考えると、 自然にモーメント写像 が定義され、 適当な複素化を考えるとそれぞれの極大コンパクト群の複素化による不変商写像となることがわかる。これらのモーメント写像を用いて、 の冪零軌道の間に対応がつくこと、 その対応を用いた球冪零軌道の構成などについて述べる。 同様の対応が、太田琢也(東京電機大)により、ある種の Lie 環の位数 4 の巡回的自己同型を用いて精力的に研究されている。 また、アプローチは異るが、最近 Daszkiewicz-Kraskiewicz-Przebinda によっても同じ結果が得られている。 theta 対応と随伴サイクルdual pair が安定域と呼ばれる領域にあるとき、theta 対応によって随伴サイクルが保存されるであろうと予想されている。この予想に対して、 のユニタリ最高ウェイト表現の theta lift では、 随伴サイクルが保存されることが最近 C.-B. Zhu (NUS) との共同研究で証明できた。 証明の過程で、theta lift した表現の タイプ分解の具体的表示なども得られ、 特に自明な表現の持ち上げでは極小表現を含むかなり小さな表現が現れることもわかる。 自明な表現の theta 対応に関しては、C.-B. Zhu を始め、E.-C. Tan, S.-T. Lee, J.-S. Huang などによっても精力的に研究されている。 以上の結果を、証明の着想点を中心に紹介する。 |
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